「なぜ戦争への準備なのか〜平和への道を探る」
2023年11月3日 平和のつどい 岐阜市民会館大ホール
安保三文書決定、戦争できる国へ突き進む岸田政権
東京・中日新聞に入社後、日本歯科医師連盟のヤミ献金問題、防衛省の武器輸出、軍学共同をテーマに取材。17年4月以降は、森友学園・加計学園問題で、官房長官会見で質問を続けた。著書に『武器輸出と日本企業』、『新聞記者』、『報道現場』、『日本解体論』(白井聡との共著)近著に『日本は本当に戦争に備えるのですか?』(共著)など多数。
国連児童基金(ユニセフ)によると、ガザ地区の病院では赤ちゃん120人(人工呼吸器をつけている未熟児の新生児70人を含む)が保育器の中で、予備の発電機につながった機械を頼りに生きている。ガザの報道はテレビや新聞で取り上げてはいますが、自分たちのこととして議論を進めているのか。こういう状況を見ると、今日本が23兆円という巨額の軍拡に舵を切ったことによりガザ地区、イスラエルのような戦争となりうる…。私は今とてつもない危機感を持っているんです。
昨年末に岸田さんが突如、国会で安保三文書を決定し、敵基地攻撃能力の保有を打ち出し、GDP比2%の軍事費を増強しました。こういう流れの中で8月8日、台北での国際フォーラムが開かれた。そこで麻生副総裁の「戦う覚悟」発言が出ました。「今ほど、日本・台湾・アメリカをはじめとした有志の国に、強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時はない。こんな時代はないのではないか。『戦う覚悟』です」「台湾海峡の安定のために、(防衛力)を使うという明確な意思を相手に伝える。それが『抑止力』になる」。自民党副総裁という立場での講演です。麻生さん周辺の議員の方々も、「中国が反応しているということは、つまりこれは『抑止力』になっているということ。今回の麻生さんの『戦う覚悟』発言で戦争のリスクは下がる」というんです。何言ってるんだ?ですよね。
この発言で「抑止力」になっているのか、と言ったら全くそうではない。8月9日、在日中国大使館は「ものほど知らずで、でたらめを言っている」「日本の一部の人間が執拗に中国の内政と日本の安全保障を結びつけることは、日本を誤った道に連れ込むことになる」と。中国外務省も「台湾海峡の緊迫した状況を誇張し対立を煽り、中国の内政に乱暴に干渉した」と非常に強く反発をしております。日本はけしかけるような内政干渉とも言われることを麻生さんに、政府の外務省を通じて言わせたんです。
今年は日中平和友好条約締結から45年の節目ですが、尖閣諸島をめぐる問題や処理水の海洋放出もあり双方の国民感情は悪化。日中関係に「悪い」「どちらかと言えば悪い」は、日本人で68.4%、中国人で41.2%。18歳以上の2500人を対象にした調査結果です。
何が問題なのか。処理水の問題を掲げた日本人が36%で4割近くいる。処理水問題が結果として政治的な道具に使われているということ。今までの保守系新聞だけではなく、朝日新聞、リベラル紙さえもが、この処理水を問題視している。これを受けて中国の社説でかなり厳しく批判をしていました。
結果としてこれが軍拡を突き進み、防衛費を2 %に引き上げ、その先にあるのは台湾有事、台中戦争ということを想定している岸田政権。ではこの流れをどう変えるのか。アメリカへの対米依存度の約3倍、日本は中国に依存しています。海産物の輸入制限をやられた時に、年間871億円ですよ。それほど多くの水産物が日本から中国へ輸出していたんです。アメリカ以上に対中関係を改善させていくことが本当に今一番大切なことなんです。
防衛財源確保法が成立
増税の代わりに、今後は同法成立で創設された防衛力強化資金の税外収入など他の財源からの追加負担も検討される。毎年4兆円を確保しなければならない。年間3兆円あれば、小中高大の国公立大学の授業料も無償化、給食費の無償化、これが可能だという試算が出ています。3兆円をその無償化に使って欲しいと私は思ってます。
軍拡のために増税に頼っては良くないが、税外収入に頼るということは国債に依存するということ。それは太平洋戦争の時と同じような日本の財政があやういと言われているので、軍拡予算を作るために防衛増税をして、どんどん国債に頼っていけ、という。こういう非常に無秩序なやり方に日本は舵を切ろうとしているんですね。同じようなやり方で、安保三文書を閣議決定され、軍拡を突き進めようとしています。
▼ 敵基地攻撃能力(反撃能力)保有明記。▼ 安保関連経費 2027年度に防衛力の抜本的強化と、それを補完する取り組み
▼ 周辺国への認識 中国=対外的な姿勢や軍事動向などは我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり(中略)これまでにない最大の戦略的な挑戦。
ところが韓国の革新系の新聞は、「事実上戦争ができる国家に変わった、軍拡を激化させ緊張を高める」と。そして保守系東亜日報でも、「憲法9条を完全に無力化する内容」と報道。日本の防衛費が現在の世界9位からアメリカ、中国に次いで3位に。こうなると韓国は世界の2位3位の軍事増強国家に包囲される!と、去年の安保三文書決定以降、韓国の世論の中で、軍事増強国家に包囲されてるぞ、北朝鮮、中国に包囲されるということで、実は今、リベラル系の知識人も含めて、全体の7割の人が「韓国も核を持つべきである」と、核武装を支持。日本はアメリカ軍のトップが2027年にも台湾有事が起きうるということを話題にしたことを受け、台湾有事に備えよっーという流れが急速な勢いで進みどんどん軍拡を進めています。
結果としては安全保障のジレンマという流れの中で、周辺国の東南アジアの地位、こちらの軍拡ということを物凄く誘発しているんですね。このままじゃ全体がまさに緊張に包まれ、何かが起きた時にあっという間に戦争に巻き込まれていくんじゃないかということに、私はここでも危機感を覚えます。
ウクライナ紛争以降の世界秩序
思想史家、政治学者。現在、京都精華大学国際文化学部准教授。『永続敗戦論ー戦後日本の核心ー』(石橋湛山賞、角川財団学芸賞受賞)、『国体論ー菊と星条旗ー』、「武器としての「資本論」』『日本解体論』(望月 衣塑子との共著)、近著に『日本の正体』他、多数。
統治の崩壊
ここまでひどくなってきた理由ってのはなんだろうか。構築されてきた社会のあり方、これが限界に達した。それが統治の危機という形で全般的な行き詰まりが現れたんだと思います。そして戦後という言葉。今年は戦後78年目。日本は1945年の敗戦という形で大きな挫折を味わう。そこからいわゆる戦後復興、高度経済成長があって、現代に至る。
このようにみていくと1945年はマラソンでいうと折り返し地点のように見える。そこを境に戦前と、戦後という時代をわけている。戦前は明治維新を起点として考えると77年間。そして1945年から昨年77年間、つまり、昨年は戦前と戦後が時間的に同じになった。そして今年、戦後の方が長くなりました。
長くなったこの戦後という言葉、日本人は独特の二つの意味を与えてきたと思います。一つは1945年に終わったあの戦争の後、ということですが、もう一つは戦争一般です。あの戦争はいろんな意味でひどいものであって、最終的には核兵器というそれまでの兵器とは桁の違うものを使われて、敗戦を認めることになった。
で、そこから、もう戦争はこりごりだ、絶対戦争しない、させないということで「憲法9条」が大事なものだと考えられてきたわけです。戦争は絶対起こしてはならないという信念確保です。しかし一方でそこには問題があったように私には思われます。といいますのは、「もう戦争はないんだ」という感覚が広く日本社会に定着してしまった。だからこの戦後という言葉が独特の響きを持ってつながってきたんだと思うんです。この78年間、日本は交戦する当事国には一度もならなかった。
サンフランシスコ講和条約と日米安保条約というのは同時に結ばれています。この二つの条約は完全にワンセット。つまり、一応独立は認めてやるけれど、米軍は駐留し続けるぞ、ということが、宿命のように決められていったのです。いわばそれを前提としたうえでの、アメリカの傘の中(核の傘ともいう)にいるということが全ての前提となった上での平和主義。だけど、もうそういった時代は終わりました。今それが音を立てて崩れようとしている。ウクライナ紛争勃発以降、急速にまたハッキリと表面化してきたというのが現在の情勢であると私は考えます。
この地図をご覧ください。紺色の国はロシアとウクライナが戦争を始めて、ロシアに対する経済制裁に参加している国(北米の2カ国、ヨーロッパのほとんどの国々、オセアニア主要国であるニュージーランド、オーストラリア。アジアでは日本、韓国、台湾、それからシンガポールです)。黄緑色の国々は参加していない国(南米とか中南米とかアフリカとか、中東、それからアジアの広い範囲の国々)。参加していない国の方が圧倒的に多い。このことの意味をよく考える必要があると思うんです。つまり、この戦争が始まってロシアの所業は帝国主義的だとアメリカは激怒する。なんかヤクザの抗争みたいな論理なわけ。実はヤクザの抗争に例えると今の情勢というのが非常によく理解できるんです。というのはヤクザっていう現象は人間の社会における暴力という極めて原初的な形態ですから、そして国家というものの本質はここにあるわけです。そういう理屈でロシアが戦争を始めたなと、そんなことはけしからん!許さん!ロシアを干上がらせてやれ。さあ、みんなで制裁しよう。とアメリカはヨーロッパ西側諸国に言ったんです。だけど、そんな平和主義違反を中東や中南米の国々はどんなふうに聞くでしょうか?アメリカはまさに中南米はおれのシマだ、反米的な政権ができようものなら、あるいはできそうになると、あらゆる攻略を使い、時には軍事力を直接むき出しに使って叩き潰していくということをやってきたわけです。要するに制裁を実行した国は先進国であり、してない国は途上国だっていうこと。こういう図式が鮮明になっていくにつれてこの戦争の意味、位置づけっていうのがどんどん大きくなってきました。
まずこれはロシア対NATOの戦争だというふうに考えられるようになった。確かにウクライナは実はバルト諸国から多大な資源を受けなければ戦争継続ができないわけです。いわゆる大戦争の性格をもつようになり、そしてさらに中国の動きが決定的だった。中国がロシア寄りの中立という立場をとることで、いってみればG7対グローバルサウスという構図になってきました。要するに、先進国対途上国という構図がいろんなとこで、戦乱を伴う形で出てきている。なるほど、なぜ岸田大軍拡というものが強行されようとしているのか、ということが全部腑に落ちてくると思うんですね。
要するにこれはグローバル南北戦争なんだから、アジアへも飛び火するぞ、それに対応する体制を作らなきゃ、ということです。本当に中国と戦争を始めるとすればどうなりますか?まず中国と断交してもやっていけるような経済を作らない限り中国と戦争なんてできるわけがない。だけど、アメリカはとにかくヤレ、ヤレと言ってくる。だから、本当は戦争なんてできないんだけど、やる気がある顔をしとかなきゃいけないから、とりあえず武器でも買っといてお茶でも濁すか。これが今の日本の政治ですよ。そしてすでにその中で憲法は残念ながら空文化している。なぜならそもそも日米安保条約、さらにはそれに付随する日米地位協定のほうが日本国憲法よりも上位にありますから。そして究極的な問いが突きつけられています。アメリカという天皇のために死ねるのか、と。こういう政治になっている。これをもう脱却するということが本当の意味で戦後を終わらせるということなんです。
※お二人の対談は次号に掲載します。