vol.210 夢か悪夢かリニアが通る!vol.39

「2027年開業は幻想」――。静岡県の川勝平太知事が9月7日、神奈川県のリニア中央新幹線建設工事現場を視察した際の発言が波紋を呼んでいます。  井澤宏明・ジャーナリスト

 

不都合な「真実」

 

相模原市緑区鳥屋の関東車両基地予定地。住宅の基礎だけが残り、虫が盛んに鳴いていた

「2027年開業は幻想」
川勝知事は、神奈川県相模原市の藤野トンネル(大洞非常口)と神奈川県駅(仮称)の建設現場を視察しました。移動の途中、相模原市緑区鳥屋の「関東車両基地」予定地に立ち寄りました。ところどころに住宅の立ち退き跡があるものの多くの住民が生活を続け、着工もしていないのを目の当たりにして、工期が大幅に遅れるのを実感したそうです。
なぜなら、JR東海が2014年8月に公表したリニアの環境影響評価書資料編(神奈川県)には、関東車両基地の着工から完成まで11年かかると書かれているからです。
「もしJR東海の公表通りなら、来年春から始めても11年かかる。もう2027年(の開業)どころじゃありません。(神奈川県が)それを知らないということであれば大問題。(JR東海が)知らせなかったというのは情報の秘匿。不都合な真実は言わないということはあってはならない」。川勝知事は語気を強めました。
さらに、静岡県が7月に加盟したばかりの沿線10都府県で作る「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」や自民党の「超電導リニア鉄道に関する特別委員会」の会合で、リニア工事について出席者が口々に「順調に進んでいる」と話していたことを紹介して次のように述べました。
「案外、現場の状況をご存知ないままに、2027年がお題目のようになって、できるものだというふうな幻想を持っていらっしゃる」

「火消し」に躍起
川勝発言を受けて神奈川県の黒岩祐治知事やJR東海の金子慎社長はすぐに「火消し」に走りました。黒岩知事は翌9月8日、次のようなコメントを出しました。
「金子社長は、静岡県の工事にまだ着手出来ておらず、2027年の品川―名古屋間の開業は難しいとする一方、(関東)車両基地については、用地の取得ができた箇所から工事を進め、2027年までの整備を目指すとしており、車両基地が全体のスケジュールに影響を及ぼすことはないと考えています」
黒岩知事はフジテレビで報道記者やディレクター、キャスターを務めてきました。にも関わらず、金子社長がかねてから繰り返してきた、静岡のせいで開業が遅れるという「静岡悪者論」を引用するだけでした。
一方の金子社長は8日、川勝知事に会談を申し入れ13日、2年ぶりのトップ会談が非公開で行われました。「着手に理解と協力をお願いしたが、具体的なコメントをもらえなかった」と終了後、金子社長がこぼしたように成果は乏しかったようですが、それもそのはず。国土交通省が20年4月にスタートした有識者会議では今年6月から、南アルプスの環境保全についてようやく議論が始まったばかりなのです。
そもそも、20年6月26日に開かれた前回のトップ会談では、金子社長は6月中の静岡工区のヤード整備着工を迫ったうえで、「今ダメだと言われちゃうと、2027 年は難しいなと」と明言しています。それから2年余りたっているのに、「2027年開業」の旗を下さないのです。
筆者は川勝知事の視察翌日の9月8日、関東車両基地が計画されている鳥屋を訪ねました。県の無形民俗文化財「鳥屋の獅子舞」で知られる鳥屋諏訪神社の近くでは、車両基地予定地から移転する住民のための住宅造成が進んでいました。車両基地が計画されている集落に近づくと、ロープに「JR東海管理地」という札が掲げられ住宅の基礎だけが残る生活の跡が点在していました。
地元自治会でリニア対策委員会の幹部を務める男性に偶然、お会いしました。車両基地の着工について聞くと「まだ2、3年はかかるんじゃないか」と答えました。車両基地造成用の土砂などを運ぶ工事車両が通る道路をどうするかさえ、まだ決まっていないからだといいます。
工期が11年だとすると、完成は2035年から36年。リニアに伴う移転や再開発、道路工事は今も沿線各地で27年開業を目指して行われています。「不都合な真実」はいつになったら明かされるのでしょうか。

 

 

 

 

 





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