vol.176 メディアよもやま 連載5

メディア題字
トランプ選挙・メディアはなぜ世論を読み違えたのか?
アメリカで一番影響力のある新聞『ニューヨークタイムズ』が、大統領選挙開票日の夕方まで「ヒラリー・クリントン勝利の確率84%」と伝えていたのをはじめ、世界中のほとんどの新聞・テレビがクリントンが勝つと予想していましたが、劇的に勝利したのはトランプでした。長い選挙期間を通して一番忠実にトランプに密着していたはずのケーブルテレビ・CNNでさえ、「我々は現実に即した報道をしていなかった」と嘆いたほどメディアのショックは大きく、読者・視聴者からのマスメディアへの信頼は失墜しました。今年、大きな選挙を控えるヨーロッパでも日本でも、当選予測の根拠になる世論調査の問い直しは必至です。メディアの世論把握はいったいどうなっているのでしょう?
メディアよもやま これまで新聞や大手テレビ局の世論調査の多くは、有権者の電話番号をコンピュータで無作為に選んでアンケートを取る「RDD(ランダム・デジット・ダイアリング)」という方法で行われています。固定電話への質問が基礎なので、働いている人、スマホの若者、低収入の人たちの意見が反映されにくく、日中在宅する年配者の反応が中心になりがちです。更に、答えない人や、本音を言わない人もいて、補正をしても数字の誤差が大きくなります。またメディア自身の価値観や先入観も問題です。例えば「政権を支持しているかどうか」という同じテーマでも、新聞社によって質問の仕方が違ったり、新聞社自身が期待する方向へ回答を誘導する技術によって、“世論”は少しずつ違ってきます。
大げさに仕立てられた報道も世論に影響します。CBSテレビのムーンベス会長は、今回「メディアを意識したトランプの選挙運動を大げさに報道したのは、米国にとってはよくないかもしれないが、CBSの視聴率にとってはすばらしい」と漏らしました。誇張された報道が、有権者が“勝ち馬に乗る”現象(バンドワゴン効果)を招く弊害もあります。
今回の報道の誤算は、これまで無視・軽視されてきた白人貧困層の怒りを、主流政治家やメディアが読めなかった結果だと言われます。メディアそのものが既得権層、エスタブリッシュメントだとも指摘されました。日本の主流メディアの記者も、多くは首都圏の有名大学を出た男性に偏っていることは否めません。メディアの現場に、さまざまな価値観や多様な文化をもったスタッフを配置しない限り、ますますマスメディアのエスタブリッシュ化が進み、報道と民意・世論とのミスマッチが進行するのではないでしょうか。

つだまさお・プロファイル
1943年金沢市生まれ。京都大学卒業後1966年~1995年NHK(福井・岐阜・名古屋・東京)で報道番組の制作・開発に従事する。その後東邦学園短大、立命館大学でメディアやジャーナリズムの在り方を教えたり、全国の市民メディアをつなぐ仕事に携わる。ぎふメディアコスモスの中から発信する市民による市民のための放送局「てにておラジオ」代表。





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