VOL.163 I’m Challenger 「一位一刀彫・彫り師東 直子さん」

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一位一刀彫

一位はイチイの木。一刀彫は、一刀一刀に魂を込めて彫る、と父は言いますけど、もう一つ、ノミの削り跡を活かした、サクサクッとした作品がありますよね、ノミ跡一刀一刀残して彫るという意味合いでもあると思います。  木彫りにもいろいろあるけれど、一位一刀彫が何故こんなに素朴な優しい感じがでるのかな、って思ったとき、やっぱりこのイチイの木の素材のよさだなと思うんです。成長がとてもゆっくりな木なので、育つのに百年もかかる貴重な木です。手に取って見ると本当に年輪が細かくて美しい木で、あぁ、自分はすごくいいものに触れている、作らせてもらっているんだな、ということはよく感じます。イチイの木は軽いんですよ。木の中では柔らかくて彫りやすいです。

きっかけ

父が一刀彫を生業としていて、お弟子さんを何人もとって、作業場もあって…。そういう環境で育ってきて、絵を描いたり、ものを作る事は小さい時から好きでしたけど、一刀彫をまさか自分がやるとは思っていませんでした。  高校卒業後、地元で一刀彫とは関係のない仕事に就いていたんですけど、23、4歳頃から、何かものつくりをしたい、生涯続けられるような職を手につけたい、という思いが出てきました。でも、何がやりたいのか、何がやれるのかというのが自分でもわからなかったんです。そんな時、父が一刀彫で小さいものだったら、女性の直子でもできるかもしれないからやってみるか?と声をかけてくれたんです。  一刀彫は男性社会で、女性はいなかったんですけど、私が小さい時から物を作ったり、絵を描くのが好きだったのを見ていたから勧めてくれたのかもしれません。  それで、6年間勤めた職場を退職して、東彫刻に入門しました。当時は男性二人がうちに弟子入りをしている時だったので、私 も一、二年遅れで入門してそれから修業が始まったんです。  娘だからといって特別な事はなく、道具を研ぐ事などから始まり、木工機械や木取りも教わりましたが、体力的に男性と全く同じようにできない部分もあって、そこは助けてもらいながら。当時はまだ力もなくて、木工機械で何かあると大きなケガにつながってしまうので、そこが危なっかしいという事もあったと思います。他のお弟子さんにずいぶん助けてもらいました。だから自分はなるべく掃除とか、できることから一生懸命やろうと、最初の一年はほとんど掃除で終わったようなものでした。

作品

5年間修業して、みなそれぞれ彫号をもらって独立しました私は「直」という彫号をもらいました。独立後は男女関係なく、自分のオリジナルの作品を作って販売、営業も、と全部自分でやっていくわけです。私が一番ありがたかったのは、父の「自分のオリジナルの作品を産み出していきなさい」という考え方です。父は大きい木彫から、彫刻からありとあらゆるものをやる人で、「自分の真似はきっとできないだろうけど、直子の作品を作って行けばきっとやっていけるから」という言葉をよくもらっていました。人の真似じゃなくて、自分にしかできない作品を作って行きたい、という思いで今までやってきました。  私がつくるものは小さいものがほとんどです。もともと小物なら女性の私でもやっていけるかな、という気持ちもありました。しかも、小さな作品なら、大きいものを彫る父が、木取りをした後に残る部分で作ることができる。貴重なイチイの木を無駄のないように、良い部分を利用する事ができるんです。

女性職人展

独立して、さあこれからは自分で、という時に、全国の伝統工芸の職人さんばかりを取材している、東京のライターさんが取材に来てくださいました。それがきっかけで、東京で女性職人展が開催されて、毎年出させてもらっているんです。それは私にはありがたい出会いでした。男性社会の中の女性職人ということで、孤独を感じる事もあったんですけど、他の女性達がそれぞれ伝統工芸の作品を作っているのを見て、すごく刺激を受けました。ああ私も頑張っていいものを作らなきゃと、課題を持って帰り、もう一歩上に、もう一歩上にという気持ちになれたんです。  その一つのご縁からいろんな人と繋がる事もできました。仕事をいただいたり、今年10月には“伝統工芸ふれあい広場 渋谷ヒカリエ2014”に出させてもらいました。いろんな人やお客さんとお話しができたりして、より一刀彫を知ってもらうこともできました。家の中で作るばかりでなく、こちらから出かけて行くという事は大切だなと実感しています。

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プロセス

作品作りは、まずデザインから始まります。私はデッサンしたものをコピーして、正面からと横からの型紙をつくります。それを機械場に持って行って、合う木を探して、型紙をあてて切り落とします(木取り)。機械を使うのはこの時だけで、その他は全て手作業になります。その後、粗彫り、中彫り、仕上げ。着色はしないで、木の色合いを大切にします。彫刻は要らない部分をとっていく、そうするとその本体が出てくるんです。  何をどう彫るか、デザインは楽しみと苦労の両方があります。入門して初めて思ったのが、頭に立体が全く浮かばなくて、はあ、なんて世界に入ってしまったんやろう、できるかなって。すごく後悔しました。でもそこはやっぱり父のおかげ、本当に何もできないところから教えてもらいました。  何を彫るか決まったとき、花などのように手元にその見本があれば一番いいのですが、動物などはそうはいきません。例えばネズミを彫るんだったら、ネズミの写真などの資料を図書館で探して見て参考にするんです。でも写真にない部分など、それでもわからない時は、今でも父に教わりに行きます。私、父が元気なうちに教わりたい事はまだまだいっぱいあるんです。

商品

03この世界に入って20年弱ですけど、もう辞めようと思った事は何回もありました。今も正直、これだけでやっていくのは大変なんです。一生懸命作っても売れないと仕事として成り立たないし。でも、ああもうできないかな、という時でも、常に自分の空いた時間に座って作って、ということをやっていると、ポツンポツンと注文が来たりもするんです。本当にもう細々とですけど、続けてこられたのはやっぱり好きだからだと思います。  商品は、一刀彫さんの中でお店を構えている方、高山市内だと四軒に置いてもらっています。売れるとやっぱり嬉しいですね。小さいですけど自分の中のヒット商品というのがあって、時々そういう商品も生まれて、やっていけるといいかなあって思うんです。この間、韓国からの観光客の方が私の作品を買って行ってくださったそうです。自分の作品が韓国の家庭に飾られる、何てすごいんだ!と思いますね。  私の作品にはカエルや花など、自然を題材にしたものが多いんです。カエルは、小さい作品になりやすいし、と父が力を入れて教えてくれた題材です。実際作ってみても、何に乗せても絵になるし、飽きないですね。もっと違うカエルも彫りたいし、カエルで日本一と言われたいですねぇ。  また、咲いている花を見ると、こんなふうに彫りたいな、咲いている花を胸元につけたような感覚の彫りをしたい、と思います。そして、一つの作品から何か背景が浮かぶというか、ストーリーのあるもの、そういう作品ができるといいですね。そこを目標にしています。  彫刻って、作り手その人が作品に出るものだと思うんです。だからというわけではないんですけど、やっぱりもっと自然の事などを知って、その上で彫れたら、そういうものも生まれてくるかな、と思うんです。        (高山市在住。43歳)

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