vol.205 ボーダーレス社会をめざして vol.64

「転ばぬ先の杖」はいらない
NPO法人オープンハウスCAN 理事長 伊藤佐代子

書道教室でハガキ大の色画用紙に季節の言葉を書いて、家に飾ってもらおうという試みをしています。そこで皆さんに「どの色がいい?」とお聞きします。一番上に置いてある紙を選ぶ人、自ら好きな色を選ぶ人。そこで自分で選べる人は、今までにそのような選択の機会を多く与えられてきている人なのではないかと思います。
能力の差はもちろんありますが、選ぶという行為を与えられないで、すべて親がご本人のためと思い、好きだろうと思うものを決めてきた場合と、写真を見せたりしてご本人に選ぶことをあえてしてきた人とは、大きな差があると思います。
ある日、秋にちなんで「“芸術”という字を書こうね。どの色がいい?」即答で「赤!」と言われた20歳くらいの人がいらっしゃいました。お母さんに自分の意思がしっかりしていていいですね。」「伊藤さんのお蔭ですよ。」「はっ?私の?」何がなんだか分からなくて・・・。
「伊藤さんが、この子にはちゃんと意思がある。食事をしに行っても食べるものを親が勝手に決めてはいけないと以前言われました。その時のことは鮮明に覚えています。今では、自己主張をしっかりし過ぎになっちゃいました。」と笑っておられました。
障がいのある子どもを育てる事は、容易ではありません。しかし、本人の意思を大切にし、自分で決めていくことを教えていくことは大切な事です。簡単な事から自分で決めていく習慣をつけ、少しアドバイスしながらちょっと離れてわが子を見る。危ないなと思ったら手助けをすればいいのではないかなと思います。少し失敗しても自分の人生ですから。それは障がいのあるなしに関係ないことのように思います。
「伊藤さんの子は軽度だからそんな事が言える」という声がどこかから聞こえてきそうですが、決して軽度でなくても選択できる人はいらっしゃいます。「赤!」の人は、日々の積み重ねによって、自己主張が出来るようになったのです。親さん・ご本人の努力の結晶が、現在の姿です。ですから親が良かれと思って決めつけないこと、「転ばぬ先の杖はいらない」のです。また、先のお母様のように、子どもが小さい頃に選択肢を作ることが必要だとアドバイスを受けているのと受けていないのとでは大違いです。(それをしっかり受け止めて下さったからこその結果なのですが・・・。)
早い時期に知っていたほうが良い情報はたくさんあります。SNSではなく、人との出会いは実体験を聞かせてもらえる貴重な機会だと思います。このコロナ禍では、人と会うことが規制されてしまっていますが、上手に生の声を聞かれることをお勧めします。