ボーダレス社会をめざして(32) 伊藤 佐代子さん
市主催の展覧会と病気
「各務原市の観光文化課ですが、図書館アート展に淳司さんの作品を貸していただけませんか?お母様の体調がすぐれないと福祉課の方から聞いておりますがどうでしょう?」という問い合わせの電話がかかってきました。抗がん剤を飲んでいた頃で体調は悪く、先が見えない日々を過ごしていましたが「こんなチャンスはまたとない」と即、お受けしました。市から依頼がくる程、淳司は有名になってしまいました。7月28日~8月5日に各務原市の図書館で伊藤淳司作品展が開かれました。打合せには淳司と一緒に行きました。淳司の展覧会ですので、DMも淳司が色などを決めました。展覧会はもうやりませんと言っていたはずなのに、やる気十分で印刷も頼めばすぐしてくれるという気合の入れようでした。どうもわかりません??そして展覧会が間近になってくるとカウントダウンが始まり、「あと展覧会まで、何日です。」と楽しみにしていました。淳司は楽しみにしていればいいのですが、私は展覧会をすることを了承したものの、大きな会場ですのでどう展示をしたら淳司の作品がより良いものに見えるか、マネージャーとしての私の真価が問われる機会と考えて毎日のようにない知恵を絞っていました。かなりの時間を費やし準備をしました。そのことばかりを考えていますと、閃く時があるものです。あっこうすればいいのか!と。楽しい時間を過ごせました。また、この展覧会の準備が「がん」という見えないものにおびえる自分の気持ちを紛らわせてくれました。天から授かった機会と時間でした。おびえる気持ちを発見できたのもこの時期でした。多くの癌関係の本を読み、やっと自分が納得できる考えに到達することができました。時間がかかりましたが、今では心はすっかり安定しました。また前向きに夢を持って暮らせる自分になりました。しかし、以前とはちょっと違っています。1日1日「今日も一日生きられた」と感謝しています。自分をいたわりながら無理はしない生活をしています。心も体も以前に増し充実しています。何のために病気になったのか?意味を考え、食の改善、運動など生活習慣をがらりと変えました。
プロフィール
伊藤 佐代子 (いとう さよこ)
伊藤淳司の母、岐阜障害者就業・生活支援センターの支援ワーカーをした後、NPO法人オープンハウスCANの理事長。地域で暮らす障がいのある方の生活支援や障がいのある方と書道を楽しんでいる。