vol.195 ぎむきょールーム いまどき思春期模様

対談 岩宮 恵子(臨床心理士)×岡崎 勝(小学校教員)

思春期の入り口に立った時に

岡崎:ボクは親から子どもの相談をずっと受けてますが、家族のあり方はずいぶん変わってきています。だけど、子どもはあいかわらず思春期に入っていくというのがあって、ボクの経験のなかで小学生を見ていると、やっぱり5、6年生くらいからいろいろと態度などが変わってくると思うんです。
岩宮:思春期は身体的な成長と切り離しては考えられないと思います。第二次性徴(※1)というどうしようもない身体の変化がまずあって、気持ちの面でも情動などのコントロールが難しい(※2)時期だといわれています。

 そういうシンプルな切り口とはまたべつに、「良い・悪い」という善悪のどちらかしかないような世界観から、外にあると思っていた「悪」が自分のなかにもあると気がついたり、その逆に自分だけが「悪い」と思わなくていいのかもしれないと感じたりするような、「悪」について相対化できるような視点が生まれてくる時期が思春期ではないかと私は思っています。
 そして、なぜ自分は生まれてきたのかとか、なぜこの親で、この家に生まれ、この顔で、この能力なのか…と、いろいろ複雑な感情と向かいあわなくてはいけなくなります。このような問いが出てくると、たとえそれが第二次性徴の出現のずっと前の年齢であったとしても、思春期の意識の入り口に立っているなと私は感じます。

子どもを抱きしめることができない

岡崎:子どもを抱けないというお母さんは、最近はけっこういるんですよね。そういうお母さんがいたとき、ボクは「子どもをかわいがってあげてください」としかいいようがなくて、それがいちばん簡単でやりやすいのが抱っこだから難しいんですよね。

岩宮:下の子はいくらでも抱っこできるけど、上の子はできないというお母さんはけっこういらして、それは訓練が必要なのだなと思います。子どもが3人いるお母さんで、3番めの子には愛情大爆発で、かわいいとはこういうことなのだとはじめてわかったという方がいましたが、最初の子は一生懸命育てたけど、かわいいと思う余裕がなかったというんですね。その長子にちょっとトラブルが起きたとき、学校の先生に「この子をぎゅっと抱きしめてあげてください」といわれたそうなのですが、それはとてもハードルが高いことだと嘆かれました。「じゃあ、どれくらいのことだったら自然にできますか」と聞いたら、そのお母さんは「指きりだったらできる」といわれました。だったら、「子どもが朝出かけるときに、指きりをしてみてください」と話したことがあります。
 でも、なかにはハードルという意識もなく、軽い調子で「ベタベタしてくるのがいやで」「めんどくさいです」とある種、無邪気な感じで言葉にされる方もいて、これは子どもの意識のまま、親になってしまわれたんだなと思います。

親は自分が未熟だと自覚して

岩宮:いまも、子どもの思春期に本気でぶつかっておられる親御さんたちももちろんたくさんおられます。でも、子どもと向きあえていない親御さんは、自分ができていないことを指摘されるのではないかとこわくて、相談などにも来にくかったりするのだろうなとは思います。
岡崎:ボクはいつも親に対して、「いくつになっても未熟だという自覚を持ちましょう。だから学べるものは学びましょう。だって自分は未熟なんだから、と思いながらやりましょう。六十代後半のボクらもそうです」ということを話しますが、いえるのはそれくらいです。
岩宮:ほんとうにそうだと思います。
岡崎:そこには年齢も上下関係もない。みんな同じ。そうであることを自覚できなくなると、ちょっとこわいなとは思います。ただ、大人と子どもの線くらいはどこかで引きたいとボクは思いますが。

大人と子どもの線を引くために

岡崎:ボクは学校のよさがもしあるとしたら、たぶん大人と子どもの線引きをずっとやってきたことだと思うのです。親は教員のことを内心ろくでもないと思っていても、子どもに対しては、いちおう「先生だよ」といっていましたし、教員の方もあの親かと思っても「親にそんな口の利き方をしちゃダメだよ」と子どもにいっていました。ところがいま、親は学校の先生の揚げ足取りをしますし、教員の方も「お前のところの母親は」と口に出さなくても顔に出す。子どもはそういうことには敏感なので、大人に対してある程度敬意をもつとか、いちおう頼りにできると思うとか、包容力を感じるとかいうことができなくなっているように思います。
 学校にかぎらず、学校の外でも、フリースクールでもそうですが、「大人は頼りになる」という安心感があると、子どもたちに元気が出てくると思うんです。そういう意味では、地域の大人が子どもたちに声かけすることなども同じですよね。子どもと大人がボーダーレスの時代であっても、やっぱり大人が大人として、子どもが子どもとして生きられる。そういう場が必要なのだろうなとボクは思います。

※ 1 脳下垂体から性腺刺激ホルモンが分泌され、男性の精巣や女性の卵巣が発育し、精巣からは男性ホルモンが、卵巣からは女性ホルモンが分泌される。
※ 2 脳科学の分野では、男女とも情動や衝動をつかさどる分野は第二次性徴が始まるころ急激に発達し、それを抑制する前頭葉の発達はそのあとから始まるため、この時期、情動や衝動が抑えにくくなるといわれている。

いわみや・けいこ
臨床心理士、島根大学人間科学部教授、島根大学こころとそだちの相談センター・センター長。大学で教鞭をとる傍ら、スクールカウンセラーや相談センターの相談員として思春期の子どもたちやその親との対話を重ねている。小説、漫画、アニメ、アイドルなどにも造詣が深く、著書に「フツーの子の思春期—心理療法の現場から」(岩波書店)、「好きなのにはワケがある—宮崎アニメと思春期のこころ」(ちくまプリマー新書)、「思春期をめぐる冒険—心理療法と村上春樹の世界 増補版」(復元社こころ文庫)ほか

おかざき・まさる
名古屋市公立小学校教員。「お・は」編集人。きょうだい誌「ち・お」編集協力人。「アーレの樹」理事として、フリースクールの子どもたちにかかわる。男性専門の相談にも応じている。著書に「きみ、人を育む教師ならば—「小学校の先生」といわれる私たちの仕事とその意味」(ジャパンマシニスト社)「センセイは見た!「教育改革」の正体」(青土社)、『子どもってワケわからん!』(批評社)ほか。

ジャパンマシニスト社 おそい・はやい・ひくい・たかい 108号より





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