岐阜県瑞浪市で昨年12月、県内初のリニア中央新幹線工事が始まりました。ところが直後に、基準を大幅に上回るヒ素などの有害物質が検出されたり、JR東海の発注を受けた業者が、砂防指定地や地すべり防止区域内を無許可で掘削したりするなど、住民が不信を抱く事態が続いています。昨年9&10月号でお伝えしたウランを掘り出す危険性も解決していません。住民はどう向き合っていったらいいのか、長野県松本市に元・京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さん(67)を訪ね、お話を聞きました。 ジャーナリスト・井澤宏明
吸い込むと肺から出ない
小出さんは岡山・鳥取県境の人形峠で、1950年代から60年代に掘り出されたウラン残土による住民の健康被害を目の当たりにしてきました。瑞浪市のある東濃地方には、国内最大の埋蔵量といわれるウラン鉱床群があり、採掘が行われていました。
JR東海は「(リニア)中央新幹線はウラン鉱床を回避している」「トンネル掘削中にウラン鉱床のようなウラン濃度が高い土を掘削する可能性は低い」と説明していますが、小出さんはそんなふうに割り切れるものでないと指摘します。
「ここまでがウラン鉱床で、ここからは違うということではないんです。ウラン濃度の高い所から低い所が連続的にあるわけで、トンネルを掘ってみたら濃度の高いところにぶつかることはあるかもしれない。そうなれば避けることができずに、掘り出すしかないわけです」
ウランは放射線を出してトリウム、ラジウムなどに姿を変え、ラドンという気体になり空気中に逃げ出します。
小出さんは人形峠で、放置されたウラン残土からラドンが染み出し、集落に流れ込んでいることを突き止めました。 「鳥取県側の方面(かたも)という集落の人たちは、親族がみんながんで死んでいるっていうんですよ、肺がんで。日本人はラドン温泉やラジウム温泉を喜ぶという習性があるが愚かなことです。ラドンは放射線を出しながらポロニウムなどになって細かいちり状で分散しています。それが危険の正体。吸い込むと肺から出なくなってしまいます」
掘らないのが一番いい
JR東海は、7.4キロのトンネルを掘った残土約85万立方メートルを、非常口から約2キロ離れた谷沿いの埋め立てに使う予定です。万が一、ウラン濃度の高い土を掘り出した場合、最終処分方法が決まるまで、遮水シートや土で覆って工事現場で保管するといいます。
「掘らないのが一番いい。掘ってしまったら、ちゃんとラドンが出ないようにお守りをするしかありません。(ウランを含んだ)土がある限り、ラドンは次から次へと出てきてしまいます。結局、埋めるしかないと思います」
建設に携わる人たちの健康も心配です。
「トンネルで働く人が一番ひどいでしょうね。ラドンから身を守ろうと思ったら、逃げるしかありません。フィルターもマスクも全く意味がない。ですから、ウラン鉱山でも労働者を守るためには換気が一番大切。でも換気するってことは、ラドンガスを外にほっぽり出すってことです」
東濃地方の工事で、ウラン残土が問題にならなかったのはなぜなのでしょう。
「これまでの工事も問題だったんだと思います。誰も気が付かなかったから、何もしないまま来てしまった。でも、リニアの工事は他とは比べることができないほど巨大なので、リスクもそれなりに大きくなるだろうと心配することは正しいと思います」
市民団体の調査で、ウラン鉱床を避けているはずのリニアルート上で高い放射線量が観測されました。JR東海はこの原因として、花こう岩が地表に露出していることを挙げ、「花こう岩中のウラン濃度はウラン鉱床よりもかなり低いことが分かっている」と説明しています。小出さんはJR東海にきっちりとした測定を求めるよう地元の住民に助言した上でこう言います。
「花こう岩という岩石は、泥岩、砂岩に比べると、ウラン、トリウムの含有量が高いのでラドンの放出率は高い。地底に埋まっているところを地表に掘り出してくるわけですから危険を伴いますよ。そんなことまでしてリニアをつくる価値があるんでしょうか」
小出さんの問いかけに、JR東海はどう答えるのでしょうか。