vol.214 しょうがいをみつめる vol.7

平たんなうねり

落ち着く、整う、心穏やか。
どれも今の心境を表す言葉にはならないけど、なんとなく心の“うねり”と“うねり”の波間は平たんになっている。
明るく努める、元気よく努める、前向きに努める。
どれも今気にしている事柄を表す言葉にはならないけど、なんとなく衝動の“うねり”と“うねり”の波間は平たんになっている。
まだまだ頻繁に起こる“うねり”を観察しながら、その“うねり”の間隔は広くそして低くなったと感じている。落ち着いているとか混乱しているとかのどちらににも当てはまらない平たんな景色が広がりつつあるようにも見える。ような気がするだけかも。
春から夏に向かうこの季節は2年前に他界した長男を想い、寂しさを纏う時期である。今年も然り、やはり寂しいのである。
2月末に長男の3回忌法要を終え、3月末には香川県三豊市。瀬戸内海に浮かぶ粟島の「漂流郵便局」を訪れた。
届け先のわからない手紙、預かります。行き先不明の手紙が届く小さな島の『郵便局』

~いつかのどこかのだれか宛~
こちらは、届け先の分からない手紙を受け付ける郵便局であり、「漂流郵便局留め」という形で、いつか宛先不明の存在に届くまで漂流私書箱に手紙を漂わせてお預かりいたします。

過去/現在/未来
もの/こと/ひと
何宛でも受け付けます。

いつかのどこかのだれか宛の手紙がいつかここにやってくるあなたに流れ着く。

懐かしい未来への郵便局。漂流郵便局、開局いたします。

【漂流郵便局】
築50年の郵便局を使ったアートプロジェクト。手がけたのは現代美術作家の久保田沙耶さんで、第2回目の瀬戸内国際芸術祭を機に誕生。局内では、全国から寄せられた「誰かに届けたい想い」を綴ったハガキが展示されています。※本物の郵便局ではありません。

三豊市観光交流局HPより

2022年2月に主催したアート展「渾沌の中の調和」の開催前に漂流郵便局留めで長男宛にハガキを出した。彼が繋いでくれた人たちと共に展示という形を取りながら、町なかに空気が広がっていく気配を感じた。その稀有なる縁や彼が存在として在ってくれることを感謝する内容をハガキに記した。2023年2月の展示ではさらにそれは広がり、大きな渦”の”始まりを見ているかのようであった。
訪れた瀬戸内の景色は、美しさや荘厳さ、悲しみや寂しさ、懐かしさや喜びを同時に連れてきた。感情が両極端に揺れるのを平たんな心の景色から眺めていた。そこには優しく海と島々が広がっているだけであった。ハガキを出した時からみると未来である今を優しく抱きしめたいと思えた。そして「ありがとう」と伝えたいと思った。
自分が書く文章、いや今までの会社経営の中でも「衝動」に駆り立てられ実行することは多かった。長男と離れて2年経った今は、臨場感あふれる彼との触れ合いがない。身体にギュッとくる感覚がない。思わず抱きしめる、思わず怒る、思わず笑う、思わず悩む、思わず気づく、思わず……書き留める。臨場感をなくした今は書けない。書きたい衝動にかられない。瀬戸内を訪れて以来そう感じていた。
今感じている景色を表すことは私を困惑させる。それは存在や悲しみを薄れさせ、失っていく恐怖として感じるからである。しかしフェーズは変わろうとしているのだろう。「もう彼に関する文章は書けない」と思っていた昨日を平たんな景色から今は眺めていようと思う。

って、書いとるやん!


MASA:若者をはじめ、障がい者も一緒になって、ごちゃまぜイノベーションを目指している。知的障がいのある息子は享年24歳で2021年2月27日に旅立った。関市在住。