vol.215 ダムから川へつなぐ意味

「総貯水容量で日本最大の徳山ダムの水を、トンネルの導水路で約43キロメートル先の木曽川まで延々と流そうという計画である。愛知県・岐阜県・三重県を流れる木曽川・長良川・揖斐川は木曽川水系と呼ばれ、一体として水資源開発が行なわれてきた。だが水需要の減少と、長良川河口堰や徳山ダムなどの建設により、この地域は完全な水余り状態なのだ。そのため、この導水路建設は2009年から休眠状態だった。しかもその14年前に、導水路事業からの撤退を表明し、凍結へと追い込んだのは河村市長本人だった。」と語るのは、フォトジャーナリストの伊藤孝司さん。

 私が岐阜に移り住んで間もない頃、バイク(50cc)で岐阜市内の高島屋の前を走っていた時、路面電車(今は撤去された)のレールでスリップして転倒。しかも路面電車の真ん前で。多数の視線を感じながらバイクを起こし、とぼとぼ歩いて自宅へ帰る途中の金華橋で足がとまった。西の空の夕日と川面に映る夕日が、私のしょぼくれた心に直球で飛び込んできたのです。「なんてきれいな景色。なんて美しい川面。これが長良川。この美しい川を私は忘れない」と、胸に刻んだのでした。
それから間もなく、長良川河口堰建設の話が再浮上(1959年に河口堰計画が作られた)。1988年、天野礼子氏が、長良川河口堰建設の反対を始めた。本能的・直感的に私は反対運動に飛び込んだ。私の原風景である長良川を守りたい一心だった。「長良川ネットワーク」というA3二つ折りの情報紙の編集を担当。しかし、1995年に、河口堰運用が始まってしまった…。
 反対運動は熱を帯び、長良川DAYという全国規模のイベントで毎年多くの人と交流し、賛同を得たかに見えた。折しも政権は社会党が覇者となり、村山政権となった。これで完成された河口堰も閉めることはないだろうと皆が思っていた。だが1995年7月6日、当時の建設大臣の命で閉門された。その日大雨の中、私たちは河口堰を閉門させまいとゴムボートに乗って抗議をしていた。すると水資源開発機構の人から「ここは危険ですから立ち退いてください」と言われ、「この堰は安全じゃないのか」という応酬も徒労に終わり無念を胸にボートを降りた。この運動は「公共事業の見直し」を成果とし、今は「河口堰開門」に向けて運動は続いている。

「長良川河口堰は、工業用水の水源確保を最大の目的に建設された施設ですが、未だ一滴の水も工業用水に使われていません。使われているのは僅か16%で水道水として使われていますが、住民からは「まずい!元の水源に戻してほしい」と声が上がっています。海と川を分断した河口堰の下流側には約2mのヘドロ層が堆積し、日本でも有数のシジミ漁は大きなダメージを受けました。堰き止められた上流側は、潮の干満がなくなり、水面は上がったままとなりました。長良川下流域生物相調査団の報告書によると、広大なヨシ原は水没し90%が消滅。そこに生息していたオオヨシキリは1/4程度に減少し、多くの生き物の棲みかがなくなりました。」と長良川市民学習会 武藤 仁さん。

武藤さんが事務局長を務める、長良川の環境改善を目指す市民団体などでつくる「よみがえれ長良川実行委員会」による 討論集会「長良川に徳山ダムの水はいらない」が2023年6月11日、長良川国際会議場で開かれたので即駆けつけた。

基調講演で岐阜大学教授・向井貴彦氏。「清流・長良川のためには何が必要なのか?」がテーマ。以下概要。

揖斐川・長良川・木曽川の自然は同じなのか?
木曽三川は、揖斐川・長良川・木曽川。濃尾平野を流れる下流域はかつて網目状につながっていたことから、一つの水系として考えられがち。行政的にも「木曽川水系」としてまとめられている。木曽三川は地質的にも岐阜県東部の木曽川水系(飛騨川含む)と西部の揖斐川・長良川は異なっている。木曽川は渓谷が発達し、多数のダムが建設されてきた。長良川は、両岸が開けておりダム建設には不向き。

木曽川水系連絡導水路は「環境」をよくするのか?
この導水路事業は、長良川と木曽川の渇水時に徳山ダムに貯留された水を導水して環境を維持するためとしている。遺伝的に異なる魚類などが混ざると遺伝的撹乱と呼ばれる自然破壊となる。そうなれば生物多様性の保全という観点から明確にマイナス。予防原則的には水系間での生物の移動を生じさせることはしないでほしい。特に外来種は繁殖力が強い。揖斐川ではコクチバスがものすごい勢いで繁殖していて、鮎が危ない。導水路で徳山ダムの水を利用するというのは、水質的にはNGです。最大の懸念は徳山ダムで毎年生じる淡水赤潮、アオコ。特に、長良川や木曽川が渇水となるような場合に、徳山ダム湖のアオコがどうなるかは大きく懸念される。

様々な長良川の環境問題として

「現在、世界的には『30by30』という目標が掲げられている。30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは、2030年までに陸・海それぞれ30%以上の面積を健全な生態系として効果的に保全しようというもの。これは、効果的に自然の劣化を防ぐには、まずは自然が適切に保全されている場所を一定面積以上、維持することが必要だという考え方に基づいています。
長良川河口堰は、堰を解放すれば自然環境への問題は解決する。それに対して、揖斐川や木曽川のダムは恒久的な構造として建設されており、河口堰の解放のようにはいかない。清流・長良川は、様々な事業で自然を失いつつあるが、木曽三川の中では最も回復できるポテンシャルがある。
こうした状況において、自然環境を劣化させる事業をさらに積み上げるのか、30by30を目標とする時代において自然環境を回復させる方向に舵を切るのか。世界に誇れる清流長良川へと蘇らせてほしいと願わずにいられない。」と結んだ。

私が住む市では、既存の体育館が「大規模のスポーツ大会ができない」、「駐車場に限界がある」などの理由で、こともあろうか湿地帯(農地)に新総合体育館を建設しようとしている。その湿地帯には、新丸山ダム建設時に出る残土を充てがうという。さらに特別支援学校が新設される。市庁舎も完成に向け工事真っ只中。(業務は新庁舎で行われている。残すは駐車場だ)巨大公共事業は巨大な金が動く。全て税金だ。この負の遺産を次世代につないでしまうことになる。そんな「つながり」は責任ある大人たちが断ち切らなければ。
 木曽川水系連絡導水路事業も巨大な税金が使われる。6月11日の討論集会には約100人が参加(主催者発表)。・声を上げること・ムーブメントを起こすこと・事実を知ること。この3つはとても重要なこと。人任せにせず自ら発信者になること。この討論会に参加して改めて思いました。

 





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