vol.202  続・ぎむきょールーム

特別インタビュー「公教育を考える」-Part-1

みんなの森ぎふメディアコスモス
総合プロデューサー 吉成 信夫氏

 各務原市は小中高一貫の特別支援学校の建設が決まり進められつつある。議会では詳細が語られず、どんな学校を作るのかが見えてこない現状に、教育を考える会のメンバーたちは、もやもやを隠しきれない。『ハコモノは変えられる-子どものための公共施設改革-』の著者で、みんなの森ぎふメディアコスモス総合プロデューサーである吉成信夫さんに、はたしてハコモノは変えられるのか、話を聞いた。

公共って誰のためのもの?

 僕は子どもと一緒に、「子どもを取り巻く環境、子どもの地球環境」を作っていきたい、40歳になる時に、このテーマで生きていこうと決めて、岩手に移住しました。それから「森と風のがっこう」を作るために奔走するわけですが、公共施設、いわゆるハコモノを変えていった事例として、最初に岩手県立児童館「いわて子どもの森」ができるまでをお話します。
 立地は標高700mのところ。スキー場と温泉はあるものの、人家はありません。その荒野といってもいいところに総額58億円の児童館を建設するという巨大プロジェクトでした。冬には積雪が1m以上、とても歩いて行ける場所ではない。クマの棲息地で、クマが見え隠れするんですよ(笑)。建造物はコンクリートで巨大な要塞みたいでした。ルパン三世のカリオストロの城みたい。何人も近づけませんって感じでね。さて、人が住んでいないこの地にどれだけ人を呼ぶことができるのか。

ここで発揮したのが「発想の転換」です。

 児童館では「どういう活動をするか」、子ども達の心や体を考えた時に、「どういう部屋があればいいのか」、ということを考えました。児童館の使い方と人が来たくなるようなソフトを、ハードを作っている段階から散りばめておこうと考えたのです。
 まず野外。とっても広大な場所で、車椅子の人も乗り降りできるゴンドラとかも付いていてバリアフリーです。フィールドのキャンプ場にある全天候型キャンプファイヤー場は「いつでもファイヤー」という名前をつけました。全天候型だからいつでもできちゃうわけですよね。「いつでもファイヤー?あはははっ」て笑うような仕掛けをしておくとね、人は来てくれるんです。註:屋内にもユニークなネーミングがあちこちに。たとえば<冒険の塔「のっぴぃ」>、<風のデッキ(気節ごとに変わる展示スペース)>、<レストラン「ハラヘッタ亭もぐもぐ」>などホームページを見るとわくわくする。
 それはいいんですが、計画では丘の上からズーーーーーと滑る巨大な滑り台が2台もありました。なんで2箇所も?まだ工事は始まっていなかったので両方とも発注を止めてもらいました。自然の中でも、いわゆる学校教育的で効率を求める。そういう取り組みをするのが、日本の公共施設作り、野外教育の考え方だから、多人数で動かせるように設計してあるんですね。
 その滑り台の予算で、コンセプトや空間のディスプレイを作り直しました。例えば、建物の中の空間に僕はアートを取り入れたかったので、ピクチャーレールをつけてもらうとか。足場が外れたらもう二度と付けられないですからね。
 オランダのスヌーズレン※という重度の身体・知的障害の方が心地よい感覚刺激を通して、楽しんだりリラックスしたりというものを取り入れました。児童館でスヌーズレンが入ったのはここだけです。(※スヌーズレン (Snoezelen) とは、1970年代半ば、オランダの知的障害施設から始まった取り組み。どんなに障害の重い人たちでも楽しめるように、「光」「音」「香り」「振動」「温度」「触覚の素材」このようなものを組み合わせたトータルリラクゼーションの部屋が生まれた。)

iwatekodomonomori.jpより。おとなでもワクワクする仕掛けがいっぱい!
不思議の国の児童館っていう感じ。心も体も解放できそうだね。

おとなも こどもも のんびり、ゆっくり、ぽけ〜っとしようよ。 これは岩手県立児童館「いわて子どもの森」のキャッチフレーズですが、全国の公共施設で「ぽけ〜」を使ったのはここだけじゃないかな。要は、リラックスしようってことです。児童館というのは、遊びを通して、子ども達の心と体の健全な育ちを育むための施設だからです。そしてこんな約束もあります。
みんなの合言葉
・ 事故は自分の責任。自分の判断で自由に遊ぼう。
・ ゴミは出さずに自分で持ち帰ろう。
・ わからないことはスタッフのお兄さん、お姉さんにどんどん聞こう。
おとなのお約束
・ まず、子どもの話に耳を傾けること。
・ 早くしなさいと、むやみに急かさないこと。
・ あぶないからやめなさいという前に、本当にそうかよく考えること。
・ 服を汚してもおこらないこと。
 岩手に移住してまもなく、役所の中に入って関わったのが「石と賢治のミュージアム」ですが、着工寸前で抜本的に計画変更する事ができました。市民・専門家会議を行政の中に委員会として作ったり、その中に建築のわかる人も入れて、半年かかって、すでにでき上がっていた図面に対して代案提示したんですよ。奇跡的に全部通って、結果的に建物を作り直すことができました。代案提示は非常に大事です。

 話しは変わります。先日、オンラインで講師に招かれたのが「四日市の図書館を作る有志の会」。そのメンバーはみんな子育て真っ最中の30代後半から40代前半くらいの人たち。「自分達だったらこういう図書館を作ります」、といろんな意見を集約し代案を作り市長に伝えています。そのアイディアが現実化するかどうかわからないけれど、そういう動きは大事ですね。何かを作るときみんなで一緒にやっていくという姿勢、信頼感を作っていくということ。理想論かもしれないですが、決して対立しないことです。地域の中で声を上げて、それを変えていくところまで持っていくのは大変なことですから、やはり信頼関係を築くことでしょう。

切り口があるとすれば、「代替え案提示」、
それから「理念」の骨格作り。これが最重要です。

 代替え案提示というのは、本当に大事です。しかも現実に即した提案でなければ意味がないです。そこには専門家も必要です。建築家とか、地域作りに関係している大学の教授とか、想いを共有できる人を見つけて理論構築をする。首長や、教育長さんがこれは!とうなづくような代替え案を提示する。ここで重要なのが人選です。市民であることと、できたら政党や宗教とは一線を画し、なるべく若い人たちが率先して動けるような仕組みを作ることです。


お話しを伺って感じたこと

 身体や発達に重度の障害のある人や、病弱の児童生徒さんたちの保護者の方々は、地元に学校ができるのは悲願でもある。そういう現状を理解した上で、自分たちが何を問題視しているのか、洗い出す必要がある。それを踏まえた上で、市立でできる最大限の力を発揮して、日本に誇れる「学校作り」に関わりたいと思った。

吉成さんの話は尽きません…なので続きは次号に
「公教育を考える」-Part-2