VOL.163 環境講演会「子どもの脳が危ない」黒田洋一郎

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<発達障害と療育>

発達障害やグレーゾーンの子というのは、どういうことかというと脳の発達途中で、ある神経回路だけが障害があって、特定の行動だけ、例えば他者とのコミュニケーションなどがうまくできないなどがみられます。他は正常でいろんなことができます。線引きしたら、白黒別れるようですけど、実はその線引きの周りが全部灰色なんです。症状による診断ですので、医師によるバラつきが出てしまい、非常に診断が難しいんです。  発達障害と診断されるとずっとそのままかというと、そうではなく、たとえば2才のとき自閉症と診断された子が3才になったら発達障害でなくなったとか、かなりの人たちが自閉症から、特定されない広汎性発達障害に変わったという報告もあります。脳というものは一般的に思われているよりも、もうちょっと柔軟なものではないかと私は思っています。  治療療育するためには、脳の神経回路(シナプス)を新しく作れば良い。そういうと、「え?!」と驚かれる方がいますが、これは大人では昔からやってます。例えば巨人軍の長島さん。あの人は脳溢血で半身麻痺と言語障害でしたが、おそらく療育の良い方がついたことと、本人も必死で言語療法をやりました。するとかなり戻りましたね。大人の神経疾患ではリハビリテーションが当然なんです。  大人より子どもの方がはるかに脳が柔らくシナプスができやすい。そうすると、療育の中でも、特定の行動を繰り返すようなリハビリ的な行動療法で、治す事ができるんじゃないかと思うのです。これにはやっぱり早期発見、早期療育の重要性があるわけです。また、治療、回復、予防の可能性を考える時、家庭や社会環境も考えなきゃいけません。日本では最近、発達障害になった子どもへの接し方が悪くて子どもがますます悪くなってしまった、という二次障害の例が増えているそうです。

<発達障害と環境化学物質>

人間の脳には無数の神経回路があってそれは、化学物質でつくられています。そこへ、その化学物質と構造のよく似た“環境化学物質”(殺虫剤、農薬など)などが外から乱入すると、脳が本物の化学物質と間違えて、神経回路をつくる時に異常が起きてしまいます。  親からもらった遺伝子が正常でも、遺伝子が体を作る時にかく乱されると障害が起るということです。発達障害の原因は遺伝にあるのかと研究された結果、遺伝よりも環境の影響が強いんじゃないか、との考えが多くなってきました。そうすると、予防の可能性が出てくるんです。  悪い環境だったら、いい環境にしたら防げるということになります。だから、農薬などが発症の引き金になっている可能性は高いので、環境化学物質の曝露を避ける事で予防ができるということになります。これはかなり合理的な予防です。  発達障害を起こしうる環境化学物質としては、有機水銀や鉛等の重金属、それからPCBやダイオキシンなどの有機塩素化合物、有機リンやネオニコチノイドなどの農薬があげられます。特に、有機リンやネオニコチノイドなどが、アセチルコリンという重要な神経伝達物質に関係しています。  普通シナプスというのは胎児?4歳くらいで発達します。大人の脳には脳関門というものがあって、毒のあるものはなるべく脳の中に入れないようにしていますが、胎児や乳児の脳というのは、脳関門が未発達ですから、発達するまでの間は、素通りしてしまいます。だから母親が摂ったものが胎児に、母乳の中に出たものを乳児が飲むと一部は脳に移行する。発達の一番盛んな時期に危険なものが入りやすいということになります。

<昆虫と人間の脳>

02 近年ミツバチの大量死はネオニコチノイドなどの農薬汚染によることもはっきりしています。人と昆虫は違うと言う人もいます。もちろんいろいろ違うんですけど、こと神経系のシナプス伝達に関するかぎり基本的に同じなんです。だから記憶の研究も実はショウジョウバエを使ってやっているくらい、人の記憶と昆虫の記憶は似た仕組みだと、脳研究者の間では考えています。ですから、農薬が害虫だけに効いて、ヒトや益虫には効かないなんていうのは不可能なんです。  発達障害は療育で症状を軽減させることは可能ですけれども、大変な努力が必要です。発達障害の引き金になるような農薬などは、予防的にひとまず禁止にしておこう、というやり方がこれから段々主流になってくると思います。これを予防原則というんですけど、これは本当にこれからの哲学というか、ものの考え方の基本になるべきだと私は思っています。   (文責・にらめっこ)

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