こころもからだも整える食事を
出張料理をメインに活動中の料理人
山田 航平さん(山県市在住)
野菜はできるかぎり農薬不使用の旬の作物。調味料も化学調味料に頼らないシンプルなもの。出張料理では、予め仕込んだ料理を持ち込み、出張先のキッチンで仕上げるスタイルだ。依頼を受けたらお客さんがどんな方たちなのかに思いを馳せ、素材やメニューを決めてゆく。
「岩戸舞というイベントの時には、天岩戸をイメージして塩釜料理をお出ししたら、みなさんとても喜んでくださいました。自分の料理を目の前で食べていただき、美味しいと喜んでいただける、それが原動力になっています。」
子どものころから食べる事が好きで、鬼まんじゅうや餃子を母とともに作り、年齢が上がるにつれ、食事も作るように。だから高校を調理学校に選択したのも自然ななりゆきだった。しかし、一年間の、店に住み込み働きながら学校へ通う、という研修制度は山田さんにはハードだった。
「賄い以外の食事は自炊だったのですが、疲れて作れないことが多く、体調を崩してしまいました。その時に、食べる事は生きることなんだな、と実感しました」。
心身ともにバランスを崩しながらも高校を卒業し、栄養学を学ぶため短大に。しかし体調は戻らず一年間の休学ののちに中退した。それからはカウンセリングを受けたり、メンタルクリニックに通ったりの日々。精神の病気の診断を受け、治りますよと出されたたくさんの薬も効果は現れず、苦しい日々が続く。思考が止まってしまい、集中力が続かない、やる気が出せない…。最終的には味覚障害にもなり料理の仕事を辞めざるをえなかった。
「自分はこの先も定職に就く事ができない人間なのかもしれない…」
ある日、「君の病気は気のせいだから」と言ってくれた人がいた。その言葉に山田さんの中で何かが外れた。「そうか、もう薬を飲まなくていいんだ」と心から思え薬をやめた。だんだんと失っていた味覚も戻り、そのときしていたホテルの接客業に、初めて仕事が楽しいと思えた。その出会いは彼の運命を大きく変えた。
もう一つの出会い、それは昨年のこと。イベントを企画するので、そこで料理を出してくれないか、との依頼が持ちかけられた。イベントは成功し、そこから「美味しくておしゃれで身体にも優しい料理を作ってくれる人がいる」と口コミで広がった。それが出張料理人という仕事の始まりだ。出会いに恵まれ、今の自分があるという山田さんは、 「本当にそれまでの自分とガラリと変わりました。毎日のように仕事があっても、深夜2時まで及ぶ作業があっても、以前のように動けなくなることはもうないですね。」この仕事が自分にあっていることを実感している。
「今回のこの取材もそうですが、仕事のお話しをいただくということは、『考える前に動け』ということなんだと思えるようになりました」。
出張料理という仕事はまだ始まったばかり。だが、ゆくゆくは自分の拠点となるスペースがほしい、そこでイベントも開けたら、と思いは膨らむ。できたら携帯の電波が届かないようなところにある古民家が理想的。今も過敏症ぎみな山田さんは、香料、電磁波なども苦手という。
「今は情報量が多すぎる社会。限りなくオフグリッドに近い場所に足を運んでもらって、のんびりくつろいでもらうのもいいんじゃないかと思うんです」
多くの人に、心も身体も整えて健やかな日々を送ってほしい。自分の料理がささやかでもそのきっかけになれたら、と山田さんは今日も厨房に立つ。
写真上・毎月第1・3火曜日に開催される「行き当たりばったり食堂」(200号参照)に山田さんが参加した時の大根ステーキ。盛り付けが繊細。
写真下・栗と鶏肉のガランティーヌ 栗ソース和え。(秋の創作料理)
山田さんは食事の後には必ずコーヒーまたは紅茶・ハーブティーを淹れる。一期一会の心で、目の前の人に心を込めて。
「香り、味、時の流れが至福の極み。こういう時間が好き」、と依頼者は口をそろえる。取材の後にも淹れてもらった。彼の所作に見惚れた。
●やまだ こうへい
出張料理をメインに、イベント、マルシェなどで腕をふるう。料理のジャンルは主にイタリアン。少しフレンチ。たまに和食。オリジナリティ溢れる料理が多い。趣味は読書で、読書会にも参加。繊細で食べる人に優しい料理と口数少なく穏やかな人柄にリピーターも多く、「料理を哲学する料理人」と呼ぶ人も。インスタグラムは「料理人 山田航平」で検索。