vol.203 気候危機・自由と権利

今、何が起きているか

 日本でも有名になりましたが、オーストラリアの火事では、6000近い建物が燃えて、30億という数の動物が焼け死にました。ユーカリという木は樹脂、油をたくさん含んでいるので、空気が乾燥している中では気温が40度という高温に達したら勝手に火がつくと言われています。
 一方、アマゾンの火事は、僕らが日々口にしている肉、特に牛肉のために人が火をつけています。焼畑です。牛の放牧場所や大量に食べさせるトウモロコシや大豆を育てる場所を確保する為に、原住民や動物が住んでいるアマゾンを焼き払う。
 気温が上がると、大地に含まれている水分や海の水分がこれまで以上にたくさん蒸発するようになります。温かくなった空気はたくさんの水蒸気を含み、豪雨や洪水、台風をこれまでにない大きさにしたり、より頻繁にすると言われています。

 2月にはスペインで、超大型の嵐、6月にはインドで一週間に2度スーパーサイクロンが発生し100人以上が避難、7月14日、ドイツでも僕が住んでいた所を中心に、観測史上最大の豪雨と洪水が発生。1300人が行方不明になり、一番仲が良かった友人もまだ連絡がつかないです。7月20日には中国で、観測史上最大となる豪雨と洪水が発生、地下鉄が浸水…。
 2019年の7月にドイツでは気温が42.6℃に。ヨーロッパでは熱波による死者が7万人以上。世界で二番目に寒い国カナダでは、今年の6月29日に気温が49.6℃、719人が死亡しました。アメリカのカリフォルニア州では、7月9日に気温が54.4℃に達しました。これは地球上で観測された気温の中で一番高いものです。過去最悪な火災がアメリカでも発生しています。
 南極の気温は去年の2月に20℃を超え、1/4の雪や氷が溶けて海の高さを上げ、北極圏では今年の6月に気温が48℃を記録しました。ここまで暑くなってしまった北極圏では、一日に百億トンを超える量の氷が溶け続けています。
 世界中の2/3を超える人々が沿岸部に住んでいるとされています。このまま海面が上がったら住んでいる場所や資源が失われ、残ったものの奪い合いが世界中で発生するといわれています。今年の2月に行なわれた国連の安全保障理事会でも、気候変動と戦争の繋がりに重点を置いて話している国が多かったです。日本もついに今年の5月に防衛省が気候変動が安全保障に与える影響、海面の上昇によって領土や資源をめぐる争いが活発化する恐れについて議論を開始しました。

一番最初に失うものは

 もしこのまま僕たちが気候変動に取り組まない場合、一番最初に失うものは、自然ではなく平和だといわれています。この問題は無関心でいられる人はいても、無関係でいられる人というのはもう一人もいないのです。
 よく、「こんなに深刻なところまで来てるのに、大勢の人がそれを知らなくて絶望的や!」という人いるんですが、逆です。みんなが知っているのに、そんなに深刻なところまできていたら、それが一番絶望的です。でも、「え、知らんかった!」という人が「できるところからでも選ぶ物を変えてみる」というのはたくさんの人ができます。なので、深刻なところまで来てるのは事実なんですけど、まだそのことについて、知らない人が多いという状態が一番の希望です。みんなが知れば必ず変わります。なので僕はみんなに知ってもらおうと世界中をまわらせてもらってるんです。

どうやったら変えられるか

「① ゴミを減らす」特にプラスチックゴミと食べ物のゴミ。出かける時はバックと水筒のセットを持ち歩く。それからフードロスをなくす。食べ物を買い過ぎない、作り過ぎない、外食の時に注文をし過ぎない。賞味期限を気にし過ぎない。
「② 省エネ」電気の無駄使いをしない。今ご家庭で自分が使っている電気を水力とか地熱とかという、再生可能エネルギーと呼ばれる方法で電気を作っている人たちから電気を買うこと。
「③ 車をなるべく使わない」可能な時は公共交通機関を使う。近場だったら歩いたり自転車で。健康、美容にもいいと言われています。
「④ お肉をちょっと減らして野菜を増やす」これも体にもいいと言われています。お肉、特にベーコンやソーセージという加工肉はガンになる可能性が高いことがWHOからも公式に発表されました。

一番大事だと思うこと

 政府とか企業やメディアという、大きい影響を及ぼす存在をちゃんと自分の頭で考えて選んで、自分の選択に責任を持つ。今、投票率と比例している数字は、年収です。年収が高い人程ちゃんと投票に行っています。そして高齢者。こういう偏った投票率の中では、政治は比較的投票率の高い層に向いて行なわれます。なので本当に子どものことを守りたかったら、子育て世代といわれる世代の投票率が上がらない限りは、政治がそちらの方を向く事はないです。
 また、企業が出している物やサービス、メディアが流す情報や番組も僕らの意志でしっかり選び抜くこと。そうすることでその企業やメディアは存続が厳しくなります。
 だからその国の政治や企業やメディアのレベルは国民のレベルと同じになるんです。社会で問題が起きた時に政治が悪い、企業が、メディアが、って話しになりがちですけど、今の日本に存在するそれらをこれまで選んで来た、その裏にいる黒幕は「自分」です。自分が当事者という認識さえ持つ事ができたら、やることは1つだけ。選ぶものを見直すだけでいいのです。自分が黒幕というのは何もネガティブな話しではなく、むしろ希望です。自分さえ変われば世界が変わるんです。

 まずは自分のできるところからと、「初めて投票に行ってみました」とか「レジ袋を断るようになりました」とかそういう一歩を踏み出す人を、そんな小さな事、と笑う人がいますが、そんな小さな事ですらも出来ない人間がほとんどだから、こんなに大事になったんです。

自由と権利

 僕、ヨーロッパの教育を研究する機関に行って、ヨーロッパと日本の教育の大きな違いを教えてもらったんです。その時「日本って義務は教えるのに権利は教えないね」と言われました。ヨーロッパは、「あなたには生まれつき自由と権利が備わっていて、それは絶対に誰からも侵害されてはいけないし、侵害することも絶対にしてはいけない」。なので、ドイツでは民主主義の最低限保障されている権利として、デモのやり方っていうのを学校でちゃんと教わります。
 人は自由や権利を持っているんですけど、意識してなかったら、自分は生きてるだけで価値のある人間だとか、自分の事が好きだとか、自分の行動で世界は変えられるという自己肯定感というものがどうしても下がっていくんです。
 自分のことを義務で縛っている人が、日本はめちゃめちゃ多いなぁと思っていて、特にお母さん。お母さんは、こういうことをやらないと、こういうことはやっちゃいけない、と自分で“自分の自由と権利”を否定している。そうじゃなくて、ちゃんと自分にも自由と権利があるってことを尊重して、ありたい自分であるというお母さんが増えていったときに、子どももお母さんの背中から多大な影響をうけるので、この社会めちゃくちゃ明るく楽しくなると思っています。
 「私は私やから」というのを口癖にして、せめて自分だけでも自分のこともお子さんのことも、他の人と比べないということをやっていただけると、とても嬉しいです。

 小学校でお話しさせてもらうと、毎回絶対に聞かれる質問。「地球温暖化って前々からわかってたですよね、なんでほったらかされて、こんなにまずいところまで来てるんですか?」。で、毎回答えるんですが、最大の原因で、今もこの星が直面している最大の脅威は「他の誰かがなんとかしてくれる」という思い込みです。ほぼ全員が他力本願で、自分ではなにもせず互いのせいにしているということ。人任せにして放ったらかしにしていたその問題は、巡り巡って自分の大切な物を傷つけます。自分にしかできないことが必ずあって、僕じゃ伝えることができなくても、あなただから伝わるって言う日が必ず来ます。

文責・にらめっこ