vol.178 メディアよもやま… 連載7

「言論・表現の自由」って何だっけ?

昭和20年、東京に出張していた私の父は大空襲に遭遇し、着の身着のままなんとか金沢へ逃げ帰った。滞在していた下町は焦熱地獄となり、半地下の浅い防空壕に入った人たちは、みんな焼け死んだという。その後、金沢の町内での日課である「竹槍、バケツリレー、防空壕」の防空訓練で、父は防空壕の改善を提言したところ、当時の秘密警察・特高(特別高等警察)に“不穏分子”だと睨まれて、我が家のタバコや砂糖の配給を減らされた。独裁者にとって万能薬のような治安維持法という監視制度、密告制度が日本中を支配していた。戦後、小学生になった僕が何かわがままを言うと、母は「特高が聞いとるぞ!」と僕をおどし、それは子ども心にもぞっとするような効果があった。ナチスとかソ連とかも、同様の雰囲気だったのだろう。圧政と密告は同じ銅貨の裏表だ。それから70年、政権は“オリンピック”と“テロ対策”を安易な口実として議論を閉じ込め、またもや力ずくの国会運営で、現代の治安維持法だと指摘されている共謀罪を強行採決しました。
私たちにとって、そもそも思想・信条の自由、言論・表現の自由って、何でしょう?昔学校で学んだように、中世ヨーロッパではローマ法王の宗教解釈がすべての秩序を支配し、日本の中近世は儒教・仏教・天皇制を背負った幕府権力が支配しました。しかしルネサンスと宗教改革、科学的な発見や進歩などによって、あらゆる文化・文明が問い直され、社会が発展するには、思想や宗教の自由、言論・表現の自由こそが要だと確認され、市民革命に至ります。近代社会の基礎になったイギリス権利章典、アメリカ憲法、フランス人権宣言は、「信教の自由」「言論の自由」「集会・結社の自由」や、政府の不当に抗議・請願することは人間の基本的権利だと宣言し、それは国連憲章や世界人権宣言にも引き継がれました。こうした人類史を踏まえて作られた日本国憲法は、第19条で思想及び良心の自由、20条で信教の自由、21条で集会、結社、言論、出版、その他一切の表現の自由。検閲の禁止。通信の秘密の保持を定め、それは私たちの社会や生活の根本を成しています。


ところでこの数年、日本の政権はこうした人類史の知恵や戦争の悲惨な教訓を軽んじ、立憲制度や自由で豊かな議論を踏みにじって、急速に軍事国家への道を選ぼうとしています。多数の議員を擁するおごり、中世への愚かな逆戻り、というほかありません。「自由というものは、サンチョよ、天が与えてくれた最も価値あるものの一つなのだ。地や海の下に隠れたいかなる宝もそれには及ばぬ。自由のためになら、人は命の危険を冒すことができるし、冒さねばならないのだ。」(セルバンテス「ドン・キホーテ」)

 

つだまさお 「てにておラジオ」代表
1943 年金沢市生まれ。1966 年から NHK で、 主として報道番組の制作に従事。1995年から東邦学園短大、 立命館大学などで市民社会のメディアのあり方を教えたり、 全国の市民 メディアを繋ぐ仕事に携わる。2016年から、「みんなの森・ぎふメディアコスモス」で発信する市民による放送局「てにておラジオ」を運営。





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