春になり緑の草木が伸びてきました。気持ちの良い季節ですが、所々に茶色に変色した場所を見ると楽しい気持ちが失せます。除草剤をまいた場所でしょう。変色した草地が至る所にある風景が子どもの情操に悪影響を与えるのでないかと、心配する声を聞きます。
グリホサートは発がん性物質
除草剤の多くに、グリホサートが有効成分として入っています。先に本紙「にらめっこ」(2015年5&6月号)に書きましたが、2015年3月に世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、除草剤の有効成分グリホサートは人間で発がん性の可能性が強いと報告しました。発表後の世界の動きや、この頃からの科学研究の進歩を追いました。
世界の動き
WHOがグリホサートの発がん性を報告すると、数ヶ月後、英国領バミューダやスリランカではグリホサートを含むラウンドアップなどの除草剤の輸入や販売を禁止しました。スリランカでは、動物実験からも示唆される慢性の腎臓障害が急増したためです。
コロンビアでは麻薬コカインの原料となるコカが違法に栽培されています。コロンビア政府はコカ栽培を防ぐためコカ栽培地にグリホサートを空中散布してきましたが、大統領はグリホサート撒布を止めると発表しました。フランスはIARC報告の約3ヶ月後、2015年6月にグリホサートの店頭販売中止を要請しました。担当するロワイヤル女性大臣は「フランスは農薬を止めるのに積極的でなければならない」と話しています。
米国のカリフォルニア州は発がん物質や生殖毒物、内分泌かく乱物質を、住民が知ることができるように、プロポジション65というリストに追加します。州はグリホサートを発がん物質の追加候補としましたが、モンサントは抗議し、グリホサートを守るため2016年1月に州と責任者を訴えました。
環境保護庁(EPA)は現在グリホサートの再評価中で、食品医薬品局(FDA)は食品中のグリホサート残留調査をする予定です。
欧州連合は免許更新が停滞
欧州連合ではグリホサートの免許更新の時期です。2015年7月、ドイツ連邦の研究所は、農薬業界の団体が出した未公表論文に基づき、動物実験の発がん性の証拠が非常に不十分であるとして、グリホサートの免許の再認可と1日許容摂取量の緩和とを勧告しました。これを受けて欧州連合の食品安全を担当する部局も同じような報告をしています。
更新は無条件で認められると思われていましたが、2016年3月の会議でフランスやスウェーデン、オランダ、イタリアが反対し、承認は延期されています。
科学者らの動き
今年の2月、「環境ホルモン」で有名なコルボーン博士を含む科学者グループはラウンドアップの安全性を検討し、次のような内容の声明を発表しました。
グリホサートを含むラウンドアップなどの除草剤使用は大量で増え続け、世界中の環境を汚染している。考えられていたよりも環境中に長く残り、人間の被ばくが増えている。発がん物質の可能性が強いと分類され、規制の科学的根拠が時代遅れである。
今年の3月、世界中の100人近くの科学者は欧州連合の発表内容がモンサントの未公表資料に依存が大きく、公表された論文を無視して、モンサントに有利な報告をしたと批判しました。スタップ細胞事件で明らかになったように、報告が公表されることは科学の客観性を保つために重要です。
最近の科学研究の進歩
水道水基準に近い微量のラウンドアップを2年間ネズミに与えた最近の研究があります。肝臓と腎臓にがんや様々な異常が現れました。この事から科学者たちはラウンドアップの影響を調べるには、モンサントが行ったような90日程度の短期間の実験では不十分で、長期投与実験では水道水の基準程度の濃度でも影響が現れることを発見しました。
その後、科学者たちはラウンドアップが遺伝子の働きに影響を与えることを発見しました。特に肝臓と腎臓で、ミトコンドリアの働きや染色体の構造、ホルモンの信号伝達に関係する機能が大きく変化し、ラウンドアップの発がん作用を反映していると、研究者らは報告しています。
雑草は除草剤なしでも処理できる!
雑草は家畜の大切な餌でした。美濃加茂市(美濃加茂市都市公園・さくら広場)では雑草を山羊に食べさせています。この除草法は現在日本各地で行われています。
不気味な除草剤に頼らずに、子どもたちの未来に責任を持てる方法で雑草を処理しましょう。
わたなべかずお:福島県生まれ。新潟大学卒。浜松医科大学勤務(脳研究と教育に従事)医学博士、各務原ワークショップ主宰(毎月第4木曜日13:00〜渡部宅(各務原市蘇原東栄町)主に健康と環境に関することの勉強会)参加希望者はbandaikw@sala.dti.ne.jpまで