「太陽」が奪われる前に
「ただ単に『止めたいから止める』としか受け止められない。2027年度のリニア(中央新幹線)東京―名古屋開業が今、この段階で、静岡県の意図的な行為によって遅れることは到底、受け入れることはできない」「(リニア建設を)どんどん進めてもらいたいというのが、私がお聞きする静岡県民のほとんど、というか全員の声ですよ。静岡県民や経済界に聞いてみたい。『静岡県のせいでリニアが止まっていいんですか』って」――愛知県の大村秀章知事は7月29日の定例会見で、いら立ちを隠さずまくし立てました。その「矛先」は、リニア南アルプストンネル掘削によって「大井川の水が毎秒約2トン減る」問題などを巡り、着工を認めていない静岡県の川勝平太知事に向けられています。 井澤宏明・ジャーナリスト
登山基地が工事現場に
川勝知事は6月13日、大井川源流部のリニア工事予定地を視察しました。目的地の1つが南アルプス南部を代表する赤石岳や聖岳の登山基地「椹島」(さわらじま)。その風景は、私が2年前に訪ねたときとすっかり様変わりしていました。
登山者が清流のせせらぎに耳を澄ませ、疲れた体を休めていた憩いの場は、工事事務所や巨大な作業員宿舎などが建ち並び、工事現場のよう。これで、トンネル工事が始まってしまったらどうなってしまうのだろうと、「かつて」登山者だった私も、恐れおののかずにはいられません。
案内したのはJR東海の宇野護副社長。「準備工事は終盤戦。できれば引き続いてトンネル工事を進められるよう話し合いを続けながらやっていきたい」と本体工事着工を急ぐ考えを示しましたが、視察を終えた川勝知事は「今はとてもじゃないけど、ゴーサインを出せるような状況ではありません」と厳しい表情を変えませんでした。
「夜も寝付けない」
隣の山梨県では、住宅地の真上を通るリニアの巨大高架橋によって生活が破壊されるとして、南アルプス市内のリニア建設工事差し止めなどを求めて住民が起こした裁判が7月30日、甲府地裁で始まりました。
意見陳述に立った秋山美紀さん(47)は8人の原告住民の1人。自宅建物のわずか約2メートル南東側に、高さ30メートルにもなるリニア高架橋が計画されています。秋山さんは訴えます。
「最悪な生活環境になるのにも関わらず、ここ(高架橋)にかかる土地代と30年間分の日照補償だけで、『ここに住め。お家の方は買えません』というJR東海のお話でした。とても納得できる状況ではありません」
今年6月には、走行試験が行われている山梨リニア実験線の高架橋を、夫婦で見に行ったといいます。
「高架橋の下に立ったときの恐怖感は計り知れません。『ここに何十年も住まなければいけないんだね』って、夫婦で話をしましたが、帰りの車では2人とも黙ったままでした」
さらに、JR東海の予測(冬至)で周辺の日照が1時間に満たなかったことから、「寒い時期に太陽の恵みをほとんど受けられない。耐えがたい苦しみが一生続く状況です」と述べ、交代勤務の夫が、騒音で不眠になる不安にも触れました。
「リニアで、このような弊害をまとめたような宅地に一変する。一生ここに住まなければと考えるだけで、夜も寝付けません。人として最低限の平穏な日の当たる暮らしだけを願って今ここに立っています」
秋山さんは裁判長に向かって毅然と述べました。
原告代理人の梶山正三弁護士は「もともと正当な補償を求めてきた人たちが『工事を止めろ』に変わった。JR東海には正当な補償を求められないので、工事を止めてもらうしかない」と、提訴の目的を説明しました。
続いて、「少しでも現地を見ていただきたい」と裁判官に求めました。訴えの棄却を求める答弁書を出したJR東海側は、法廷に姿を現しませんでした。
各地で噴出する問題の背景には、リニアの悪影響にJR東海が真摯に向き合ってこなかった、という背景があります。
「(リニア建設を)どんどん進めてもらいたいというのが、静岡県民全員の声」と述べた大村知事。ぜひ、現地を歩いてから、ものを言って欲しいものです。
隣の山梨県では、住宅地の真上を通るリニアの巨大高架橋によって生活が破壊されるとして、南アルプス市内のリニア建設工事差し止めなどを求めて住民が起こした裁判が7月30日、甲府地裁で始まりました。
意見陳述に立った秋山美紀さん(47)は8人の原告住民の1人。自宅建物のわずか約2メートル南東側に、高さ30メートルにもなるリニア高架橋が計画されています。秋山さんは訴えます。
「最悪な生活環境になるのにも関わらず、ここ(高架橋)にかかる土地代と30年間分の日照補償だけで、『ここに住め。お家の方は買えません』というJR東海のお話でした。とても納得できる状況ではありません」
今年6月には、走行試験が行われている山梨リニア実験線の高架橋を、夫婦で見に行ったといいます。
「高架橋の下に立ったときの恐怖感は計り知れません。『ここに何十年も住まなければいけないんだね』って、夫婦で話をしましたが、帰りの車では2人とも黙ったままでした」
さらに、JR東海の予測(冬至)で周辺の日照が1時間に満たなかったことから、「寒い時期に太陽の恵みをほとんど受けられない。耐えがたい苦しみが一生続く状況です」と述べ、交代勤務の夫が、騒音で不眠になる不安にも触れました。
「リニアで、このような弊害をまとめたような宅地に一変する。一生ここに住まなければと考えるだけで、夜も寝付けません。人として最低限の平穏な日の当たる暮らしだけを願って今ここに立っています」
秋山さんは裁判長に向かって毅然と述べました。
原告代理人の梶山正三弁護士は「もともと正当な補償を求めてきた人たちが『工事を止めろ』に変わった。JR東海には正当な補償を求められないので、工事を止めてもらうしかない」と、提訴の目的を説明しました。
続いて、「少しでも現地を見ていただきたい」と裁判官に求めました。訴えの棄却を求める答弁書を出したJR東海側は、法廷に姿を現しませんでした。
各地で噴出する問題の背景には、リニアの悪影響にJR東海が真摯に向き合ってこなかった、という背景があります。
「(リニア建設を)どんどん進めてもらいたいというのが、静岡県民全員の声」と述べた大村知事。ぜひ、現地を歩いてから、ものを言って欲しいものです。