vol.198  夢か悪夢かリニアが通る!vol.27

椹島付近の林道から赤石岳を望む

 「静岡県がごねているせいで、リニア中央新幹線の2027年開業が遅れてしまう」というネットを中心に広がる「静岡悪者論」に反論する動きが活発です。県の中央新幹線対策本部長を務める難波喬司副知事は10月2日、東京都の日本記者クラブで記者会見し、川勝平太知事は月刊誌「中央公論11月号」に「国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す」という論文を寄稿しました。この中で川勝知事は新型コロナウイルス感染拡大について「リニア再考をせまる新しい現実」だとして計画見直しを視野に入れたリニアの「中間評価」を行うことを菅新内閣に求め、「“命の水”を戻すことができないのであれば、リニア・ルートのうち南アルプス・トンネル・ルートは潔くあきらめるべきです」と踏み込んでいます。今回は、南アルプストンネル建設が行われる予定の大井川源流部を1年余りぶりに訪れました。     井澤宏明・ジャーナリスト

荒れる大井川源流

崩壊した林道

台風、豪雨で土砂の採掘現場のようになってしまった燕沢周辺

 同行させていただいたのは、「リニア新幹線を考える静岡県民ネットワーク」が10月1、2日に行った第6次調査です。同ネットは2014年から毎年のようにリニア静岡工区となる大井川源流部の「定点観測」を続けてきました。
 源流部への入り口となる畑薙第一ダムの巨大な堰堤を渡り、ダム湖を左に見ながら進みます。いつものガタガタ道を覚悟していたのですが、整地され舗装済みのところもあります。
 管理する静岡市治山林道課に尋ねると、「JR(東海)さんの大型車両が増加することに伴って林道の痛みが生じるので、それを防ぐためのものです」との答え。舗装区間は今の段階で約200メートルを予定していますが、最終的には約27キロの林道すべてを舗装する計画とのこと。
 おせっかいながら工事費用の負担が心配になります。市によると、舗装費用はJR東海が持ち、修復費用もリニア工事中はJR東海が負担するものの、工事終了後は市の負担になるといいます。大雨や大地震が起こるたび崩れる東俣林道。将来、市が負担し続けられるのでしょうか。

土砂がたまり、橋まで1メートルもない

 途中から林道が河原に下ります。ここは昨年の台風19号で林道が崩落したため付け替えられた道。この道も今年7月の豪雨で一時、流失したそうです。赤い「畑薙橋」の鉄橋を渡って右岸へ。すぐ上流の大規模崩壊地「赤崩」などから絶えず流れ出る土砂が河原にたまり、今にも橋に届きそうです。

姿を変えた燕沢

 南アルプス南部の3000メートル級の山々の登山基地だった「椹島」(さわらじま)。リニアの工事事務所や作業員宿舎が建ち並び、今ではすっかり「飯場」(はんば)のようになってしまいました。昨年6月に川勝知事の視察に同行取材したときにはなかった宿舎の建設も進んでいます。向かいには南アルプストンネル建設への警鐘を鳴らし昨年11月に亡くなった山岳写真家・白簱史朗さんのログハウス風の写真館がありました。
 燕沢(つばくろざわ)と大井川の合流地点に着きました。JR東海はここに、トンネル掘削で生じる東京ドーム約3杯分約360万立方メートルの残土を積み上げる計画です。
 ところが台風や豪雨で、周辺の地形がすっかり変わっていました。増水した川に押し流されたのでしょう、ドロノキなどの河畔林は消え去り、土砂の採掘現場のようになっています。対岸の崩壊も進み、今にも地滑りが起きそうです。
 残土を積み上げる規模は、高さ最大約70メートル、幅最大約300メートル、長さ最大約600メートル。県は説明資料で、高さ約65メートルの県庁東館(16階建て)、広さ約18ヘクタールの駿府城公園と比較し、同規模の残土が積み上げられることを示唆しています。

林道がスッパリと切れ、斜面が崩壊している様子が分かる

 この連載15回目で明星大学准教授・長谷川裕彦さんが警告したように、大規模な崩壊を繰り返してきた千枚岳の岩屑なだれが、積み上げた残土にせき止められ、より大規模な土砂ダムができてしまう恐れがあります。昨年、今年の台風や豪雨で大きく改変された地形を目の当たりにすれば、ここに残土を積み上げれば将来何が起こるのか、「火を見るよりも明らか」だと思うのですが。