vol.194 ボーダーレス社会をめざして vol.53

NPO法人オープンハウスCAN 理事長 伊藤佐代子

限りない成長

 お正月、自閉症の息子が私に、お抹茶を点ててくれました。先日は、「一緒にお菓子を食べましょう」と誘ってくれました。
 小さい頃の息子を知っている人は、びっくりだと思います。幼稚園の頃は、じっとしていられなくて、園外に出て行ってしまったことがありました。また、小学1年生の時は、多動で出来ないことが多いため、「お母さんも授業に付いてください」「どうして普通学級に在籍するのですか」と先生に言われた子どもが大人になり、自分の母親にお抹茶を点ててくれたのです。今でも自閉症の特徴はしっかりありますが、上手に付き合ってくれば、自分のため、家族のために行動できるようになるのです。
 特別支援学校高等部を卒業したばかりの頃は、仕事帰りにケーキ1個、お団子1本を自分のためだけに買ってきていました。「あっちゃん、Mちゃんにもケーキ買ってきてほしいな。」と繰り返し言い続けました。 また、カッターシャツをズボンの中にインするのが自閉症の人の定番スタイルですが、電車で会社に通い始め、乗っている人がシャツをインせずボタンもかけず着ている姿を見て、真似した事がありました。その時、「電車の中の人はこうして着ている」と言いました。周りを見ることができるようになったのです。
 また、電話は全く掛けられなかったのですが、今では一方的な電話とメールはOKです。携帯電話が普及し、うまく話せなくても文字で自分の意思を伝えられるようになりました。皆さんは、当たり前に携帯電話を使われていると思いますが、障がいのある人にとっては、素晴らしいツールなんです。視覚が強いため、電話で話すよりメールの文字で伝えることの方が得意で、お陰でかなり意思疎通ができるようになりました。一度だけ「ありがとう」というメールが来たことがあります。会社に持っていったお弁当のお礼です。おにぎりと色どりの良いお弁当を作った時のことです。おいしかったのか、きれいだったのかは定かではないのですが・・・。「お~~!!こんなことがあるのね。」とびっくり。20年程お弁当を作ってきて、ただの一度だけですが、記念のメールとして保存してあります。娘にはいつも「お弁当おいしかった。ありがとう!」って言われていましたから普通の人であれば、そんなこと当たり前のことですが、当たり前ではなく感謝の言葉をメールで送ることができるって本当に凄いことなんです。
 以前「限りある成長?」というタイトルで原稿を書いて12年経ちましたが、遅々たる成長をまだ続けています。今日も「温泉に行ってきました。楽しかったです」というメールが届きました。