大深度事故で「仮移転」
「国交省、議事録を改変 座長発言、説明せず大幅に」。静岡新聞は4月7日、国土交通省のリニア中央新幹線有識者会議の議事録の大幅な書き換えが行われていたことを報じました。問題になったのは2月28日の第9回会合の議事録。福岡捷二座長(中央大教授)の発言部分が趣旨が変わるほどに書き換えられていました。そもそもこの会議は、南アルプスを貫く巨大トンネル建設の影響で大井川の流量が減る問題などを話し合うため昨年4月スタート、10回の会合を重ねてきました。静岡県と約束した「会議の全面公開」の代わりに国交省は議事録を公開していますが、委員が匿名であることや座長が取材に応じないことが批判されてきました。今回はリニアの大深度地下工事でも起こる恐れがある陥没事故のその後をお伝えします。 井澤宏明・ジャーナリスト
50戸が対象に
東京都調布市の住宅街で昨年10月に起きた高速道路「東京外郭環状道路」(外環道)の陥没事故。東日本高速道路(NEXCO東日本)は3月19日、陥没の原因となった地下シールドマシン工事により緩んだ地盤を補修するため、住民に「仮移転」を要請する方針を明らかにしました。多くの住民にとって「寝耳に水」の出来事でした。
移転対象の家屋数について、NEXCO東日本関東支社の加藤健治・建設事業部長は記者会見で「調査をしていかないと、具体的な家屋数は出てこない」と明らかにしませんでしたが、説明を受けた住民らによると、約50戸が対象になるそうです。
地盤補修工事には2年ほどかかるため、住民を「仮移転」させたうえで、住宅を壊して更地にし、工事後に住宅を再建して戻ってくださいという、人を食ったような話です。
会見には、事故を受けてNEXCO東日本が設置した有識者委員会の小泉淳委員長(早稲田大学名誉教授)も同席。被害を受けた住宅地に、陥没を起こしたトンネルと並行してもう1本のトンネルを掘削する予定であることを不安視する質問に対し、「(地盤補修で)原状回復するといっても全く同じようにするわけではなく、セメント系のものを入れたりするので強くなる。お隣(のトンネル)を掘る場合には、強化された、地盤改良された土の中を掘ることになるので心配はしていない」と、住民をそっちのけにしたような回答で応じました。
「地上には一切影響しない」ことを前提にした「大深度法」の改正が必要ではないかという問いに対しては、「思いません。リスクをゼロにすることはできません。リスクが大き過ぎるから、もう少しコストを上げようとか、リスクが少ないなら、もっとコストを下げていいだろう、そうすると大事な税金を他の工事に回せるとか。それを判断するのが我々技術屋だと思っている」とごう慢とも思える持論を展開しました。
さらに、「『ゼロにはできない』と小泉委員長が言ったリスクを、住民が背負わされているのはおかしくないか」と問われると「それを言われると、すべての工事はできなくなる」と回答。昨年12月の会見と同じように、専門家の誇りは一片もうかがえませんでした。
強制移転の雰囲気
NEXCO東日本は4月2日と3日、住民説明会を陥没地点に近い調布市立第四中学校で開きました。事故を受けた一連の説明会では初めて、報道陣の取材を受け付けましたが、目についたのは、陥没「事故」を「事象」と言い換える不誠実さ。住民への補償についても「個別に対応する」と繰り返し、住民が結成した団体との交渉をかたくなに拒絶する姿勢を見せました。
説明会後、被害を受けた住民たちが作る「外環被害住民連絡会・調布」のメンバーは取材に応じ、「シールドマシンの掘削で緩められ壊された地盤は、わたしたちのものです。元通りに戻してください。私たちの平穏な暮らしを奪い、さらに地盤を補修するから『住民は立ち退け』などという事業者の勝手な論理は許されません」と声明を読み上げました。
住民の中には新築に越してきたばかりという人もいます。共同代表の一人は「事業者が壊した、緩ませた地盤なのに、あたかも住民のために補修するから、ああしなさい、こうしなさいという雰囲気。強制的に移転しなくちゃいけないかのような雰囲気があります」と、やりきれない胸の内を訴えました。