リニア中央新幹線の残土処分場が計画されている岐阜県御嵩町の「美佐野ハナノキ湿地群」(美佐野湿地)。環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」(重要湿地)に2016年に指定されていた事実を、同町とJR東海が長年にわたって伏せてきたことに町民が反発。問題は未だ、解決の糸口さえ見出せません。 井澤宏明・ジャーナリスト
美佐野は「最後の砦」
御嵩町、ようやく認める
1月21日に開かれた第5回「リニア発生土置き場に関するフォーラム」。御嵩町は、残土処分場候補地A、Bすべてが「重要湿地」だという認識を初めて示しました。これまでは処分場候補地の一部だけが重要湿地だとして、環境省のレッドリストで「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されているハナノキ群落の伐採を避けるよう配慮したというJR東海の計画を擁護してきました。
渡邊公夫町長は、処分場候補地が「重要湿地」に指定されていることを頑なに否定する発言を繰り返してきました。前回も記したように昨年11月10日の第4回フォーラム後には、「重要湿地に残土処分場を作ることは適切ですか」という筆者の問いに、「私は重要湿地に隣接してるっていう解釈です」と答えています。
残土処分場候補地すべてが重要湿地に含まれるという認識を町が示した以上、さすがの渡邊町長も否定できないはずです。第5回フォーラムの後、改めて直撃しました。
――前回、「重要湿地は候補地の隣接地だ」とおっしゃったが、これは間違いということでいいですね。
「解釈の違いってことですよね。きょうの先生方の説明で、(候補地)全体がそういう(重要湿地という)解釈になるっていうのは認識はしました」
――重要湿地という認識になったということですね、候補地が。
「ええ」
なかなかご自身の誤りを認めたくないようです。
「世界的にも屈指の規模」
2月5日には、環境省の担当者や専門家を招いて町主催の「重要湿地の保全に関する勉強会」も開かれました。
登壇した富田啓介・愛知学院大学准教授(自然地理学)は、「湧水湿地研究会」の会長を務め、環境省が2016年に「日本の重要湿地500」を見直し633か所に拡大した際、美佐野湿地を指定するよう推薦しました。
富田准教授は勉強会で、美佐野湿地の特徴について、「ハナノキの個体数で屈指の規模を誇っている。ハナノキは東海地方の固有種なので、世界的にも屈指の規模だということ」と述べ、これまでの調査で80本ほどの成木が確認され、ハナノキが自然に生えている「自生地」の中でも5本の指に入ると紹介しました。
さらに、多くのハナノキの自生地の面積が0.5ヘクタール未満なのに対し、美佐野湿地は2ヘクタール以上あることや、胸高直径(胸の高さの直径)が30センチ以上の大木が多く、樹冠(枝ぶり)が非常に大きいものが多い点でも「貴重だ」と指摘しました。
遺伝的な多様性にも言及。美佐野湿地を含めた御嵩地域のハナノキ自生地はそれぞれが近くにあっても遺伝的な系統が異なっているという専門家の研究成果を挙げ、「それだけ多様性があるということは、昔は多分、たくさんのハナノキの大群があり、多様に分化していったものが今残っている(と考えられる)。美佐野は大きく残されているので、『最後の砦(とりで)』の一つと言える」と力説しました。
会場の町民からの質問に答える形で富田准教授が「正直な気持ちを申し上げると、(美佐野湿地を)そのまま残してほしいと思っています」と本音を漏らすと、会場は大きな拍手に包まれました。
西村明宏環境大臣は2月7日の記者会見で「(美佐野湿地を)基本的には、できれば残してほしいという方針でしょうか」という記者の質問に次のように答えています。
「環境省とすれば、自然環境を守るということは重要なことだと思っておりますけれども、(中略)重要湿地に選定することによって法的な規制が生じるものでない現状において、事業者、住民、自治体の皆さんとしっかり協議をした上で進めていっていただければと思っています」
昨年5月に始まったフォーラムも残すところ1回。このような混迷の中、御嵩町は判断を下せるのでしょうか。