子どもにあわせて枠をひろげる
教室という決められた空間で全員が黒板に向かって先生の話を聞くという、明治時代に学制がスタートして以来の教授スタイルは、私が子どもだった頃も、そして大人になった今も、スタンダードな授業のやり方として続けられています。
小中学校の特別支援教育を学ぶ研修会などに出ると、「授業中ずっと机に突っ伏して寝てしまうんです」「友達にちょっかいばっかりかけて授業の邪魔するんです」「嫌な教科になると教室を出て行ってしまうんです」といった現場の先生のお悩みを聞くことがよくあります。
このような話を聞くたびに、そういった行動に出ざるを得ない子ども達の叫びが聞こえてくるようで、どうにかならないものかともどかしい気持ちにさせられます。
昨年、縁あってスウェーデンで行われている野外教育を学ぶワークショップに参加しました。野外での学習の手法やその効果を、参加者である私たち大人が実際に体験し、その翌日には簡単なプログラムを組んで、実際に子ども達に指導してみるというような内容でした。
「自然の中にある1メートルを探そう」、「自然の物で色相環を作ろう」、「木の枝とロープで立方体を完成させよう」など、子どもも大人も夢中になるような楽しい活動をたくさん行いました。
屋外での活動は、心が開放的になって、初めましての参加者や子ども達と自然と打ち解けて過ごすことができました。1メートルも色も、立方体も、学校で習って知っていますが、実際に自分の体で体感しながら学ぶとより深く理解できました。
また、自然にあるものを使って学ぼうとすると、例えば、ぴったり1メートルのものなんて決して見つけられません。ちょっと曲がってるけど大体1メートルのものがあって、それが正解になります。教室で学んでいると、答えはただ一つしかないんだ、それ以外は間違い(ぴったり1メートルが正解で、1メートル1センチは間違い)なんだ、となってしまいがちなのですが、そんなの自然の中ではあり得ません。答えは一つじゃないという自然の真理を体感して学ぶことができました。
このようにさまざまな野外教育の魅力を感じることができたわけですが、私が最も素晴らしいと思ったのが、「教室という壁がないこと。教室の枠そのものが子どもに合わせて横にも縦にも広げられる」ということです。
子どもとの活動の最中、こんなことがありました。長さの学習をしていたあるグループの子が、活動と関係のない木登りを始めてしまいました。一緒にいた指導者の大人はびっくりしたものの、「じゃあ君のいるそこ(木の上)からここ(地面)までの長さを測ってみよう」と、子どもの突発的な行動を逆手にとって活動(学習)の幅を広げることに成功しました。まさにこの時、この子に合わせて教室が縦に広がったのを感じました。
こんなこともありました。子ども達同士のペア作りが上手くいかず、気分を害してその場を離れていってしまった子がいました。どうやって連れ戻そうかと一緒にいた指導者の大人は思案しながら付き添っていたそうですが、しばらく山を歩いた後自分から活動の場に戻っていくことができました。この子にとってはこの時、山の方まで教室は広がっていたのかもしれません。壁に囲まれた空間がないということは教室の中と外という区切りがありません。子ども自身その場に壁を感じず自分から戻ってこられたんだろうと思います。
「子どもを枠にはめるのではなく、子どもに合わせて枠を広げる」野外教育は、インクルーシブ教育の目指す教育そのもののように感じました。 S.I