vol.186 デンキの特集


台風の多かったこの夏。停電や断水になり不便な思いをされた方も多かったと思います。水、デンキ、ガスなどのライフラインが機能しなくなったとき、日ごろのあたりまえが、あたりまえでなくなります。前号では、日本ではあたりまえに供給されている「水」がテーマでした。今回は「デンキ」について考えてみたいと思います。

ライフライン (lifeline) とは、元は英語で「命綱」の意味。日本では主にエネルギー施設、水供給施設、交通施設、情報施設などを指して、生活に必須なインフラ設備を表す語。
現代社会においては、電気・ガス・水道等の公共公益設備や電話やインターネット等の通信設備、圏内外に各種物品を搬出入する運送や人の移動に用いる鉄道等の物流機関など、都市機能を維持し人々が日常生活を送る上で必須の諸設備のことを指す。


「あなたにとって 欠かせない家電は?」
回答が多い順に

1番目は「冷蔵庫」1,071件(25%)
2番目は「洗濯機」586件(14%)
3番目は「携帯電話/スマホ」463件(11%)
4番目は「テレビ」443件(10%)
5番目は「照明器具」367件(9%)でした。
次いでエアコン、電子レンジ、炊飯器、と続き、さらにドライヤーや、食洗機、タブレット端末のあとに、掃除機と続きます。
2014年8月20日~11月30日に実施しましたニッポンの産業技術50年第1弾「家電&のりものWebアンケートより

たとえば冷蔵庫を置かないと食生活はどうなる?
『電気代500円。贅沢な毎日』の著者・アズマカナコさんの場合、冷蔵庫や洗濯機などの家電製品を置かないのは、電気代を節約するためではない。「ただ好きだから」なのだそうです。
冷蔵庫がない。だから、まとめ買いはしない。肉や魚はすぐに食べきってしまい、野菜は近所の農家直売所で買っている。数日くらいなら常温で保存できるものしか買わない。余った食材は保存食にする。ぬか床があるので、たいていの野菜は漬け物にできる。
朝食は、野菜たっぷり具だくさんの味噌汁をつくって、あとはご飯と漬け物で済ませる。昼ごはんや弁当は、夜のおかずを温め直したものだ。アズマさんは「料理は適当にする」という方針。テキトーといっても、レトルト食品や冷凍食品を食卓に並べるわけではありません。あらかじめ作っておいた佃煮や干物やビン詰めなどの保存食を活用する。これは「手抜き」とは言わず「段取りが良い」といいます。
玉子は常温でも1~2週間くらいは保存できる(生食もできる)が、アズマさんは玉子を買わない。そのかわり烏骨鶏(ウコッケイ)を自宅で飼っている。薬効や栄養価が高いといわれている高級種だが、じつは畜産試験場に行けば「ひな」を500円程度で購入することができる(東京都の場合)。 雑食なのでエサは何でも良い。1kg100円のクズ米や野菜クズでよく育つらしい。大きな声で鳴くのはオスだけであり、玉子を産んでくれるメスは静かなので住宅地でも無理なく育てることができるという。

洗濯機がない!脱水もできない・・・
基本、コインランドリーは使わない。まず洗濯は、ぬるま湯を「たらい」にためて、せっけんを溶かして洗う。洗濯板は「しつこい汚れ」を落とすときに使うものであり、たいていは押したりもんだり踏んだりすればアカや汗はキレイになるし、風呂の残り湯をつかうので冬でも手が冷たくない。ちなみに、バスタオルは使わずに小さいタオルで代用している。『必要十分生活』という本でも紹介されているライフハック※であり、洗濯機のある家庭でも有効です。
問題は脱水です。雑巾を絞る感覚でぎゅーっと絞って完了。ワイシャツや生地の厚い服なんかは干すときに結構水が垂れてきますが気にしないことに。
※ライフハック:ライフ(人生)、ハック(術)効率良く仕事をこなし、
高い生産性を上げ、人生の クオリティを高めるための工夫。


掃除機もない。
掃除をこまめに心がければ、ホウキとチリトリと雑巾で不自由ありません。

火鉢を使うのは難しくない?
エアコンもヒーターもない。しかし、火鉢(ひばち)がある。火がついた木炭で暖をとる。いまや時代劇ドラマでしか見かけない、日本古来の暖房方法です。
「スキマ時間のなるほど!メディア」より

「炭のこたつや火鉢、あんかに炭を入れて暖をとるんです。中でも、火鉢は手軽に使えて便利です。使い方は簡単。中に燃やした炭を入れて、手などの冷えるところを部分的に暖めます。炭はガスコンロで火をつけることができ、1回火がつけば、それをつないで一日中使うこともできます。夜は灰に埋めておけば火は消えません。朝になって灰をどかせば、またすぐに使うことができる。慣れると、毎回火をおこさなくても、ずっとつないでいくこともできます。」 (『電気代500円。贅沢な毎日』から引用)

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ちなみに、にらめっこの三上はエアコン、テレビ、電子レンジ、こたつ、ファンヒーター、オーブントースターを手放しました。契約アンペアも20Aのまま。以前は、よくブレーカーが落ちて家の中が真っ暗になることも。子どもたちは学習したのか、「今から○○使うから、◇◇は消して」とか声かけをするように。家電をいくつか手放したおかげで、今ではそれもなくなりました。
今年の異常な暑さの中、「暑さ対策はどうしてたの?」とよく聞かれます。とくに熱帯夜。寝苦しい夜は窓を全開して扇風機を弱にセット。部屋の空気をかき混ぜるようにすると、問題なく熟睡です。これから冬。暖は石油ストーブ、たまに囲炉裏で炭火を楽しむことも。人間の体って不思議ですよ、ちゃんの環境に順応しますから。節約モードではなくガマンでもない、なんか楽しいから続けてるって感じです。持続可能なことを考えると、消費は出来るだけ押さえたほうがいい。自分が出来ることをやってみる、そんな気持ちです。

 


やってみよう!どうせやるならたのしくね〜!創意工夫(*^^)v

煮込まない「煮込み料理」でおいしく節電しよう!
体が温まる料理として思い浮かぶのは煮込み料理ではないでしょうか。カレー、シチュー、おでん、スープといった汁気が多く暖かいものは、冬場にうれしいですね。
こうした料理は長時間コトコト煮込んでこそというイメージがありますが、「保温調理」をすれば小さな労力と少しのエネルギーで簡単に作ることができます。保温調理とは、1度暖めた鍋をできるだけ長時間保温することで、とろ火で煮込んでいるような状態を作り出す方法。鍋が沸騰してから10分程度で加熱を止めてしまうため、調理にかかりきりになる時間が少ない。保温調理用の鍋を使うのが最も手軽な方法ですが、土鍋など厚くて冷めづらい鍋を、バスタオルや毛布でくるむという方法でも十分代用できます。
例えば、おでんを作る時は前の晩に1度火を入れ、沸騰させたものを新聞紙で包んだ後バスタオルや毛布で多重にくるみ、コタツの中にでも入れておく。コタツの電気を入れる必要はなく、要するに熱がこもる場所に入れておけばよいのです。朝、もう1度沸騰させてから保温し直せば、夜にはじっくり煮込んだおでんが出来上がる。カレーやシチューならば、ルーを入れる前段階で保温調理し、最後に暖めなおす時にルーを入れるとよいでしょう。
この調理方法だと具材が煮立てられて踊ることがないため、じゃがいもなどの煮崩れ防止にも役立ちます。形を残して調理したい時にもオススメ。逆に、煮崩れて渾然一体となったものが好みなら、最初から具材の一部をすり下ろして入れてしまえば、同じような状態にできます。
また、保温調理は味がよくしみるのも特徴です。実は、味は冷える時にしみます。しかもゆっくり冷やすとさらにグッド。大根の煮物などは長時間煮込んでも芯の辺りが白かったりしますが、「沸騰させて冷やす」を繰り返すと簡単かつ全体に味がしみます。普通の鍋でも、「しばらく煮立ててから火を止め、自然に冷えたらまた火を入れる」を繰り返すと簡単です。汁気の少ない煮物などでも試せる方法だから、ぜひ試してみて!
何より前日の晩や朝にちょっと手をかけるだけで、仕事中がまるごと調理時間になる。忙しくて簡単な料理ばかりという人でも、うまく保温調理を使いこなせば手が込んだように見える料理が楽しめるのがうれしい。しかも、暖かいものを食べれば体が自然に温まって、暖房も控えめにできてしまうから一石二鳥。節電・節約だからと我慢せず、手間をかけずにおいしいものが食べられる機会を楽しみましょう。

意外と電力を食うテレビ! 消して新しい趣味を見つけよう
わたしたちが思っているより節電効果があるものは?それはテレビなんです。テレビはエアコンのように、安定稼働の状態に入ったら消費電力が減るというものではないですが、長時間つけっぱなしにされることの多い家電です。特に見たい番組があるわけではなく、食事時などにBGM代わりにつけていたり、時刻を知るためにつけていたり・・・
でもね、テレビの消費電力はなかなかあなどれないんです。プラズマテレビよりは液晶テレビのほうが省電力であるものの、最新の省エネモデルでも32V型で60W程度。一般的なモデルならば100Wは消費してしまうそうです。もちろん大型化すれば消費電力も増えて、60Vクラスになると省エネモデルでも200W以上!!プラズマテレビだともっと跳ね上がり、42V型で300W以上も使う。そして、古いモデルだとさらに消費電力は増え、なかには500Wというプラズマテレビの旧型もあるようです。何となくつけておくには、あまりにももったいないですよね。
そこで提案したいのが、ラジオの積極利用とテレビのスイッチを入れる前に番組表を確認する習慣です。ラジオは音だけで伝えるメディアだけに、番組内容は「聞いてわかる」ようにできているから、ニュースや交通情報などもわかりやすい。しかも、消費電力は昔のラジカセ的なものでも10W程度。テレビを見なくなった分は、本を読むもよし、絵を描いたりプラモデルを作ったりと別の遊びをするもよし。あなたなら何をする?

冬の節電に備えて湯たんぽ&捨てないカイロ
いま注目を浴びているのが「湯たんぽ」。空気を暖める防寒グッズよりも肌が乾燥せず、頭の辺りだけが暖かくてボーっとしてしまうこともありません。
椅子に座って使うなら、小さなものを腹部にかかえるようにしたり、背もたれとの間に置いて腰を温めたりするといいですね。また、最近では足下を暖めることに特化して、床に置いた湯たんぽに足カバーが取り付けられた製品もあります。床置きにする時は、湯たんぽの下に薄い座布団のようなものを置くと暖かさが長持ちします。冷えは大敵ですからね。まずは足下から温めることをおすすめします。
さらに、大きめの膝掛けで足下から腰辺りまで覆えば、ちょっとしたコタツのようになって快適。今は内部にアルミ層などを入れて反射熱で暖める膝掛けや、巻きスカートのように腰にまきつけてたち歩けるものもあります。オフィスのひざかけといえば女性が使うものというイメージがあるが、この機会にぜひ男性も使ってみてほしいなぁ。
屋外で暖を取る時は「ハクキンカイロ」が頼りになります。本家ハクキンカイロはベンジンをゆっくりと中で燃やして金属ボディが温まるという仕組み。近年はライターで有名なZIPPOブランドのOEMモデル「ZIPPO ハンディウォーマー」もあり、こちらはZIPPOのオイルを入れて利用します。コンビニでも売っているオイルが使えるから手軽だし、たっぷりオイルを入れれば24時間は暖かく、ゴミも出ないというのがいいですね。金属ボディだけに火傷に注意は必要ですが、カバーをきちんと使っていれば心配ありません。

防寒の基本は分厚い服を1枚着るのではなく、薄い服の重ね着。吸汗性の高い肌着も使って暖まり過ぎて汗をかいた時の冷えも防ぐことが大切です。さらにレッグウォーマーで足首を、リストバンドで手首を温めるのも効果的。「今年は節電がんばらないと!」と思うのではなく、おしゃれな防寒グッズを早めにチェックしてみては?


デンキのない生活7年目山田 征
私は2012年10月3日朝、東京電力の人達によって電気を切られてしまいました。それ以来もうすぐ丸7年の間、全く電気を使えない生活をしています。
その理由は、その同じ年の4月から日本中のすべての電気利用者から徴収され始まった、固定価格買取制度、「太陽光発電促進付加金」というものを不払いしたことによります。
なぜ不払いしたかは紙面の余裕がありませんので、その後の電気無し生活について書きます。
よくきかれるのが、「何が一番困りますか?」という質問です。私は迷うことなく「照明です」、と答えます。電気の代わりの照明はローソクと懐中電灯、それから外の電柱についている外灯です。
懐中電灯は玄関とお勝手のまな板の上にぶら下げ、スポットライト状で使っています。これらを使い始めて気付いたのは、懐中電灯は向けた先だけ明るくて手前は暗いままです。でも探し物には無くてはなりません。ローソクはどんなに小さくてもその空間全体を照らしてくれます。食事の時や、寝室ではほとんどローソクだけです。ローソクは洋と和ローソクの二種類あってそれぞれ使い勝手がちがいます。
次にきかれるのが冷蔵庫や冷暖房についてです。冷蔵庫は気温が低い時は必要ありませんが、高くなってくる頃は保冷剤を入れたクーラーボックスを利用しています。保冷剤は一日一回娘の家で凍らした物と交換しています。
私の処はもともとエアコンも扇風機もありませんでしたので前と同じで、有りったけの窓を全開して風を入れています。それでも暑い時は、タオルをぬらして頭に乗せています。車もエアコン無しですから同じです。いまの家屋はまるで箱のように窓が小さいので大変だろうと思います。
暖房はもともと電気と関係無い灯油ストーブです。上で湯を沸かしたり煮物も出来ます。
そして電話です。私の家のは白ですが、一般的に「黒デンワ」といっているダイヤル式のものですから前と同じです。でも電気が無いと通じない、と思っている人が多く、電気無しになってからは掛かってくる量がガタンと減りました。
それからトイレですが、これも前から電気と関係無しのものです。炊飯器も同じです。昔から土鍋で炊いていました。
洗濯機ですが、小さい物は手洗です。大きい物は溜めておいて時々よそで洗濯機を使わせてもらいます。あとお風呂でしょうか。あいにく電気が無いと使えませんので、夏場は行水です。年をとってくると、そんなに汚れもしませんので、ひんぱんに出掛ける旅先で入ります。
それから私はパソコンも携帯電話もありませんので、それも困りません。
近年巻き起こっている、特に今回北海道全体での大停電。いったい何が起きたのかぜひ詳しく知りたい思いです。

やむを得ず電気を使わなくなってから丸7年、そういう生活の中で気付いたこと、見えてきたこと、考えたことほんとに沢山沢山あります。何はともあれ、他の動植物とちがって、人間は電気を使い過ぎています。その結果、必然的に滅びの道を歩んでいるのでは、と思います。

山田 征(やまだ せい)
1938年東京生まれ。6才より九州宮崎で育つ。24歳で結婚、以降は東京都武蔵野市在住。4人の娘たちの子育てと共に、農業と直接関わりながら共同購入グループ「かかしの会」を約20年主宰し、地元の学校給食に有機農産物他食材全般を約17年にわたり搬入。仲間と共にレストラン「みたか・たべもの村」をつくる。並行して反原発運動、沖縄県石垣島白保の空港問題他、さまざまな活動を経る。


『ご存知ですか?自然エネルギーのホントのこと』

山田 征:著
自費出版1200円+送料200円
自然エネルギーの裏に潜む深刻な問題にどれほどの人が気付いているでしょう。硫黄と反応すると危険物質に変化するとされるソーラーパネルに多く含まれる「鉛」と「銅」。大規模に自然を破壊し、そこに作られた風車やソーラーパネルは十数年後には粗大ゴミに。風力発電の風車は電気を使わなければ回らない…。脱原発の切り札とはならない自然エネルギー。発電設備の諸問題について分かりやすく書かれています。
※この本をご希望の方は、にらめっこに在庫あります。

 

 

これからの暮らしを「降りてゆく生き方」から考える
2009年に公開された映画「降りてゆく生き方」。それから9年。日本は、世界はどうかわってきたか。「デンキ」は私たちの生活を激変させました。「便利」を追求したその先には何が潜んでいるのか・・・私たちは改めてじっくり考える必要があります。生き方で暮らしは変わるし、暮らし方で環境は変わると思うから。

「人と出会うこと、それが映画作りの出発点でした」と言う監督の森田さんは、5年かけて日本全国を旅して200人の人々にインタビュー。作品中の台詞には、実際に出会った人々から発せられた言葉が多く使われているという。東京生まれ東京育ちの彼が、過疎地域、限界集落の地域で町づくりに奔走している人々から与えられた影響は計り知れない。その気づきが見る者の魂にずんと伝わってくる。
以下は、監督からのメッセージ(全文は129号に3ページにわたり掲載した文章)をコンパクトにまとめたものです。

「降りてゆく生き方」
戦後、世界中の人々は、科学の進歩こそ人類の明るい未来があると考えていた。そのハイライトは、世界中が熱狂した米国のアポロ計画による月面着陸だろう。当時の人々は「人類は月にも行くことができる!科学技術は、どんな問題も解決できる」と。まさに「昇っていく時代」の象徴といえる。

かつて人間は、他のあらゆる生物(熊、ジャガー、猿、鮭、森の木々など)と、対照的・同列的な存在であり、敬い、畏怖していた。しかし、人類は生物圏から分化し人間圏を生み出した。そのころ、地球が寒冷化して狩猟採集による生活維持がままならなくなったため「農耕牧畜」に舵を切る。そうして人間は、地球上のエネルギーや物質の流れに影響を与える存在になった。だが、しばらくの間は、その影響はさほど大きくはなかった。これが劇的に変化するのは、17世紀に世界を襲った寒冷期による食物の不作がきっかけで18世紀に始まった「産業革命」以降。地球が冷えるとき、人間圏は変化している。産業革命により、人間の生産量は飛躍的に伸び、史上初めて、余剰生産物が発生する・・・。ここから、余剰生産物の流通が始まり、「貨幣経済」が本格化していく。資本主義の萌芽である。

人間は産業革命によって、石炭・石油といった「駆動力」を持つことで地球に与える影響力は飛躍的に大きくなった。産業革命は、人間と地球との関係を一変させ、貨幣経済を発展させるきっかけともなった。資本主義の発展は、それまで生きることが精いっぱいだった人間が、抑圧していた「欲望」を解放する。そして「欲望」は「所有欲」「消費欲」へと向かっていった。さらに「貨幣制度」が人間の「欲望の解放」をさらに促した。「貨幣」の価値がぐんと上がることになり「マネー」は「手段」から「目的」へと変化し、資本主義がめざましい発展を遂げた。

一方で、科学や技術の発展は、人口増加を招く。日本では江戸時代に3000万人だった人口が、今はその4倍以上。近代の主役である国民国家は、いわば「領土」や「国民」を「所有」する存在となる。国民国家の台頭により、「領土は国家が所有するもの」となった。これが「地球は人類が所有するもの」という現代の人間の考え方の出発点といってよい。

日本では、明治以降、官僚が国家の経済をリードするようになる。日本は、第二次大戦で敗北した。しかしその反動か、敬愛的・物質的豊かさこそが幸福であると国民の誰もが信じ「右肩上がりの経済成長神話」を共有し、一体となって働いた。戦後の新憲法は、「福祉国家」を謳い、国民は「いざとなれば国や行政が何とかしてくれる」という幻想を抱くようになる。しかし、官僚主導の護送船団方式は、バブル崩壊によってもろくも崩れ「安定的なシステム」であった日本というものが終わりを告げた。

地球において人間圏が膨張する中、地球温暖化や環境汚染や食糧問題が発生している。中国など新興国の工業化により、食料が今後確実に不足してくると言われている。食料と水は、人間が生きていく基礎をなす。

これまで日本人は、「物質的に豊になれば幸福になれる」という、カネやモノをより多く得ることを欲求の対象として生きてきた。これは、「足していく」ことに価値を見いだす「足し算の生き方」といえる。しかし、多く持ちすぎることで、何が大切か分からなくなっている。これからは何を得るかではなく、何を手放すか。いらないもの、無駄なものをどんどんと「引いていき」、本当に大事なモノを見すえるという「引き算の生き方」こそが、現代の日本人にとって大事である。われわれは今、経済成長がピークを迎えて下り坂となる「降りてゆく」時代に生きているのである。

かつての人間は、森には神の力が宿っていると畏敬の念を抱いていた。それによって、森は開発から逃れ、生命を育む力を持ち続けていた。だから日本人は、長らく森を大切にしていたのである。自然との一体感のある農耕漁労生活こそ、日本人が立ち戻るべき生き方であり、奥山や、棚田をはじめとする、里山を再生していくことが、私たちの急務ではないだろうか。森を造ることは、人間と自然の一体性を体感させ、取り戻させてくれる。

「生きていく喜び」を感じるような生き方をしたい。そのために、「自然」や「動物」や「人間」と一体化するための「祭り」というものの意義をもう一度、縄文人や先住民たちに学びたい。そのスピリットを再現した現代の「祭」を創り上げ、自他が一体となる「場」を創造することが大切である。それには「夢」を語ること。他者の情動を引き起こし、新しいイメージを生み出す。そうやって、夢が共有され、刺激し合って、大きな夢をつくっていくことが大事なのだ。そうすることで、人々はつながり、新しい「コミュニティー」が生まれるのではないだろうか。その「新しいコミュニティー」の第一関心事はこれまでのように「お金」ではなく、「生命の躍動感」になっていくだろう。

イラスト・にらめっこ147号表紙 ライフデザインノート「ゼロの昇天」の表紙にも使わせていただいたお気に入りのイラスト。
映画「降りてゆく生き方」のイメージにもピッタリ!。