リニア中央新幹線を建設しているのはJR東海ですが、全国新幹線鉄道整備法による国の認可を受けて事業を行っています。この認可の取り消しを求め沿線の住民ら781人が国を相手取って4年前に起こした「ストップ・リニア!訴訟」の中間判決が12月1日、東京地方裁判所で言い渡されました。古田孝夫裁判長(市原義孝裁判長が代読)は、原告の約7 割に当たる532人について、裁判を起こす資格のある「原告適格」を認めず訴えを却下、残りの249人の原告適格を認め、裁判は継続されることになりました。 井澤宏明・ジャーナリスト
ずさんアセスを追認
7割を「門前払い」
原告らは「原告適格」として次のように主張していました。 ①乗客として安全な輸送の提供を受ける利益 ②南アルプスや自分の住む地域の自然環境を享受する利益や、自然環境の保全を求め、自然と触れ合う権利③ルート上や近辺にある土地、建物、借地、借家、立木トラストなどの権利 ④工事や開業後のリニアの走行による大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、地盤沈下、日照阻害、交通混雑、高架橋や駅舎などの設置に起因する景観阻害による健康や生活環境への被害を受けない権利。
中間判決は、 ①について「乗客になる可能性は潜在的、抽象的なもの」 ②について「主観的な評価によって左右される性質のもので、どのような侵害なら良好な自然環境が毀損されたといえるかを客観的に明らかにすることは困難」 ③について「直ちに利益に制限が加えられるものではなく、『土地収用』も必ず行われるものではない」――として原告適格を否定しました。
一方、 ④については判断が分かれました。判決は工事や開業後のリニアの走行による大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、地盤沈下、日照阻害などにより「健康や生活環境に著しい被害を受ける恐れがあると想定される地域に住んでいる」として、環境影響評価(環境アセス)の対象となった水源の水を飲料水、生活用水、農業用水として利用している地域など一定の範囲の住民249人の原告適格を認めました。
最も理不尽なのは、今も多くの置き場が決まっていない工事による残土についてです。判決は、JR東海が作成した環境影響評価書には残土運搬車両の運行経路や頻度が明らかにされておらず、国の認可でも運搬車両による騒音、振動、大気汚染が審査の対象になっていなかったとし、「被害を受ける恐れがあると想定される地域に住んでいるか否かを認定するための目安やその他の手がかりを欠いている」ことを理由に適格を認めなかったのです。原告側は裁判で、残土置き場や運搬の経路を明らかにしないまま行った環境影響評価の違法性を再三にわたって指摘し、それを認可した国を批判してきましたが、裁判所はこのようなJR東海や国のずさんなやり方を「追認」してしまいました。
自身も原告適格を否定された原告団長の川村晃生・慶応義塾大学名誉教授は中間判決後の記者会見で「裁判はこれから証人申請をして立証していく段階。その中で、南アルプスがどういう被害を受けるか、乗客の安全性が守られているのか、原告として立証しようとしていた矢先に、そういう問題ではこの裁判は維持させないんだと裁判官から答えを突き付けられた。極めて不当な判決だ」と怒りを露わにしました。532人は控訴する予定です。
「命の水」巡り静岡でも
話は前後しますが、中間判決で東京地裁が被害の恐れを認めた「水」の問題を巡って静岡県の住民も立ち上がりました。 南アルプストンネル建設により大井川流域約62万人の「命の水」が減らされるのは生活を脅かす非常事態だとして10月30日、JR東海を相手取り静岡県内の工事(10・7キロ)差し止めを求める裁判を静岡地裁に起こしたのです。
原告は、茶農家など大井川の利水者ら107人。提訴後の記者会見で原告の茶農家大石和央さん(65)(牧之原市)は「牧之原市はすべての水を大井川に頼っている。大茶園に欠かせない水を断固として守りたい」と話し、コメ農家櫻井和好さん(70)(島田市)は「水が枯れても、トンネルを掘った影響かどうか証明できない」と訴えました。