広島市で9月26日朝、道路陥没事故が起きました。陥没は東西約40メートル×南北約30メートルに及び、深さは最大約2メートル。けが人はありませんでしたが、広島市によると10月7日現在、傾きやひび割れを確認した建物は12棟、住民は避難を強いられたままです。道路の地下約30メートルでは直径6.15メートルのシールドマシンによる市の「雨水管」掘削工事が行われていました。2020年10月に東京都調布市で陥没事故を起こした東京外郭環状道路(外環道)には直径約16メートル、リニア中央新幹線には直径約14メートルのシールドマシンが使われています。地下工事で事故が起これば地上に取り返しのつかない影響をもたらします。岐阜県瑞浪市大湫町のリニアの地下トンネル工事ではシールドマシンは使っていませんが、その後も被害が広がっています。
井澤宏明・ジャーナリスト
止まらぬ沈下、水枯れ
3.7センチの地盤沈下
今年2月中旬に発生したトンネル湧水は10月になっても止まっていません。共同水源や井戸、ため池の水枯れや水位低下は8月下旬までに17か所(水枯れ12、水位低下5)に広がってしまいました。
トンネル湧水の減水・止水効果があるとして5月下旬にようやく始まった「薬液注入」ですが、JR東海が「成功例」として参考にすると例示してきた「北薩トンネル」(北薩横断道路、鹿児島県)で7月下旬、内壁が崩落して土砂や湧水が流入したり、路面が隆起したりする事故が起きてしまい、JR東海は対策の見直しを迫られることになりました。
さらに、8月27日の第5回岐阜県環境影響評価審査会地盤委員会では、「地盤沈下」が観測されていることをJR東海が初めて明らかにしたのです。5月末から観測を始め3か月で最大2.4センチ。これには委員の1人から「3 か月で2センチメートルぐらいだと、1年で8センチメートル。このスピードで行くとは信じられませんけれど、どうしてそんなにその土地が沈むのかな、それだけ帯水し(地下水が溜まっ)ていたのかな、と思うのですが、そのあたりが少し怖いなという気がします」と驚きの声が上がりました。
9月26日の第6回地盤委員会では、同じ地点で3.7センチの沈下が報告されました。約1か月で1.3センチ沈んだことになります。
「まだ何が起こるか」
JR東海が約60世帯を対象に被害調査を始めた9月中旬、筆者は大内延男さん(83)のお宅を訪ねました。リニア路線から100メートル以上離れたところにあります。
自宅脇の縁石がずれ、縁石と同じ高さだったというコンクリート舗装が1.5センチほど沈んでひび割れ、自宅の基礎との間にすき間が目立ちます。コンクリート製の浄化槽に接している土砂がえぐれ、浄化槽の側壁がむき出しになってしまいました。調布市の外環道の陥没事故現場周辺の住宅で筆者が見たのと似た光景です。玄関の引き戸を閉めると、わずかに戻るようになってしまいました。
「家建てて43年ぐらいになるけど、初めてやね」と大内さん。飲食に使っている井戸の水位は1メートルほど下がってしまいました。大内さんが蛇口からガラスのコップに水をくむと、表面がさっと曇ります。飲ませてもらうと癖のないおいしさ。「井戸水はねえ、ほんとに貴重やし、こんだけのええ(良い)水は出ない。スイカやそうめんなんかものすごい冷えるよ」と誇らしげです。
そんな大内さんも「元に戻るってことはもう恐らくないと思う。僕はそう思っとる」と厳しい表情です。
JR東海は家屋の被害調査に合わせて9月13日、19日に住民説明会を行いました。会場を後にする男性に声をかけると今年5月、田んぼの見回り中にお話をうかがった方でした。
男性によると、田んぼに傾きができたためか水のたまり方が一定にならなかったそうです。水を多めにして稲の倒伏(倒れること)を防いだものの、水の管理が大変だったとのこと。「これからまだ何が起こるか分からない」。不安げな表情は以前と変わりませんでした。
JR東海は「薬液注入」以外の対策を打ち出せていません。第6回地盤委員会では神谷浩二委員長(岐阜大学工学部教授)が「早急に対応を考えていただきたい」とJR東海の担当者に発破をかけました。