vol.198 コロナ禍と戦争〜真の抑止力とは何か? 

日本国憲法公布74周年記念・学習講演会
主催:「ぎふ平和のつどい実行委員会」

講師 池内 了さん(名古屋大学名誉教授)

コロナ禍を戦争に譬 (たと)える

 今やコロナの問題をからめないと何も議論が出来ない状況です。これまで約9ヶ月程続いてきたコロナ禍の中で、各国の代表は戦争に譬えています。マクロン大統領は、「我々はウイルスと戦争状態にある」、「この戦争で国民はひとつにならねばならない」。トランプ大統領は「私はこの戦争に勝つ」、「見えない敵を打ち負かすんだ」と言い、安倍前首相は「これは第三次世界大戦と認識している」と言った。そのあと「見えない敵に対して国民の協力なしでは戦いに勝つ事ができない」とも。このように困難な事柄があると戦争や国難に例えるのは、国を率いる権力者たちが使う常套手段です。

戦争や国難に譬えるのは

 要するに国を守る事によって国民を一致団結させるわけです。一切の矛盾を無視して「この敵に勝たなければならない」と人々を結びつけていくわけです。だから協力しないと「負けるぞ」と脅迫、すると国の言う事に従わせる事が簡単にできる。そして、国民の間で生じたのが、国民同士のバッシング、自粛警察。国の方針に一致団結しなければならないという論点ですね。感染した者は敗北者で、一致団結を破る者は非国民で村八分。それは権力者にとっては実に都合のいいことなんですね。特に気になるのは「優生思想」で、役に立つ人間であることが強調されているんです。戦争が近づくと必ず役に立つ人間が重要視され、自国優先主義、排外主義、優生主義になっていく。この点を私たちは常に押さえておく必要があります。

コロナ禍と軍拡のパラドックス

 新型コロナウイルスは自分で栄養を作りだす事はできないけど、遺伝子情報は持ち増殖していく半生物です。その半生物的な存在に対して核兵器もミサイルもステルスF3戦闘機も無意味ですよ。人間を含む全生命体を抹殺しないと、ウイルスは撲滅できない。しかし世界はせっせと軍拡に励み、物理的破壊のための兵器をどんどん作っている。これを私は「コロナ禍と軍拡のパラドックス」と言っていますが、ウイルスは軍事力では全滅できません。その軍事費を医療体制の充実とか、感染症対策に使うという事が、ウイルス禍に対する人類の戦い方ではないかと思います。ニュースで韓国が国防費を1600億円を削減したと報道がありました。すごいなあ、と思いましたがコロナとの戦いのために軍事費を減らしたのはこれが唯一なんです。

軍拡を煽る3つの要因

 なぜそんなに軍拡が世界中にひろがっているのか、これは僕は3つの要因があると思っています。
 1つは先程の「国家の団結のため」。抑止力のため、敵に攻められないために国は武装することが大事だ、ということが底辺にある。そこには必ず仮想敵国の存在がある。つまり自国第一主義で、自国の軍事力を最大限に強くしたい。安倍前首相が使った「積極的平和主義」という言葉は、国家を団結するためのキャッチフレーズと言えると思いますね。
 2つ目は、軍と産業界。アメリカの政治を背後からコントロールしているのは軍産共同体と言われています。その軍産共同体の圧力があってトランプ大統領は日本に兵器を暴買いさせるという構造になっています。日本の防衛費のうちのほぼ2兆円をいろんな軍需産業が担っていて、常に政府に圧力をかけている。また技術的に敵国よりも有利な状況を保たなければならないと、技術的優位を常に追求しているのが経済である、と。
 それから3つ目。軍拡を煽る要因は国民の「自衛論」である。そこをじっくりと考えてみたいと思います。
 科学者と話していると、「自分は戦争に反対だから軍事研究はしたくない、兵器や核兵器を作りたくはない。」かたや、「防衛力もそれなりの兵力を持つべき。」とも言う。世論調査では国民の6割7割は自衛隊は必要だと答えます。特に災害救助の面で必要だと。武器を持つ自衛隊は私自身は必要ないと思っています。それは、日本の自衛の方針が変わってきてる気がするからです。
 集団的自衛権の行使が、安倍内閣のもとで閣議決定されました。それは同盟国がやられそうになったら、兵を送り戦うってこと。ミサイル防衛は撃って来たのを撃ち落とすんですが、それでは生ぬるい、向こうのミサイル基地をこちらから撃てるようにしなければならない。「敵地攻撃能力」。今それが議論されつつあるわけです。これがさらに進んで行くとどうなるか、「先制攻撃」になります。撃たれる前に撃っとけ!それが「国民を守るための抑止力向上に関する提言」、ここに抑止力と言う言葉があります。

国を守る意識と軍拡

 抑止力は基本的には軍事的抑止力の事。自衛、防衛、国防は安全保障です。抑止力は仮想敵から攻撃を押さえる力の事。侵略したら強烈な反撃をくわえるぞ!と脅すことなので、必ず敵よりも上まった軍事力が必要となる。そうなると敵は攻撃を強化するだろう、すると我々はもっと強くしなければならない。 これはまさしく戦後の「冷戦」と呼ばれた、アメリカとソ連間の軍拡競争の戦争です。軍拡は必ずエスカレートし、最後に核を用いた抑止力に行きつく。日本もこのままずっとエスカレートして行くと核兵器を持たなければいけない状況になっていくであろう、と。日本は「最小限の核兵器の保有と使用は憲法の禁止するものではない」ということを2016年4月に安倍前首相が閣議決定をしています。それはまさに、自衛論の究極は核兵器、核抑止である、ということの表明みたいなものだと私は思っています。

しかし、戦争は「ほぼ」終焉している

 そんなことはない、世界で数多くの戦争が起っているじゃないか、とみなさんはお思いでしょ?いろんなところで血を流す動きが確かにたくさんありますが、よくよく見れば大きな国同士の戦争は起っていない。小さな国同士の確執は、例えばインドとパキスタン、中国とモンゴル、中東ではヨルダンとかシリアとか様々な国々が戦争状態にあるように見えるし、イスラム国や、IS、そういうやっかいなものが国をかく乱し、そこにアメリカやロシアが介入して力の後押しをするからよけい対立状況はひどくなっています。小さな国内の反体制勢力、テロ、それの小競り合いもしょっちゅう起っています。ですがそれは世界を巻き込むような大戦争に発展していく様子はない。最新鋭の兵器を投影した戦争は終わったのではないか、これは甘いと思われるかもしれませんが、私はそう思っています。

なぜ戦争は終焉に向かっているか?

 要するに、攻めるのは無意味だから。世界は政治的、社会的、経済的、文化的、学術的にいろんな意味でつながっています。例えば日本と中国、日本と韓国の間もいろんな文化交流などでつながっているわけですね。そこであえて戦争なんてことはありえない。それから国連という存在。国連は限界はあるけれども機能しているというのが私の見方。何か問題が起ると、国連で議論する習慣ができている。国連で議論するという事は世界の世論がその移りゆきをちゃんと見守っているぞ、ということです。
 今、核兵器禁止条約があと5つの国が批准すれば発効するところまできています。核の保有国、核の傘下にいる国は入っていない。しかし、それでも50か国で発効して、それらの国々が核兵器保有国に迫って行ったらどうか?むろん時間はかかりますよ。しかし、それがちゃんと発効して国連という舞台では核兵器禁止が当たり前なんだ、という事がまさに世界の世論となっていくということは非常に重要なことであります。要するに国連が世界的な世論とか、世界の理性的な発想が少しづつ大国を締め付けて行く、そういう場があること、これが戦争が終戦に向かっている重要な要素であると私は思っています。

人間力による抑止を!

 個々の人間の生命・生活・人権を守る、それを最優先することこそ我々が求めている安全保障です。軍事的抑止力から「人間力による抑止を」、と私は思うわけです。実は1956年くらいから自民党が、憲法の主旨は「座して破滅を喚起することではない」と言い続けている。しかし、私は「座して平和を待つのではない」と言いたい。やはり私たちは、立って動いて行動して平和を作りだして行かなければならない。国家間の紛争や意見の対立、不同意、齟齬、そういうものがあると交渉や話し合いや説得などの外交的手段と国民間の友好的交流を通じて平和を保つ。それこそが憲法の趣旨であると。憲法九条はそのための基本条件です。そこからより積極的に踏み出して、戦争を抑止するための一番の力として力をそそぐ、というのが私の言いたい事で、これは真の抑止力であると。
 例えば北朝鮮のミサイル発射について。私たちは北朝鮮がどういう状況になっているか、まったくわからないわけです。台風が北朝鮮に多くの被害を及ぼしている可能性が非常に高くて、稲作などに多大な被害を与えていたなら、何らかの援助をするという事もあっていいんじゃないか、それがミサイルを飛ばすのを押さえる力になる、という事です。そんなふうに私自身は人間同士のつながりを最大限大事にして、そのつながりの中で平和を作っていく。人間付き合いがあったら絶対にそんなに無茶しないですよ。そういうつながりこそが世界においても求められているのです。

Q&A

Q:日本も世界もそんなに楽観的に見ていいんですか?
A:敵地攻撃能力についても世論調査では60%の人が賛成している。こういう状況で私の言っていることがほんまかいなと、みなさん当然思われるでしょう。これに関しては、歴史はジグザグであること。前進するときもあるし後退するときもある。全体としてみれば自然に成長していく。その局面局面では確かに大変なことに相対するけれど、時間が経ってみてもやはり全体としては進歩しているんです。ちょっとでも進歩する方向へ力添えするのが、我われの役割ではないのか。憲法9条がほんとにあぶない状況でもなんとか止められているのは、我われがなんとか踏ん張っているのであって、それがまた若者に影響を与えている。自分たちが正しいと思う方向へバトンタッチするしかしょうがないんですよ。長い目で見た世界の流れを、きちんと見て、押さえて、そしてそれを周りの人に、伝えていって次世代に伝える。ということを積み重ねる以外にないんじゃないかなと。だから管政権に対しても、我われは筋道を追って、おかしいことはおかしいと言い続けることです。それが結果的に世の中を変えてくんです。

Q:戦前も不戦条約があり戦争禁止の流れがあったけど、第二次世界大戦が起きた、今と何が違うか?
A:国際連盟が有効に機能しなかった時代と、世界の世論を常に感知する役割を持っている国連が今はある。国連を中心に世界が結びついている。世界は対立するよりも仲良くすることの方がやすらかなんです。だからこそ戦後75年の間、世界大戦は起こらなかった。それはこれからも起こらないと私は思ってます。ジグザグはあるけれど我われは、全体の流れとしての方向は明確に見えているんだから、その方向に自信をもって、一歩でも前に推し進めていく方に力を注ぐべきではないかと思う。というのが今日の私の結論みたいなことです。
 私ももうすぐ76になりますが、唯一誇っているのは、私が生きている時代に、私が考えていることが実現できるとは思わないけれど、これを言い続ける。で、子どもとか孫が、「じいちゃんがんばったね」って言ってくれることを楽しみにしている。原発のゴミとか、一千兆円もの借金を作ったとか、我われは罪作りな世代なんですよ。せめて、罪を軽くすることを続けたい。その罪を軽くできるようなことを我われは続けたいじゃないですか!私たちがやっていることをよい方向へ流れるために動くことが大事かなと思います。

池内 了(いけうち さとる)プロフィール
1944年兵庫県生まれ。京都大学大学院理学研究科物理学専攻修了。理学博士。北大・東大・名大など各大学で教職を執り、現在、名古屋大学および総合研究大学院大学名誉教授。世界平和アピール7人委員会委員。軍学共同反対連絡会共同代表でもある。著書に、「科学者と戦争』『科学の限界』『物理学と神』『寺田寅彦と現代』など多数。中日新聞連載記事『時のおもり』の著者の一人。





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