vol.190 特集 ゲノム編集ってなんだ?

 なんだ?って言われても…ねぇ…、
なんだか難しそうだし専門用語が多すぎて…、でも、なんか本能的に「これはやばいんじゃない?」と感じる。本能が感じるなら、それはビンゴ!遺伝子を操作するってかなり抵抗を感じるしね。でも研究が進み医療分野では助かる命があるというのなら、それもあり?ただし生命倫理に関わることなら、研究者のみではなく、一般の人たちとも協議できる時間と機会が欲しいところ。5月24日、ぎふハートフルスクエアで開かれたお話会「『ゲノム編集――安全性と生命倫理』講師:河田昌東さん」に参加してきました。以下は、河田さんのお話の抜粋です。

ゲノム編集 ― 安全性と生命倫理

河田 昌東氏 名古屋大学在職中、遺伝子の基礎研究の経験から遺伝子組換え作物の安全性について、1990年代から問題点を指摘してきた。ゲノム編集もその延長上にある。

ゲノム編集とは?

 生命は遺伝子の働きによって支えられている。この遺伝子を自由に操り、人間に都合の良い農作物や家畜を造り、あるいは人間の遺伝病治療に役立つ技術として登場したゲノム編集は今世界を揺るがしています。
 ゲノム編集が広く知られることになったのが、昨年11月、シンガポールで開かれた国際学会で、中国の研究者がHIV感染の恐れがある夫婦の受精卵をゲノム編集で修理し双子の赤ちゃん(女児)を誕生させたと発表したことです。(2018年11月29日毎日新聞)
 そもそも遺伝子操作は、植物、動物で研究してきた過程があります。中国では人間の遺伝子操作は禁止なのにいきなりニュースで発表され世界に大きな衝撃を与えました。

ゲノム編集で食物革命!?臓器移植!?

 動物には筋肉を増えさせるホルモンを作る遺伝子の他に、それを抑制するミオスタチンという遺伝子が必ずあります。動物は成長と抑制とバランスをとっているんですが、その抑制遺伝子を壊すと、食べたものがみんな筋肉になるので通常より大きく育つわけです。中国では商品価値を上げるために生産されている筋肉隆々の豚は普通の豚の1.5倍くらい肉がつきます。それからアメリカで開発されたツノのない牛。ツノは畜産農家にしてみれば怪我の元になるし、牛同士ケンカするとよくないという理由で、ツノを作る遺伝子を壊し生産されています。キメラ動物の製作も始まっています。例えばラットの体内でマウスの腎臓を作る。将来的には人間の臓器を豚の体内に作る。これは臓器移植に使うのが狙いです。
 植物では国内でも既に「栄養価の高いトマト、多収穫のコメ、筋肉隆々の真鯛、芽を出しても毒性のないジャガイモ、等々」が既に開発されています。厚労省は、早ければこの夏にもゲノム編集食品などを商品化すると発表しています。
 こちらはすでに商品化されていますが、アメリカ産の高オイレン酸大豆。アメリカ農務省は遺伝子組み換えは安全審査をしていますが、これは遺伝子を壊しただけだから規制しないと言っています。しかもオーガニックと表示してもいいと。オーガニックと表示してあるのが、ゲノム編集で作ったものか、そうではないのか区別できなくなっているのが現状です。
 今、産業界は医療分野や農業分野での新たな産業革命になるかもしれないと期待しています。内閣府のHPにはゲノム編集が将来、600兆円規模の産業になるかもしれないと書かれています。去年の6月15日、統合イノベーション戦略会議(いろんな産業の活性化のために内閣府主催の会議)で安倍首相が「このゲノム編集は成長戦略のど真ん中に位置付けられる技術。だから慣習にとらわれないで各大臣は一丸となって取り組むように」とハッパをかけました。それで急に環境省も厚労省もそれまでのタガを外して、一斉に取り組むようになったのです。

ゲノム編集は目的の遺伝子を壊すのみ。遺伝子組み換えは他の生物の遺伝子を組み込む.

遺伝子組み換えとゲノム編集の違いは?

 従来の遺伝子組み換えには、例えば、除草剤をかけても枯れない大豆とか、害虫がくっついても害虫が死んでしまうので農薬はいらないトウモロコシとかがあります。そういうものは、外来遺伝子(例えば、除草剤で枯れない大豆は、土の中に除草剤に強いバクテリア)から遺伝子を取って大豆の中に押し込んだわけです。だから除草剤をかけても枯れないんですね。
 ゲノム編集というのは、前述の双子の赤ちゃんの場合は、人間の遺伝子(特定の遺伝子)を壊すわけです。そうするとHIVになりにくいということがわかっている。単に壊しただけで、外来遺伝子が入ってない。だから、遺伝子組み換えとは違うと厚労省は言っています。そういう定義で外来遺伝子が残存しないものについては安全性審査は不必要、表示も不要としました。内閣府のホームページには品種改良と同じと発表しています。

ゲノム編集がなぜ問題なのか

 今年の3月1日、文科省は「ヒトの心臓を持つ豚」の出産を認める文書を発表しました。目的は臓器移植です。しかし、登場して日が浅いこの技術にはまだまだ未解決の問題が沢山あり、実用化には大きなリスクが伴います。それは生殖細胞のゲノム編集は種の保存を脅かす危険性があること、編集した遺伝子が子孫に伝えられること、社会のニーズ次第で生命が左右されること、などです。遺伝子を操作する事は長い進化の歴史を経て作られた生態系を破壊する恐れや、社会の要請に応じてデザイナー・ベビィを作る優性思想にもつながる際どい技術でもあるのです。

生命倫理の問題は?

技術的問題が解決されても課題は残ります。それは生命倫理の問題です。特に医療分野では臓器移植のために豚の体内でヒトの心臓を作ったり、雌同士の交配で子どもを作る技術が登場しています。こうした問題は技術的リスクとは別に「そもそも、やって良いことと悪いこととの区別をどうするか」という大きな、しかし避けては 通れない問題を突きつけています。


 最近、国で大きな動きがありました。3月1日に文科省がそれまで禁止していた「ヒトの臓器をもつ動物の出産を認める」という決定をしたのです。これは、例えば豚の受精卵で心臓を作る遺伝子を破壊し、そこにヒトの多能性幹細胞を移植し子宮に戻して出産させれば、ヒトの心臓を持つ豚(即ちキメラ動物)が生まれる、という事になります。提供者の足りない人の臓器を動物で賄おうという狙いですが、こうした事が果たして生命倫理の立場から許されるのでしょうか。
 ゲノム編集は誰がどのように規制するのか、国際的な規制が必要ですし、専門家だけでなく一般市民の判断が必要と強く感じています。

■ か わ た ・ ま さ は る 1940 年、秋田県生まれ。東京教育大学理学部卒業後、名古屋大学理学部大学院分子生物学入学。卒業後助手に。2003年定年退職。専門は遺伝子の分子生物学と環境化学。遺伝子組み換え情報室代表。著書に『チェルノブイリと福島』(緑風出版)など。訳書に『遺伝子の分子生物学』(J・D・ワトソン著)第一販がある。





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