かつて欧米ではミツバチの大量失踪が問題となり、事態を重く見た日本でも有識者会議が行われました。
「ミツバチが減少している」と聞いても、どのような影響があるのか、すぐに自分事として問題に感じられる人はあまりいないのではないでしょうか?しかしこのまま減少が続けば、自然環境や私たちの食生活に大きな影響が出ます。
ミツバチはなぜ必要?
ミツバチの存在は、自然環境にとって不可欠。同時に、私たちの食生活にとっても欠かせない存在です。花々の受粉を助けて植物を繁栄させるだけでなく、受粉によって野菜や果物を実らせるからです。
2011年にはUNEP(国連環境計画)のアヒム・シュタイナー事務局長が、「世界の食糧の9割を占める作物100種類のうち、7割以上がミツバチによって受粉している」と発表しています。
このことからも、ミツバチの存在が私たちの食生活を支えていることがわかります。
ミツバチ減少の原因は?
・農薬の使用
欧米でミツバチの大量失踪が起きた後、その原因として「ネオニコチノイド」系農薬による影響の可能性が指摘されました。農作物につく害虫駆除や、植物が受ける害虫被害を最小限に抑えることを目的として、散布します。効果の持続時間が長く散布回数が少なく済むというメリットがあるので、多くの農作物を育てる過程で使われてきました。
しかしミツバチに限らず、ネオニコチノイド系農薬を散布している田んぼではアキアカネやワカサギが同様に減少していることがわかりました。こうした背景を踏まえ、ネオニコチノイドが生物に対して何らかの影響を及ぼしているということは言えるでしょう。
・ダニの発生
ミツバチの体に寄生するミツバチヘギイタダニによる被害。このダニは、幼虫とサナギの中間期であるミツバチの体液を吸って産卵し、繁殖します。
一方、体液を吸われた蜂は成虫になっても羽が縮れて飛べず、花の蜜や花粉を集められません。つまりエサを得ることが出来ないまま、命を落とすこととなります。
欧米では数百万箱以上の巣箱が
ダニの被害に合い、巣箱にいたミツバチは全滅したと言われています。しかし、ダニの詳しい生態はわかっておらず、現在もなお、対策のための生態研究が行われています。
・気候変動
蜂は温度や湿度などにデリケートで、季節ごとに状態が変化します。
しかし、温暖化によって植物の開花時期がずれたり花が咲かず、蜂がエサを得られなくなっているのです。熱波や豪雨などの異常気象も、蜂にとって過酷な状況。一方、蜂の天敵であるダニや寄生虫は温暖化によって寿命を延ばし、蜂にとってはより生きづらい環境となっています。
ミツバチが減少を続けることで、自然環境や私たちの生活には具体的にどのような影響があるのでしょうか。
ミツバチが減少すると影響は?
・自然環境への影響
ミツバチが減少し続ければ、多くの植物は受粉が出来ず数を増やすことが出来ません。森林の減少にも繋がり、地球温暖化は加速するでしょう。また、森林減少が続くと雨水の浄化機能を失い、水質汚染や水害を引き起こす原因となります。水質汚染が起きれば、川や海に住む魚や貝、海藻といった生態系も被害を受けます。
同様に、植物が育たないことで、ミツバチのように花の蜜を吸う蝶や木の実を食べる動物はエサを失うでしょう。生態系は連鎖しているので、こうした事態がさらなるミツバチの減少を招き、悪循環となるのです。
・私たちの生活への影響
ミツバチの減少による影響は、自然環境に対するものだけではありません。はちみつや野菜、果物の獲れる数が減り、価格の高騰が起こります。
他にもコーヒー豆やアーモンドもミツバチによる受粉が行われているため、ミツバチが減るとこうした食品は価格が高騰したり、口に出来なくなったりするでしょう。
植物を食べて育つはずの家畜を育てることが出来なくなり、食肉や乳製品も、入手出来なくなります。さらに、綿花の生育過程でもミツバチによる受粉が行われているため、コットン製品が使えない、着られないといった事態も起きます。
農作物の種類によっては、農家による自家受粉が行えるものもありますが、ミツバチが媒介することによって効率的かつ経済的に受粉を行えるだけでなく、果実の品質も良くなるため、やはりミツバチの存在に頼らざるを得ないのです。
これらを踏まえると、ミツバチの減少は私たちの生活ひいては経済を破綻させるだけのインパクトがあると言えるのではないでしょうか。
私たちにできること
買い物をするときに無農薬・オーガニックの野菜や果物、製品を選ぶことがまず第一歩。価格の安いものの多くは多量の農薬が使われ、大量生産されています。
「買い物は投票」であることから、無農薬・オーガニックのものを積極的に購入することで、無農薬・オーガニックで作物や商品を作る農家やメーカーを応援することに繋がり、ミツバチを守ることに繋がります。
ドイツ発Topics
ハチのための自動販売機「ガチャガチャ」をアップサイクル 生息地増やせ
「ハチのごはん自販機」
機械はもともと、子ども向けにチューインガムやおもちゃを売るガチャガチャだった。エバーディングさんはそれらを修理して、新たな用途に使えるように「アップサイクル」。
なぜハチなのか。ドイツが児童文学「みつばちマーヤの冒険」で知られているから?エバーディングさんは「最初みんなそれを連想するんだけど、僕の自販機はむしろ野生のハチのためなんだ。ミツバチは養蜂家が大切にしているけど、野生のハチのことはほとんどの人が気にしない。生息地はどんどん少なくなっている」。野生動物が好きで、保護団体でボランティア活動をした経験もあるという。
花粉を媒介するハチや鳥の働きは、農作物生産の4割近くに影響を与え、果実や種子として栽培される作物の75%がハチの恩恵を受けている。
この自販機は、わずか3年半でドイツ全土に広がり、現在稼働中のものが約300台もある。一つのカプセルで1~2平方メートルの植栽ができると仮定すると、これまでに100万平方メートル以上になる計算という。
「僕たちの世代は、学校帰りに自販機でガムやおもちゃを買うのが楽しみだった。何味が出るかな、どんなおもちゃかな、って。自販機はそういうワクワクを生み出す。子どもがお小遣いでハチのための種を買って、『お父さん、お母さん、植えようよ』と言ったら断る理由なんてないよ」
これですべての問題が解決するわけではないことはエバーディングさんも分かっているが、人々の意識を変えるきっかけになれば、と願っている。
朝日新聞GLOBE 自販機 機械と人の物語より