自然に触れる
土に触れ、野山を歩くだけで、不思議にこころが落ち着くものです。森や林での森林浴で、フィトンチッド(植物が自ら発散している天然の殺菌物質、自律神経を安定させる効果があるといわれている)を思いっきり浴びてくる。ウォーキングでも、ハイキングでも、サイクリングでも、自然のなかへ出かけて行き、思いきり呼吸をしてみる。家庭菜園を楽しむのもいいかもしれません。
「森林浴」
森林や木には神秘的で不思議な力があります。
緑にあふれた森林のなかに入って行くと爽やかな空気が広がり、しばらく歩いているとかすかな香りに気がつくと思います。この森林浴効果をもたらす森林の香りの正体が『フィトンチッド』。森林の植物、主に樹木が自分で作りだして発散する揮発性物質で、その主な成分はテルペン類と呼ばれる有機化合物です。この揮散している状態のテルペン類を人間が浴びることを森林浴と言うわけです。フィトンチッドはからだをリフレッシュさせるだけではありません。抗菌、防虫、消臭などのさまざまな働きがあり、フィトンチッドを上手に利用することによって、わたしたちの生活を健康的で豊かなものにしてくれます。
樹木(植物)がフィトンチッドを作る理由は何でしょう ?
樹木は何のためにフィトンチッドを作りだすのでしょうか?フィトンチッドには、作りだした樹木自身を護るさまざまな働きがあります。他の植物への成長阻害作用、昆虫や動物に葉や幹を食べられないための摂食阻害作用、昆虫や微生物を忌避、誘因したり、病害菌に感染しないように殺虫、殺菌を行ったりと実に多彩です。土に根ざして生きる樹木は移動することができません。そのため外敵からの攻撃や刺激を受けても避難できませんから、フィトンチッドを作りだし、それを発散することで自らの身を護るわけです。
森林のなかでは木どうしが『おしゃべり』をしている !?
木は毛虫などに襲われると、毛虫が嫌がる成分を葉に蓄えて食べられないようにするのですが、そればかりではありません。隣の木にこのことを教えるのです。すると隣の木もちゃんと葉を毛虫の嫌がる成分に変質させるから不思議です。 このように、木どうしは警告物質を発散することによって『おしゃべり』をしているわけです。森林へ行って耳を澄ませば聞こえるでしょうか?こうしたコミュニケーションは広い意味で『アレロパシー(他感作用)』と呼ばれています。そして『ケミカルコミュニケーション物質』とも言われる交流手段がフィトンチッドなのです。
科学的に検証された「森林浴効果」
森林では、ストレス指標となるホルモン分泌や交感神経活動が抑制され、逆に、リラックス時の副交感神経活動や、免疫力を示すナチュラルキラー(NK)活性が高まります。森林浴がもたらす生体反応を、①唾液中のストレスホルモンや心拍変動、②血中の抗ガンタンパク質の変化などで読み取り、森の効果を解明していくことが可能となってきました。
森林セラピーは、こうした医学的なエビデンス(証拠)に裏付けされた森林浴効果をいい、森林環境を利用して心身の健康維持・増進、疾病の予防を行うことを目指すものです。具体的には、森の中に身をおき、森林の地形を利用した歩行や運動、森林内レクリエーション、栄養・ライフスタイル指導などの方法によって、これらの目的を達成しようとするセラピー行為をいいます。いわば、一歩進んだ森林浴です。森を楽しむことで、心身の快適性を向上させ、保養効果を高めていこうとするものです。
「五感」でとらえる森のパワー
人間はもともと自然環境の中で生活していました。現代の人工的な環境での生活は、本来の人間の生活とは違い、大変なストレスを与えます。このような、心身に癒しを与える「森の力」を享受する方法として、最も基本的なやり方は「五感」を働かせること。森の中や周辺で耳や目、鼻、手足、味覚等の五感のアンテナを研ぎ澄ませて、木々の息吹や風のざわめきを感じてください。そして、その中でいちばん自分に合ったリラックス法を探してみましょう。人によって心地よく感じるポイントは異なりますが、自然の中で本来あるべき場所にいるという快適感を全身で感じ、楽しむことができるでしょう。