VOL.152 I’m Challenger 「自然・循環」が私のキーワード 「呉藍漢方薬局 中平真理子さん」

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01自分の思い
私はもともと自然のしくみを知ることに興味を持っていたので、自然の中で暮らして環境に関する仕事をしたかったんです。そのため大学は、農学部かな?と思ったのですが、農学部は生物の中の有効成分を取り出したり、ある生物の未知の成分を解明するような研究分野が多く、自分のしたいこととは違っていてどうしようかと…。自然の中で暮らしたいというのは、漠然とした夢だったので、どの学部がいいのか分からなくて、結局、広い意味で生物の勉強ができるだろうと薬学部に進みました。でも実際の授業では、受容体、神経、ホルモンなど人体のミクロの世界の勉強がほとんどでした。それを知ることで体全体の仕組みがわかればいいのですが、矛盾することも多くてとまどいました。体の細部を知れば知るほどわからないことだらけで、自分のしたいこととは何かずれがあるように感じていました。

今の礎となる経験をした社会人生活
薬学部での勉強で唯一好きだったのが化学の構造式を書くことだったので、化学系の企業に就職しました。職場での現実は成果を早く求められます。それは大学院の時も同じでしたが、会社には目の前に商品開発という目標があります。それに直接繋がるような実験計画を組み、結果をださなければいけません。それが大変でしたが、やりがいでもありました。でも、自分はそれについていくだけの体力もなかったので、これを一生の仕事とする自信がありませんでした。

中医学との出会い

大学生の時に患っていた病気が再発してしまったのを機に会社を辞めることに。病院では「西洋薬では治せない」と言われていたので、漢方薬を試してみることにしました。そこで、漢方薬局の先生を訪ねて相談したところ、今の不調の原因を説明して下さいました。それはからだ全体から大きくとらえたもので、理論的でとても分かりやすかったのを覚えています。そのときの先生が中医学専門の方でした。今までそういう説明を聞いたことがなくて、これは面白い!これだったら自分に合うかな、と思いました。
これまで漢方というと、ひたすら記憶の学問というイメージをもっていましたが、先生のお話を伺って、流れやバランスといったことを考える学問であることに気づかされました。結局、私はミクロの世界よりも、全体の流れを考えることの方が好きなんだと実感しました。
その先生に「これは中医学の考え方だよ」といわれ、はじめて中医学ということばを知りました。漢方は中国の医学が日本に伝わって日本独自に進化発展してきたものです。それに対して、中医学は古代からの中国医学をそのまま取り入れたもの。何千年にもわたる歴史があります。これから一生の仕事にするのはこれしかない!と思いました。

基本と応用が重要な漢方

それから上海の中医学の大学に、先生がやっている薬局で患者さんとのやりとりを見せてもらったり、実践を含む勉強をしながら漢方について2年間学びました。教科書通りにやってもその型にはまるものなんてありません。ただ、理論をベースに、いかに応用できるかが重要です。理論とは、シンプルで抽象的ですが、だからこそどんな状態に対しても応用が利くのだと思います。人体の仕組みはとても複雑です。それを逆に単純に捉え、わかりやすくする、というのが今私がしていること。また、色々な原因が重なり合っていることが多いので、一つ一つを紐解いて、それを探り出さなければいけません。どんなに勉強してもキリがあるわけでなく、一生勉強・探究の繰り返しだと思います。

呉藍(くれあい)の由来

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紅花の別称。もともと紅花は中国の三国時代の呉国から日本に入ってきたもので、呉の国と、当時日本で染料の総称としての意味を持っていた『藍』を組み合わせて、呉国からきた染料、すなわち『呉藍』と呼ばれるようになりました。
紅花の紅は『くれない』と訓読みされますが、
『くれあい』がなまったものです。

自分の「漢方薬局」をオープン

薬局を開いたのは2012年7月。自分流にやりたくて。あまり無理なやり方は体調を崩す元ですしね。自分自身が健康であることが基本です。そうじゃないと患者さんにも健康になってもらえない。家族もみんな漢方薬で以前より元気になりました。父は最初「気?そんなもん信用できないなぁ」って、確かにこの分野ははっきりした数値で表せるものじゃないし。でも、だまされ半分でずっと飲んでいるうちに本当に体調が良くなって、前より動けるようになったら「漢方ってすごいなぁ」って。(笑)
漢方は高価というイメージがあるようですが、私は逆に、長期的に考えれば安いと思うんです。からだ全体のバランスから考えますので、たくさんの症状が一緒に改善できますから。また、症状の原因を解決していくので、原因が治れば薬を飲み続ける必要はありません。今からピークを迎える花粉症も体内に何らかの原因があって生じているので必ずしも治らない病気ではないんですよ。もちろんバランスを崩さない生活を送ることを前提としますが。
漢方は、病名やある一つの症状から薬を決めるのではなく、すべての症状・病歴・顔色・話し方・肌の状態・生活習慣など体全体をみて初めて薬を決めることができます。そのため同じ病気でも人によって薬は違ってきます。逆に病気が違っても同じ薬があうこともあります。また、症状は体にどこか悪い所があることを知らせてくれるシグナルだと考えます。漢方には「未病を防ぐ」という言葉がありますが、まだ小さなシグナルから病気になることを予測し、病気の芽を摘んでしまうこともできるのです。忙しい現代生活ですが、どうか小さなシグナルを見落とさないで、自分の体をいたわってほしいな、と思います。

今後の目標

01 今の仕事は、自然と関わりたいという昔の夢とは一見離れているようですが、とても近い面もあると思います。なぜなら、中医学の理論はもともとすべての自然現象を説明するために生まれてきたものだからです。自然現象の観察から生まれてきた漢方を理解するには、その原料である生薬にも着目する必要があるのではないかと考えています。
実のところ、現在漢方は、欧米を含め世界中でその効能が科学的に実証されつつあることもあって、生薬の価格が高騰しています。それなら自家栽培でという選択肢も考えられますが、農業経験もない私が栽培したところで、かえってコスト高ということにもなりかねません。ただ、生薬を一から育てることは、漢方に対する理解をより深めるのではないかと思います。その意味で将来生薬の栽培に携わりたいです。
もちろん無農薬で、生薬の煎じかすを肥料として使うことで、循環型の栽培をしたいな、と。自然や土に触れることが心を元気にすることに繋がると思っています。山の中の古民家で、自然栽培をしながら、患者さんを看る、そんなイメージを抱いています。まだまだ夢の段階ですけど…。

HUMAN’S DATA

なかひらまりこ 岐阜県出身。
京都薬科大学卒業。名古屋市立大学大学院修了。
化学系企業研究職勤務時に、自分や家族の病気が西洋薬では限界があることを感じて会社を退職し、漢方の道を志す。調剤薬局勤務かたわら上海中医大学日本校で中医学を学び、国際中医師の資格を取得。中医師黄懐龍先生に師事。

薬局開設許可番号:岐阜第196号
医薬品製造業許可番号:岐阜第43号

SHOP DATA

呉藍漢方薬局:各務原市新鵜沼台1丁目144
TEL 058-384-4325058-384-4325 FAX 058-385-4526
e-mail kureaikanpou@kureai-kanpou.com
http://kurreaikanpou.com/

 

【取材を終えて】

何気ない会話でよく話題に上る「趣味は?」と問うと、「ピアノかなぁ?」と。本業には関係ないように見えても、真理子さんにとって音楽はストレス解消のひとつ。集中してピアノを弾く時間が好きだとか。趣味とはいうものの、第6回ベーテンピアノコンクール全国大会一般B1の部3位入賞という腕前。2013年3月24日、東京都王子ホールでの受賞者記念演奏会に出場する。演奏曲は、ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 第1楽章(ラフマニノフ)。白衣からドレスに着替えてピアノに向かう彼女の晴れ舞台。ホールで奏でられるピアノの響きに身をゆだねたいなぁ。そんなことを思いました。