vol.198 熱中人 ミナタニ アキさん

物事を深く考え、言葉で伝えてゆく
  そこから生まれるものを大切に

「犬てつ」(犬山×こども×大人×てつがく×対話)主宰
ミナタニ アキさん(犬山市在住)

 犬てつは大人とこどもが一つのテーマについてじっくり一緒に考えることを通して、思考を広げ深めていく「てつがく対話」を中心に活動している。
 「こどもが対話に加わるとすごく面白いんです。例えば『家族』というテーマでも、『なんでそもそも家族があるんだろう?』って、大人が思いもしないことを子どもが投げかけてくれて、すると『なんでだろう』って、ぐっと考えが深まるんです。こどもがいるからこその会話が生まれる瞬間に、毎回出会います」とミナタニさん。
 答えは一つではない、最後にまとめるということもしない。参加者は、発言するしないは自由、ただ聞いているだけでもいい。
 「重要なのはその場だけで終わらず、持ち帰って『考え続けること』。それが一番大事な事かな。対話中には全然話さなかった子が、帰りの車の中でお母さんと話したというエピソードをよく聞きますが、それでいいと思うんです。学校ではなにか発言しないと、というプレッシャーのようなものがあると思うんですけど、ここではそれがない。自由でいられる場みたいなものを意識的につくろうと進行役の方と一緒に考えてやっています」。
 だから時間中に遊ぶ子もそのまま受け入れる。最初は簡単な質問でさえ親の顔を見たり、緊張して言葉を出すのに時間がかかった子どもたちにもひたすら言葉を待った。
 「3年目には、みんなで話しを継いで言葉を深めていくということが出来るようになってきました。そういう楽しさを子ども自身がわかってきた。大人以上にうまくなってる感じです。すごいことだと思います。」

 2019年2月には、犬山市男女共同参画市民会議とのコラボを企画し、男と女何が違うのか、「ずるい」をテーマに対話。その時には学校の制服に対して、なんで女の子はスカートをはかないといけないのか、と子どもたちから声があがった。
 「犬山市はフリースピーチ制度(※)というのがあるので、おかしいと思うんだったら、話してみる?と提案してみました」
 同年9月議会のフリースピーチで「なぜ女子はスカートで、男子はズボンなのか。性別に関係なく着られて違和感のない制服があれば、皆が安心すると思う」と小学校4年生の犬てつっ子がスピーチ。それを受けて市の教育委員会が検討し、2021年4月から市内の中学校の制服が、従来の詰め襟・セーラー服かブレザーか、女子のブレザータイプならズボン・スカートが選択できることが決定した。
 「一緒に考えて発信すれば、社会は変わるんだよ!ってことを伝えて行きたいと思っています。楽しんで考えてることで思考力も鍛えられますが、でもそれだけではなく、なんのために考えるかというと、より良い社会をつくるため、なんですね」。
 深く考えることは、多角的にものごとを捉え、想像力を膨らませる。それは他者の立場に立って考える思いやりに繋がっていく。地域で活動していくには、そういった視点も大切にしたい、とミナタニさんは考える。
 犬てつ4年目の今年は「てつがく対話を通して創る未来の運動会」と、初めてゴールを設けての活動に取り組む。もし自分たちで運動会を創るとしたらどんな運動会をやるのか、まず「未来の運動会」ってなんだろうという対話をして、次はそれを振り返りつつ、未来の運動会を創る要素としては何があった方がいいのかを問いかけた。
 「みんなが楽しめる運動会の『みんな』って誰か、それをずっと問い続けているといってもいいくらい。誰かにとっていい事が誰かにとっては悪いことだったりする。本当にみんなが楽しいってどうやったらできるんだろう、そのへんを今一緒に考えているところです。どういう言葉が子どもたちから出てくるのかすごく興味深いですね」
 今年の12月に開催される「未来の運動会」は、本来なら地域の人たちを巻き込んで賑やかにやりたいところだが、コロナ禍なので今回は自分たちだけでの運動会となるという。

 「言葉が得意な子もいればそうでない子、いろいろでいい。ただ、言葉が主な社会だから、こういう場で慣れていくことで、もうちょっと生きやすくなる。てつがく対話をそういう機会に思ってくれてもいいなと思います」。
 いろんな人がいて、いろんな意見があっていい。みんなが認めあえる地域、街、社会は「犬てつ」のような場所から生まれるのかもしれない。

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(※)市民フリースピーチ制度
犬山市議会では、市民が議会で発言する機会を確保することにより、市民の議会への関心を高め、市民により身近で開かれた議会の実現に努めることを目的として、市民フリースピーチ(5分間発言)制度を実施します。議会は市民からいただいた提案を全員協議会などの議論の中で熟慮し、適切にアクションします。(犬山市H.Pより)

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犬てつの3年間の記録を一冊にまとめた書籍『こどもと大人のてつがくじかん』が刊行されました。

『こどもと大人のてつがくじかん 』
てつがくするとはどういうことか?
2,300円+税 LANDSCHAFT 

こどもと大人が一緒に対話し、紡いできたてつがくじかん。
犬山で生まれた犬てつの、宝物のような三年間のドキュメント。
てつがく対話についてまったく知らないこどもと大人たちが、
手探りながらの対話を通じて、自分とは違う意見を持つ他者や、新たな自分を見出し、
対話の楽しさ、難しさに目覚めていく様子が浮き彫りになっています。
わたしたちは他者と対話し、協働する術をあまりにも学んできませんでした。
犬てつではこどもを媒介に、世界にいつもとは違うまなざしをむけ、
自由や民主主義の本質を問うような対話も芽生えてきます。
てつがくすることの意味を一から問い直す、これまでになかったような実践の書です。






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