三年先の稽古
相撲の世界のことばに「三年先の稽古」というのがあります。これは相撲だけではなく、受験勉強や日々の身体づくり、経営(企業、自治体、国家など)においても言えそうです。「石の上にも三年」といいますが、三年というのは大事な指標となるのでしょう。九重親方(元横綱・千代の富士)には、「いま強くなる稽古と、三年先に強くなるための稽古と、両方をしなくちゃならない」という名言があります。難しいけれど、人は“いま”と“未来”の両方を鍛えないといけないのですね。剣の達人・宮本武蔵は『五輪書』のなかで、「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」と書いています。鍛錬(たんれん)とは千日を超えて、万日(約三〇年)も必要なのですね。元気がないように見える日本ですが、いまがふんばりどころです。大事なのは、暮らしを持続可能なものにゆっくり変えていくこと。そして、古き良きものを活かし、地域の宝を活かし、新しい考え方、新しい発想、新しいアイデアを加え、すてきな贈りもの(モノやコト、システムなど)をこの地から周囲に届けていくことです。
「パンとサーカス」を超えて
古代ローマの詩人は「パンとサーカス」ということばで世に警鐘を鳴らしました。パンとは小麦粉を、サーカスとは見世物を指します。それらを与えられた人々は何も考えなくなり、ついには滅びていってしまいます。新聞や書籍など日本のメディアで、この「パンとサーカス」のことがよく登場するようになり、気になってきました。いま日本が古代ローマと似ているからだそうです。「パンとサーカス」で国が亡びるなら、その逆をいけばいい。単純な私はそんなことを思いました。実家の田んぼや畑、市民農園ですこしでも汗をかいてみよう。サーカスもいいけど、課題先進国・日本においては、山積した課題をそれぞれの得意分野や協働ですこしでも解き、後世の負担をすこしでも減らそう。世界中が「パンとサーカス」と同じ方向にあるいま、滅びないために私たちは「パンとサーカス」とは真逆の道を歩んでいかないといけないと思います。私たちの生き方や暮らし方、働き方の転換が急がれます。
※半農半Xとは・・・半農は環境問題、半Xは天職問題(どう生きるか)を背景とする。持続可能な農のある小さな暮らしをベースに、天与の才を社会に活かす生き方、暮らし方。ex.半農半漁、半農半大工、半農半看護師、半農半カフェ、半農半絵描き、半農半歌手、半農半鍼灸師、半農半カメラマンなどなど。
塩見直紀(しおみなおき)半農半X研究所代表
1965年、京都府綾部市生まれ。20年前から「半農半X(エックス=天職)」コンセプトを提唱。半農半X本は中国語訳され、台湾、中国にもひろがる。著書に『半農半Xという生き方 実践編』など。