vol.192 夢か悪夢かリニアが通る!vol.21

ウラン、掘り出していた

「リニア実験線の車両から出火 作業員3人重軽傷」。10月7日、産経新聞のネットニュースが、山梨県都留市の山梨リニア実験線車両基地で、車両点検中に機械から出火して作業員の衣服に燃え移り、3人が重軽傷を負ったことを伝えました。報道によると、JR東海は当初、「公表するかどうか未定」と答えていたといいます。記事中には、1991年に宮崎県のリニア宮崎実験線で、タイヤのパンクが原因で車両が全焼する事故が起きたことにも触れています。リニアの約9割は地下トンネルです。南アルプスの地中約1400メートルの深さで火災が起きたらどうなるのか。明確な答えをJR東海から聞いたことはありません。       井澤宏明・ジャーナリスト

基準値に迫る「ラドン」

ウランが掘り出された南垣外非常口の工事現場。

 「リニア残土微量ウラン JR東海公表せず」。「しんぶん赤旗」1面をこんな記事が飾ったのは8月5日のこと。岐阜県瑞浪市のリニア中央新幹線「日吉トンネル建設工事」で掘り出した残土から、放射性物質ウランが検出されていたことが、岐阜県に情報公開請求して入手した資料から判明した、と伝えたものです。
 この地域には、「国内最大の埋蔵量」といわれるウラン鉱床群があります。ウランを掘り出したり、ウラン残土から気体のラドンが染み出たりする危険性は、着工前から指摘されていましたし、この連載でも伝えてきました。
 これに対しJR東海は「ルートはウラン鉱床を回避している」「ウラン鉱床のようなウラン濃度が高い土を掘削する可能性は低い」と反論してきました。
 岐阜県に問い合わせると、JR東海が昨年6月と今年6月に公表した「環境調査の結果」に、ウランやラドンの検出を示すデータが既に記載されていたことが分かりました。これによると、ウランは昨年2月から7月に検出され、最大値は6月の1グラムあたり13・0マイクログラム。JR東海が「管理基準値」とした1グラムあたり77マイクログラムを下回っていました。
 一方、掘削口となっている「南垣外非常口」の工事ヤード敷地境界で測定したラドン濃度は、自然状態からの増加分が1立方メートルあたり最大15・6ベクレルと、JR東海が「管理基準値」とした1立方メートルあたり20ベクレルに迫っていました。この管理基準値は、その空気を1年間吸い続けると、1ミリシーベルトの被ばくになる濃度です。
 非常口近くの住民によると、JR東海からは定期的に説明を受けていますが、「管理基準値内です」という説明しかなかったといいます。
 「『避難が必要なら知らせてほしい』とJR東海には伝えてある。測定した時間以外にはもっと高い濃度だったかもしれず、知らせてほしかった」と話しています。
 元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんは「ラドン被害で明確に分かっているのは肺がん。基準値以下でも肺がんになる可能性は高まるので、JR東海は『基準値を超えないからいい』とするのではなく、できるだけ少なくする努力が必要だし、常に住民に知らせるべきだ」と警告しています。

集落を貫く巨大なベルトコンベヤー。初めて訪れた人の中には、「リニアは完成してるんですね」と勘違いする人もいるという。

御嵩に「恒久処分場」計画

 リニアドンネル掘削を巡っては、JR東海が岐阜県御嵩町に対して、重金属が含まれる恐れがある残土の恒久処分場を設けることを打診していると、10月7日の朝日新聞、8日の中日新聞が報じています。
 報道によると、同町美佐野のトンネル工事で出る約90万立方メートルの残土のうち、約40万立方メートルを旧ゴルフ場予定地に、残り約50万立方メートルを隣接する町有地に埋め立てる計画だといいます。
 岐阜県東部には、カドミウムやヒ素などの重金属が含まれる地質帯があります。隣の可児市で行われていた東海環状自動車道建設工事で2003 年、掘り出された残土に含まれる黄鉄鉱で水質汚染が発生し、魚が大量死、稲作も出来なくなる被害が起きたことは、この連載でお伝えした通りです。
 御嵩町は1997年、産業廃棄物処分場の受け入れを巡って全国初の住民投票があり、反対が多数を占めた歴史がある土地。町民の一人は「埋め立て予定地は、農業用水を引いている可児川の上流で、汚染されたら大変。町外のリニア工事で出た汚染土が搬入される可能性もある」と、危機感を募らせています。