「履物の表情」
小池三枝さんの『服飾の表情』という本のなかに、「履物の表情を読み取る」という、はっとすることばがあります。「入り口に脱いで置かれた履物には、それを履いてきた人の姿や家に入る時の気持などを伝えるさまざまな表情が出る。(中略)履物の表情を読み取るなどということは、西洋の人たちにはおそらく想像できないであろう」と。このことばに出合ってもう15年ほど経っていますが、以来、靴の脱ぎ方が変わりました。急いでいるなとか、落ち着かれているなとか、他者への配慮があるなとか、いろいろ読み取れますね。履物の表情を読み取る。こう したことを取り戻すことでこの国がよき方向へ変わり出す。そんな気がしています。
「カップル」
阪神大震災の翌年(1996年)、31歳から始めた田んぼ(米づくり)ですが、まだまだひよっこの20回目です。おかげさまで我が家も9月中旬、稲刈りです。大型コンバインなら、数時間で刈ってしまうところですが、我が家はゆっくり数日かけて、手刈り&稲架(いなき)がけをします。稲を刈っていると、バッタのカップルに出会うことがあり、さてさて、どうしたものかと思います。そのまま刈ってしまうと、2人(2匹)は離ればなれになってしまうような気がするからです。心を鬼にしてそのまま刈るか。それとも、違うところに移動し新天地で刈り始めるか。昆虫好きとしたら、悩むところです。最近は、面倒でも、こころの柔軟性やフットワークを大事にし、移動するようにしています。その場を刈ることにこだわらなくてもいいのでは、と。縁あって我が田んぼで育ってくれたバッタさんの人生が最後までよいものであるように、また生まれ来る次世代に幸多かれと願って。今年もたくさんの気づきやインスピレーションを田んぼでいただきました。田の神さまに感謝です。
塩見直紀(しおみなおき)半農半X研究所代表
1965年、京都府綾部市生まれ。20年前から「半農半X(エックス=天職)」コンセプトを提唱。半農半X本は中国語訳され、台湾、中国にもひろがる。著書に『半農半Xという生き方 実践編』など。
※半農半Xとは・・・半農は環境問題、半Xは天職問題(どう生きるか)を背景とする。持続可能な農のある小さな暮らしをベースに、天与の才を社会に活かす生き方、暮らし方。ex.半農半漁、半農半大工、半農半看護師、半農半カフェ、半農半絵描き、半農半歌手、半農半鍼灸師、半農半カメラマンなどなど。