vol.190 ボーダーレス社会をめざして vol.49

NPO法人オープンハウスCAN 理事長 伊藤佐代子

家族旅行?

 「一泊で温泉に行くけど、一緒に行く?」いつも即答で「行きません。」と答えるのに、今回はどうしたのか「僕も行きます。」と。あっけなく家族旅行することになりました。
 旅行好きの自閉症の息子は、、「ダーツの旅」のように、日本地図のジグソーパズルのパーツをポケットに入れ、取り出したパーツの所へ遊びに行くという事をして旅行を楽しんでいましたが、2014年9月に全国制覇し、その後、ぴたりと一泊旅行をしなくなってしまいました。今回どういう訳か行くということで、息子が楽しめる旅行にしなければと考えました。
 電車で行ける所、温泉地でありながら息子一人で寝られる場所を確保できる所、カラオケやゲームなどで遊べる宿泊施設。いろいろ探して片山津温泉で泊り、金沢に行く事にしました。何時に出発か、何時の特急に乗るのか?質問攻めにあい、きちんと分かるように文字で書き出しました。すると自分でパソコンに向かい、ハガキ大の紙に印刷をしてきました。「これでいいですか?」「これだとJRの人が分からないでしょ。岐阜と金沢の往復券と書いた方がいいんじゃない。」などアドバイスをし、切符を買うための準備をしました。その書いた紙をJRの窓口で見せ、切符を買ってくるのです。上手に言葉で話せない彼がたどりついた切符を買う方法です。
 旅行前日は、テンションマックスで、「僕は5時に起きます。」「いや、そんな早くなくていいよ。6時半くらいで。」。当日、一緒に出掛ける素振りは全くなく「僕は、岐阜駅に先に行ってます。」と一人で行ってしまいました。特急電車の中では、私たちからは離れて一人で座っていました。福井で昼食を食べようと、途中下車したのですが、「13時50分改札口に集合。自由行動。」、加賀温泉駅に下車しても同様に「14時35分集合。自由行動。」、ホテルに着いてからも、自由行動!と夕食だけ一緒に食べたという感じです。お風呂も一人で入りに行き、お父さんとは別行動。
 次の日、金沢についてからも同様に自由行動で、家に帰るのも自分の好きな時間の電車に乗っていいことにしました。すると意気揚々と金沢駅を出てどこかに行ってしまいました。「これって家族旅行なの?」と友人に言われ「そうだね。変かな。」
 自閉症の息子と一緒に行動する時は、いつもこんなものです。いかに上手に付き合うか。いつも一緒にいるばかりがいい訳ではないのです。本人が楽しく過ごせればOKです。少し後、彼は一人で岡山へ行ってきました。もちろん日帰りで。泊まりはしないのだそうです。