vol.218 ぴーふぁす汚染はじまったばかり

 前号(217号)では水は土壌を汚染する、という特集でした。微生物は地球を救う!というなんとも心強い菌ちゃんの存在。しかし、「永遠の化学物質」はなかなか手強いのです。以下、『これでわかるPFAS汚染」ー暮らしに侵入した「永遠の化学物質」ー(著:原田浩二)を抜粋します。

農作物がピーファスを取り込む
大阪府摂津市におけるダイキン工業淀川製作所周辺での土壌、地下水のピーフォアが高濃度で検出されたことはすでに紹介しましたが、この一帯では水道水の汚染はあまりありませんでした。これは水道の水源が主に淀川の水であったためです。しかし、農家で農作物を自家消費している住民には、ピーフォアが100ng/ml近い血液濃度の人もいました。水道水以外に考えられる摂取経路として農作物に着目しました、農家さんの野菜を分析し、ピーフォア濃度が高いことが明らかになりました。ピーファスの中でも、ピーフォアで高い汚染がある土壌では農作物にピーフォアが入り込んでしまうことがわかり、ピーファス汚染がもはや水の問題に止まらないことを示していたのです。

土壌汚染対策法の導入を
日本ではピーファスの土壌汚染の状態が不明のままに放置されています。しかし日本の法律には「土壌汚染対策法」という、運用次第では強力な法律があります。土壌汚染により汚染された水を飲料水として飲むリスクの低減、人の健康被害の防止のため、国が土地の所有者や管理者、あるいは占有者に汚染の除去を命じることができる法律です。
米国には、汚染対策法として「スーパーファンド法(Superfund Act)」があり、「包括的環境対策・補償・責任法(CERCLA)」と「スーパーファンド修正および再授権法(SARA)」の2つの法律がセットになっています。汚染調査や浄化は米国環境保護庁が行い、汚染責任者を特定するまでの間、浄化費用などは石油税などで創設した信託基金(スーパーファンド)から支出するしくみになっています。日本の「土壌汚染対策法」も本気になって運用すれば、ピーファスの土壌汚染対策に大きな力を発揮するはずです。
また将来的な適用を考えて、土地の所有者が取り組みを進めることも期待したいです。日米安保条約に関わる地位協定の制約もあり、困難な課題ではありますが、日本の法律で明確に位置付けることは、在日米軍に対しても、対応を求めるための根拠となると考えられます。

ようやく対策強化に動く日本
日本では2023年1月に入って、ピーファス対策強化を視野に入れた議論がようやく始まりました。厚生労働省、環境省の合同会議では、今後の水質目標値の再検討が行われ、一度は据え置きになったものの、検討する姿勢が示されました。その根拠となるリスク評価に内閣府食品安全委員会が着手し、その結果が23年度に出され、それに基づいて改訂が行われる可能性があります。23年2月にはピーフォスとピーフォアが水質汚染防止法の指定物質となりました。23年8月には土壌中のピーファス分析の方法が環境省から自治体に通知されました。
私も参加している環境省による「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」では、ピーフォア、ピーフォス以外のピーファスの取り扱い、汚染実態の調査の強化を提言し、24年度予算への要求が出されました。これが十分かは議論がありますし、行政、自治体の取り組みについて市民の目を向けて、声を上げていくことが必要です。
今後も、新たな汚染地域が見つかっていくと思います。ピーファス問題というのは、ピーフォス、ピーフォアの製造は廃止で終わったのではなく、はじまったばかりなのです。

ピーファスの人体への影響
ピーファスの環境汚染の状況や摂取の実際を知ると、結果としてどのような影響があるのかについて、心配されるかと思います。ピーファスのうち、ピーフォス、ピーフォアについてはこれまで多くの研究が行われ、いろいろなことがわかってきました。
2000年代半ばに行われた、ネズミなどを使った動物実験は、特に、親のネズミにピーファスを投与して、生まれてきた胎仔の成長が遅れることが示されました。この影響は肝臓や神経、発がん性の影響が出る投与量より低濃度でも確認され、多くのリスク評価で目安になっています。ヒトの健康調査となる疫学研究でも、母体血中のピーフォアとピーフォスの濃度と出生体重に程度の大小はありますが、関係があったことが報告されています。これらの疫学研究では、血中濃度はそれほど高くなくても影響が見られ、人間は実験動物よりも影響を受けやすい可能性があります。


各務原市では、昨年11月、岐阜民医連 PFAS汚染健康調査実施委員会が地元住民ら131人/希望した28~96歳の男女131人(各務原市122人、岐阜市9人)を対象とした血中のPFAS濃度の検査を結果を発表した。
住民が要請したにも関わらず、「血液検査の実施はしない」「浄水器取り付け費用の補助はしない」と結論づけた各務原市。2023年4月からは下水道料金の値上げをしたばかり。市民からは不満、不信感は拭えない、という声が多々聞こえる。

そこで、血中のPFAS濃度の検査を受けた方からその数値結果と感想をお聞きしました。
(個人情報保護のため名前と整理番号は伏せてあります)
 もう検査結果を見て、衝撃だった!ここに住んで23年。私より長くここに住んでいる人よりも数値が高かったし!単純に検査結果は年齢が高ければ高い人ほど数値が高いと思っていたけど…違っていました。もちろん個人差もあるだろうけど、平均値より高い数値に正直驚いています。でも、なんで自分はこんなにも数値が高いんだ?
10年くらい前のことですが、人間ドックでLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値が高い事が明らかになって、その時「食生活を考えて」と言われて気をつけていたのです。卵とか脂質は控えるとかね。でも何をやってもその数値が一般的基準値を超えてる。何がいかんのかさっぱりわからなくて。これって、も、もしかして、私のコレステロール値が高いのは長年飲み続けてきた水道水!PFASのせいかも?…なんて思ってしまうんです。因果関係なんてわからないですが、それくらい不安です。今は水道水を飲んでいないので、今後の検査で私の脂質異常症がどう変わるか、すごく興味があります。
市は「相談窓口を設ける」という事ですが、満足できる解答が得られるか、その窓口がちゃんと機能するのか。たらい回しは御免被りたいです。それと相談窓口で受け取った内容をデータ化することはちゃんとしてほしいですね。
また、PFAS汚染の血中濃度を分析できる施設は全国にたった一箇所しかないんです。
各務原市には県の保健環境研究所がありますよね。今どんな活用のされ方をしているんだろう。あの建物内で、分析センターを開設したらいいのにな。各務原市は当事者だし、マスコミもこぞって取材に訪れるだろうし、全国的にも超有名になるよね。PFAS外来、相談窓口も一本化して、定期的に健康診断、血液検査をして、それらをデータとしてちゃんと残す。知見がないなら検査を積み重ね知見として構築していく。そんな姿勢を市に求めたいですね。
(談話・三井水源地 在住 Aさん)

 

 今回の血中濃度調査は長期間に体内に取り込んだPFASの量を評価するものであり、現在の濃度では急性の健康影響を引き起こす可能性はほぼありませんのでご安心ください。また、血中濃度は、飲料水や食事に含まれるPFASだけでなく、職業、年齢、性、ライフスタイル、使用する日常品などでも影響を受けることがあります。
今回のPFASの大規模な汚染と健康影響を明らかにする調査は、京都大学のご協力を得ながら全国で取り組みが行われていますが、PFASの汚染と健康影響の全貌が分からず手探りで調査を進めざるを得ません。汚染状況の把握と、汚染源およびPFAS曝露による様々な健康影響に関して明らかにするためには皆様の引き続くご協力が欠かせません。

血中濃度のとらえ方と考え方
ガイダンスは、血中濃度(PFAS,PFOA,OFHxS,PFNAなどの合計値)に関して、医療上の指針を出している。今回の調査では、PFAS,PFOA,OFHxS,PFNAの合計値と健康影響がよく研究されているPFAS+PFOAの合計値をそれぞれ皆様に報告しています。報告値のうちPFAS+PFOAの合計値に注目して、以下の値と比較してください。
2ng/mL未満:健康影響はない。
2ng/mL〜20ng/mL未満:感受性の高い集団(妊婦など)では悪影響の可能性。
20ng/mL以上:脂質代謝異常の検査、甲状腺ホルモンの検査、腎がんの徴候や症状の確認、精巣がんや潰瘍性大腸炎の症状の評価を勧める。