vol.205 夢か悪夢かリニアが通る!vol.34


初の犠牲者、そのとき

岐阜県中津川市のリニア中央新幹線「瀬戸トンネル」瀬戸非常口掘削現場で10月27日午後7時20分ごろ、2人が死傷する事故が起きました。リニア工事で死者が出たのは初めてのことです。JR東海は山岳トンネル掘削工事をすべて一時中断しましたが11月1日から順次再開。8日には、長野県豊丘村の伊那山地トンネル「坂島工区」で作業員が右足に軽傷を負う事故が起きてしまいました。相次ぐ事故の背景にJR東海の「焦り」を感じている住民もいます。                      井澤宏明・ジャーナリスト

2度の崩落が起き、2人が死傷した事故現場(JR東海の公表資料から)

繰り返す事故
JR東海によると、死傷事故の現場は本坑(リニアが走る本線トンネル)につながる全長約600メートルの斜坑(乗客が避難する非常口トンネル)。
掘削最先端の「切羽」でダイナマイトによる発破をかけた後、44歳の男性作業員が点検のため近づいた際、岩石などが崩落する「肌落ち」で足が埋まり、52歳の男性作業員が助けようとしましたが2度目の崩落が起き、44歳の男性は下敷になって死亡、もう1人は左足を骨折する重傷を負いました。
坂島工区事故では計10トンの土砂が崩れ、長野労働局長は「一歩間違えれば死者が多数出る可能性があった」と指摘しました。
2つの事故現場に共通するのは、工事が遅れていることと着工から時間がたっていないこと。瀬戸トンネルは昨年初めに着工する予定でしたが1年3か月強遅れの今年6月、坂島工区は3年半強遅れの7月に着工しました。
リニア工事の事故は2年に一度起きています。2019年4月、中津川市の中央アルプストンネル「山口非常口」で陥没事故が起きました。けが人は出なかったものの、住宅と隣り合う雑木林が直径約8メートル、深さ約5メートル陥没。17年12月には、長野県中川村で関連トンネルの発破により土砂が崩落、生活道路をふさぎ、住民は凍結した峠道の通行を強いられました。
山口非常口事故の際、岐阜県は環境影響評価審査会に地盤委員会を「新設」する異例の対応を取り、知事意見書を出しました。
この中で事故原因を、不安定な地質状況なのにも関わらず、ふさわしい工法を採らなかったためと指摘、より慎重な工法を採ることを求めました。JR東海は地質専門職員を常駐させたり、先進坑を掘ったりする対策を示し約7か月の中断後、工事を再開しました。ところが、犠牲者を出す最悪の形で事故は繰り返されてしまいました。

JR東海「大きな影響ない」
「(県内)3回目の事故はあってはならない」と岐阜県リニア推進室の担当者は言い切ります。各県で山岳トンネル掘削工事が再開される中、古田肇知事は11月29日、JR東海の金子慎社長と面会、原因究明と再発防止策が講じられるまでは県内4ヶ所のトンネル工事を再開しないよう求めました。
大井川の水問題などで着工できない静岡県の「外堀」を埋めようとするかのように、沿線各地で着工が相次いでいます。そこにJR東海の焦りを感じている人たちもいます。沿線住民などでつくる3団体は11月9日、すべてのリニア工事をいったん中止し、死傷事故の原因を徹底調査することをJR東海に申し入れました。「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」共同代表の天野捷一さん(76)は記者会見で「JR東海は非常に工事を焦っていて、無理やり進めようという傾向がだんだん顕著になっている」と不安を露わにしました。
一方、JR東海は死傷事故後の記者会見で、品川―名古屋間の開業までの全体の工期に「大きな影響はない」と断言。坂島工区事故では、長野県や豊丘村への連絡が約4時間後と遅れ、事故があったことをホームページで公表さえしませんでした。
リニア反対の姿勢をとるJR東海労働組合は10月28日、会社との協議の席で、事故の犠牲者への黙とうを提案しましたが、会社側は拒否したそうです。宇野護副社長は11月24日、事故を受け開催した施工会社との協議会初会合で「一連の『事象』に対する世の中からのご反応といいますか、厳しい、大変厳しい反応があったと思います」と発言、「事故」を「事象」と言い換えてしまいました。そこに事故に真摯に向き合う姿勢は見られません。





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