きこり・鈴木慶子さん
女だてらにきこり?!そんな意識はなかった。
ただ、ビルの中より森の中が心地よかったんです。
OLからきこりへ
何故きこりになったのかとよく聞かれるのですが、きっかけはたまたまなんです。実家は瑞浪市の農家だったのですが、こどもの頃から自然の中にいることが好きだったので、素地はあったのかもしれません。
大学を出て、地元の商社に入社したんですが、3ヶ月で「あー、もうダメ!」って。(笑)一日中ビルの中で仕事をしていると、その日の天気さえもわからないんですよ。そんな現状に限界を感じてた頃、ふれあい会館(岐阜市)へ出かけた折りに「きこりになりませんか?」っていうきこりの体験イベントのチラシが目に入ったんです。その時はただ単に会社のパソコンからちょっと離れて、山の中でチェーンソーで木を切ったりするとか、そういうのにすごく血が騒いで「面白そう!!」と参加したんです。関市洞戸でのイベントだったのですが、こんなに楽しいのは初めてだ!って思いました。その時の講師が今私が働いている株式会社カネキ木材の社長だったんです。
きこり体験のイベントは月に1回、毎回参加していました。でも、それだけでは物足りなくなって、勤めていた会社の休みのたびに邪魔にならない程度にちょっと見せてくださいって、カネキ木材さんの林業の現場を見させてもらったりしました。今になってわかるんですけど、「ちょっと見るだけ」と言われてもその存在自体が気になっちゃうので、なかなか簡単には「どうぞ」と言えないんですよね。だから最初はあまり見せてもらえなかったんですけど、ぼちぼちと現場が止まっているときとかに見せてもらっていました。商社には3年いたんですが、その間なんと、2年9ヶ月は週末ごとに山へ通っていました(笑)。
現場を見ていて、内心「これは女の仕事ではないなぁ」と思っていました。本当にすごいと思ったんです。危険だし、体力もいるし…。その時は、まさか自分がその仕事をするなんて夢にも思っていませんでした。でも、少しずつ手伝わせてもらうようになって、社長から雑用からやってみないか、と言われて入社し、この仕事をするようになったんです。
とにかく体力!
同僚の男性には、「何だこいつは!って思われるんだぞ」という覚悟で入社しました。そこは若さとやる気でカバー!と思っていたので、動くときは必ず走る、人が2~3往復するなら自分は4往復するとか、少しでも迷惑にならないようにしていました。ものすごく動いてましたね。今思えばムダに動いてたところもあって、その分の体力を今にとっておけばよかったと思うくらい(笑) 。その頃は若かったので一日山の中にいても全然疲れなかったですね。とにかく体力勝負の仕事ですから、やっぱり男性が働くべき仕事だなぁと今でも思います。
仕事の内容は、<①木を切り倒して機械のあるところまで運ぶ><②枝を落として丸太にする><③丸太をトラックで運ぶ>というものです。どこの会社でも2?3人でやる仕事です。私も2人で組んでやっています。1つの現場には短くて1ヶ月、長くて2~3ヶ月です。どこの現場でも自宅から直行です。今の現場は八百津なので、近くて助かっています。仕事中におトイレに行きたくなったら?もう当たり前のようにその辺で、ですよ。もうそれが普通です。
山の中では野生動物によく遇いますよ。リスはその辺にもいますし、鹿、猿、猪…。でも基本的に車や重機が入れるところでの作業なので、熊のいる奥山までは行かないですね。
危険なことはしょっちゅうです。この仕事をしている人なら誰でも怪我をしているんじゃないでしょうか。私もチェーンソーで足を切ったりしました。木を切っているときに跳ね返りが思わぬ方向に来てしまうことがあるんです。その時にたまたま足がそこにあったんですね。深くはないですけど、筋肉も切ってしまいました。たまたま、が重なった時に怪我をしやすいんですね。こんなにも危険と隣り合わせな仕事って他にないんじゃないかなぁ、と思うくらい。自然が相手なので思いもかけないことがおこるんです。
家族は心配していると思います。でも、きっと反対しても聞かないだろうと黙ってくれてるんだと思います。若い時ってやりたいと思ったら、やった方がいい理由しか頭に浮かばないじゃないですか。本当はマイナスの事もあるのに、それが頭に入ってこないというか。だからやらせておくしかない、って感じだったと思います。私も後になって、いろいろ心配かけたなあと思うんでしょうね。なんか、お金かけて外国の大学まで行かせたのにって親は思っているでしょうね。その分を返すってなかなか難しいなぁ。
間伐について
実は、きこり体験で触れるまで私はきこりはおろか、間伐や林業自体を知らなかったんです。
大学はイギリスで4年間環境について学んだのですが、それは外国での環境の話しで、イギリスは森林面積が国土の8%しかないですから、日本とは事情が違うんですね。日本でもいろいろな報道を見ると、「木は切っちゃいけない、植えよう」っていう感じが多いですよね。それだけを見ると、木を切ってはいけないと思いがちですが、植林だけしても手入れをしないとよけいに自然が荒れてしまう。森林の少ない国では、切ることはあまり良くないことだけど、日本では手入れのための間伐など、木を切る事も重要な役割があるんです。そういうところはまだあんまり伝わってないかなって感じます。中学校の森林教室に行く機会が時々あるんですけど、やはり木を切ることは悪いことだと思っていたようです。
林業
勉強した環境問題と今の仕事をリンクさせるという余裕は今の自分にはないですね。林業は産業で、自分がどれだけ働いたかで会社の利益が変わってくるんです。
間伐には切り捨て間伐と利用間伐とあるんですが、うちの会社は基本的には利用間伐。使ってもらうための間伐ですね。以前は皆伐といって、山にある木を全部伐採する方法をとっていました。皆伐をしたらその後に植林しなくてはいけないのですが、木が育つのには40~50年かかります。植えてから切り出してお金になるまで50年くらい。50年間は、そこでは収入がないんですよね。植えっぱなしだと、ちゃんとした木が育たないから、草を刈ったり枝打ちしたり、間伐もしないと。
日本の林業にとって、外材が入ってきたのが大きな痛手のひとつです。港や運河に行くと太くていい木がいっぱい貯めてあるのを見たことがある方もいらっしゃると思います。しかも外材は安いんです。値段の差があまりにも大きいと勝負にならないから、国産材はどんどん値が下がっています。使う人にとっては安くていい木が手に入るのはいい事だけれど、そんなに安い値段で外材がここ(日本)にあるということは、現地(原産地)の人たちは、きつい仕事をどれだけ安い賃金で働いているんだろうと思いますね。実は、イギリスでの授業では結構日本は悪者のようにいわれていたんですよ。東南アジアの国の木が切られ、自然破壊をしているのはどこの国が原因でしょうか?それは日本です!って。日本は自分の国の木を切らずに他の国の木を安く買い叩く、と。食べ物でもなんでもそうですが、やっぱり地産地消がいいんじゃないかと思います。
今5年近く働いてきて、体力の衰えというのはすごく感じます。自分自身が一番良くわかるんです。男性の30代なら働き盛りなのに、女性は体力が落ちていくんですね。将来的に、体力が落ちても現場監督とか、後輩指導とかでこの仕事と関わっていくという選択肢もあるかもしれないですが、私は自分がきこりの仕事をやりたいんですね。だから今後も、「できる限り続ける」としか言えないです。
プロフィール
鈴木 慶子 / きこり(岐阜県瑞浪市在住)