vol.209 誰のための憲法改「正」?

日本国憲法に関しては、どんな勢力がどんなに多くなっても、国会だけでは変えられない、という憲法になってます。これは日本国憲法の素敵なところです。
私は憲法の前文を読んで泣いてしまいました。あまりの美しさに感動して。今も読むたびに私は日本人でよかったって、世界の憲法になったらいいのにと思っています。

日本国憲法3つの特色
1-基本的人権の尊重 2-国民主権 3-平和主義

学生さんのところへ憲法の出前講座をさせていただく時に、日本国憲法前文で自分の好きな箇所を一つ選んでとお願いするんです。だいたいの学生は “政府の行為によって、再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。”この部分を選ぶ人がとても多いんです。
つまり、「戦争は政府が起こす」ということ。戦争が起こることがないようにすることを「決意し」とあります。誰が決意したのでしょう?大概は政府って答えます。国が主語ですか?主語は私たち、国民です。国民はつまり私は、国家の名誉にかけて、全力をあげて崇高な理想<戦争しない、他国を尊重する、全世界の平和を願って動く>それを達成することを、私が誓った。つまりみなさんが誓った、ということです。そこを信頼して、国際関係を保っていくよということを日本国憲法は決めたんです。
いつ決めたのか?第2次世界大戦が終わって無条件降伏をし、自分の家族や親族にたくさんの戦死者や市井の人たちが、日本だけで320万人が命を落としています。その後に「平和」を望んで憲法を作り、そして誓ったのは、私たちなんです。
だから国が決めて、国に言われて・・・となると私たちの生活には関係ないわ、となりますけど、そんなことはないんです。ここすごく大事ですよ。

では質問です:憲法を守るのは誰でしょう?
1、天皇又は摂政 2、国会議員など公務員 3、国民
実は3分の2以上、もしくは半数以上の人が、国民が守ると思っているんです。違います。国民は守るんじゃなくて権力者(為政者)に守らせるのが憲法なんです。

参議院選挙が終わり、自民党が単独過半数を取得しました。これに維新の会、国民民主党が揃って憲法改正に向けて動き出そうとしています。

自民党の草案のようなものがこれから発議されようとしていますが、これはただ自民党の案です。自民党は憲法の中に国防軍を設けたいんです。主権者である私たちがちゃんとした平和への意志を持たないと、攻められた時に防衛力をあげなきゃってことにつながっていきます。前の政権では軍事費をGDPの1%から2%にしました。2%ってすごい数字ですよ。
戦争をしない国が戦争をできるようにするには、憲法を変え、法律的、憲法的に政府がやることは正しいという体制を整えることから始まります。みんなの知らないうちにこっそりと変えていく、というのが今までの歴史です。
ロシアとウクライナの時でもわかります。ロシアが攻めてきたんだから、ウクライナが国を守るために戦うのは当たり前。間違ってはいないんですが、ロシアが攻めてきた2月24日、ゼレンスキー内閣は24時間以内に緊急事態宣言を出して、18歳から65歳までの男性は国外退去はダメという法律を作り、多くの女性も含めて武器を持ってロシアと戦えという姿勢を打ち出しました。法律を作って国民に戦わせています。
でも、日本は基本的人権が尊重されています。国を守るために何かをせよといわれることはないんです。自分は戦いたくない、外国に逃げることも自由です。自衛隊に入らないことも自由。自発的に入ることは別ですよ。仮に今、戦争が起きて出兵せよって言われても「NO」と言える。戦わない選択ができる。自分の自由が奪われないということが、今の日本国憲法なんです。なんども言いますが、その憲法を守るのが天皇、国会議員をはじめとする為政者です。

人権が保障されている日本国憲法
そこで大変重要となる「永久に保障された基本的人権」についてお話ししたいと思います。
日本国憲法では、「現在および将来にわたって保証される」、とあります。為政者から与えられたり、奪われたりしない、ということです。
基本的人権が一番抑圧されるのはどんな時でしょうか。最大なものは戦争です。大日本帝国憲法では徴兵制がありました。20歳になると男性は否が応でも検査をされて体が弱い人でない限り兵隊に取られ、太平洋戦争の末期には病弱でも45歳でも、兵隊としてもたないだろうという人以外は招集されました。

日本国憲法 第3章 国民の権利及び義務
第11条を読んでみましょう。
「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在および将来の国民に与へられる。」
将来にわたって戦争に行かなくていいと守られているのは大きなことだと思います。さらに97条に書き加えてある条文を読んでください。
第10章 最高法規 97条:この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得に努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
すごく厳重に書いてありますね。信託とは誰かを信頼して、託するからよろしくねということ。ではこの基本的人権を信託したのは誰?ここにある、過去幾多の試練に堪えた人々ではないでしょうか。つまり18、19、20歳と若い男性が徴兵され、異国の地で戦争で死んでいった人たち、青春のない、家族を作ることもなく命を奪われた人たち、あるいは日本本土で全財産を奪われたり、親族を奪われたり…いろんな人がいました。それらの人たちが試練に堪え、それでも生き延びてきたとき、これからどんな日本を作りたいかって考えたときに、自分らしく生きられることを、国によって犯されないこと、ということを信託したのです。

自民党草案を見てみましょう。
11条:国民は、すべての基本的人権の享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。「現在および将来の国民に与へられる。」がスポッと削られています。さらに自民党草案では97条が全部削除されています。信託もしたくないし、国民はそんな権利を持っていない、ということです。

憲法を改正?改悪?
私たち自身が不安に思ったりせず、冷静に見て、「だめ!何やってるの!」という単語じゃなくて、きちんと「憲法改正したいの?どこをどう変えるの?聞きますよ。私たちは主権者ですから」。それで、YES or NOを出し合って、みんなで話し合って決めるというプロセスは日本国憲法で保証されているんです。全然不安じゃないです。不安なのは、自分たちは専門家じゃないし、あれだけ言われている(ほとんどはテレビやマスコミの報道)のだからと、皆が思い込んでしまうことです。マスコミだけが情報元ではありません。自分の信頼している人、この勉強会で「どう思う?おかしいよね、調べてみよう」って、私たち自身が考えるという経過を放棄しなければ、決して間違った方にはいきません。
国会が発議して、国民投票で半分以上NOと言えば変わらないです。よくなる改正ならイエスにしましょう。憲法を変えてはいけない、ということはないです。変えたくないのは、私たちが主権者であること。権力のある人が私たちに命令しない憲法であること。それは基本的人権の尊重、ということですから。

憲法改正の過程は?
1憲法改正の国民への提案
国会議員により憲法改正案の原案が提案され、衆参各議院においてそれぞれ憲法審査会で審査されたのちに、本会議に付されます。 両院それぞれの本会議にて総議員の3分の2以上の賛成で可決した場合、国会が憲法改正の発議を行い、国民に提案したものとされます。
2国民の承認
憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数の2分の1を超えた場合は、国民の承認があったものとなります。 ※憲法を改正するところが複数ある場合、憲法改正案は、内容において関連する事項ごとに提案され、それぞれの改正案ごとに一人一票を投じることになります。


馬場 利子●ばば としこ 「すこやかな命を未来は〜」を合言葉に、一人一人が幸せを実感できる暮らしを実現するため、仲間とともに、小さな時間を持ち寄り、『丁寧に生きる』活動を続けている。環境省環境カウンセラー、環境再生医。著書に『未来のページは「私」が創る』(地勇社)など。