vol.174 リニア問題 「住民の理解」って何だ?

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「住民の理解」って何だ?

リニア中央新幹線の建設が本格化するのを前に、各地で行われている工事説明会。終了後、報道陣の前でJR東海の責任者がしばしば口にする言葉に、「住民の理解」があります。
国土交通大臣が2014年のリニア建設計画認可に際して、「地域の理解と協力」をJRに求めたことを意識したものですが、理解したかどうかを判断するのは本来、住民のはず。
ところが、理解をお願いする側のJRが、理解が「得られた」とか「進んだ」と口にするのです。
ジャーナリスト 井澤宏明 (各務原市在住)

南アルプストンネル工事の最前線となる大鹿村釜沢地区。3000メートル級の山々を望む急な斜面に、民家が建つ。

南アルプストンネル工事の最前線となる大鹿村釜沢地区。3000メートル級の山々を望む急な斜面に、民家が建つ。

 

少女の問い

「大鹿の人は、リニアはやめてほしいと言っている。こっちの気持ちが伝わらないのに、そちら(JR)の人は『大鹿村の人は理解された』とか言っているので意味が分からない」
9月7日、長野県大鹿村で開かれた南アルプストンネルの工事説明会。中学生の少女の言葉は、人口1000人余りの静かな山里で続く説明会の意味を鋭く問うものでした。
これに先立つ8月23、24日、住民の生命線である県道を改修し、リニア工事車両を通すための工事説明会が、中川、大鹿両村で開かれました。
不安の声が多く寄せられたのにも関わらず、JR東海中央新幹線建設部の澤田尚夫担当部長は直後の取材に、「住民の理解は得られたと考えている」、「ご理解は深まったという感触を持っている」と答えていました。この判断を受け29日、県道改修工事は始まりました。
冒頭の説明会。参加した住民約130人のうち、この少女を含む約20人が質問に立ちました。大半は、工事への不安やJRへの不信を表明したもので、工事を歓迎するものはありません。
少女の質問に対し、澤田部長は「きょうの説明会では、反対だとか理解できないという意見が多いが、一方で、リニアを推進するという意見を多くいただいている」と反論。「リニアは今後の日本のインフラとして必要だと思っているので、工事をやらせていただきたい」と主張しました。

「影響、想像できない」

南アルプストンネルは、国立公園やユネスコ(国連教育科学文化機関)エコパークにも指定されている南アルプスの山腹に、恵那山トンネル(約8.6キロ)の3倍、約25キロのトンネルを掘るというもの。山梨側は昨年12月、着工しています。
大鹿村では、非常口4か所から掘り出される約300万立方メートルの残土輸送などで、1日最大1350台もの工事車両の通過が見込まれています。う回ルートができるまでの1年余り、保育所や小学校などが集まる村中心部の国道を、1日最大68台の工事車両が通ります。
これに対し、1歳と3歳の子どもを抱える母親は「うちの子は肺が弱いので、排気ガスでぜんそくにならないか心配」、介護施設で働く女性は「暮らしが大きく変わってしまうことで、認知症の方にどんな影響があるか想像できない」と不安を訴えました。
村では1961年(昭和36)の「三六災害」で、大西山が大崩壊し、ふもと集落の42人が犠牲になっています。トンネル工事の最前線となる釜沢地区の女性は「雨が降っただけでも大きな石が落ちてくる場所。発破の振動による土砂災害が心配」と、懸念を口にしました。

それでも「理解は進んだ」

ƒvƒŠƒ“ƒg平日午後7時から始まった説明会が終わったのは10時半前。「住民の理解は、また進んだと考えている」。終了後、報道陣の取材に応じた澤田部長は、型通りの認識を示しました。
「住民の理解」について、澤田部長は「村民の方全員がどうぞどうぞ、という状態を『理解』というのであれば、それは難しいと思っているが、これまで説明したことに対して、こういうことを守りながらやってくれという感じの質問が多いので、次の段階に移れる時期に来たかなと思っている」と話しています。
JRは、年明けにもトンネルの掘削を始めたいとしています。

「地域の疲弊も」

前号の「ウラン、本当に避けられる?」で紹介した瑞浪市日吉町の南垣外地区。10月最初の日曜日、県内初のリニア工事となる日吉トンネル(南垣外工区)の工事説明会が開かれました。
説明会は非公開でしたが、出席した約50人の住民にJRは「ウラン鉱床のようなウラン濃度が高い土を掘削する可能性は低いと考える」と説明しました。
万が一、国際原子力機関(IAEA)の報告書を参考に定めた管理値を超えるウラン濃度の土を掘り出した場合、最終処分方法が決まるまで工事現場で保管し、遮水シートや土で覆って管理値以下に抑える、という説明もありました。

 大鹿村中心部から釜沢地区へ向かう県道赤石岳公園線。こんな狭い道にも工事車両が行き交うことになる

大鹿村中心部から釜沢地区へ向かう県道赤石岳公園線。こんな狭い道にも工事車両が行き交うことになる

最終処分方法が決まっていないことや、工事で出た湧水のウラン濃度が管理値を超えた場合、薄めて管理値以下にして流す、といったJRの説明への不安の声も会場から上がったそうです。
住民は、1日最大460台という工事車両が地域にとって死活問題だと、JRに訴えてきました。JRは説明会直前になって、残土を運ぶ長さ2キロ弱のベルトコンベアを設置することで、160台に減らす案を示しましたが、住民の不安は消えません。
「一番危険なのは命に関わる交通。ウランも危険。全部マイナスなんです。地域が疲弊してしまう心配もある」と南垣外自治会長の熊谷盛治さん(65)。自分たちの生活を守るため、住民の悩みが尽きることはありません。





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