vol.175 平和のつどい 日本国憲法の生命力

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憲法をあらためて思う11月3日
今年は日本国憲法公布70周年、日本国憲法にとっては、とんでもない年寄りいじめの古希の年です。なぜならば、今まで憲法を軽視したり無視した政治家はいても、憲法を蔑視し嘲笑した政治家はいませんでした。安倍さんは日本国憲法のことを「みっともない憲法」と言った、ただ一人の総理大臣です。これは明らかに憲法尊重擁護義務違反ですね。この憲法というものを今日という日にもう一度、腰を据えて考え直しましょう。
政治と距離をとって学問的に憲法を論ずる、それが憲法学者、憲法研究者の使命ですね。その憲法学者、研究者に対して去年、マスコミが「安保法案は違憲ですか、合憲ですか」というアンケートをとりました。基本的に憲法を改正しない限りこれはできない、すなわち違憲という答えが100%出るんですが、菅官房長官は「合憲と考えている有名な憲法学者が三人いる」と言いました。世の中の人は、合憲という学者もいるんだと思う訳です。

 

合憲か違憲か、という議論をしてはいけない
憲法というものの本質を極めれば、普通の政策のように「どっちをとる?」と言えません。それが憲法です。日本における「憲法改正」論議の不思議をドイツからの視点からみてみましょう。
ベルリンの壁崩壊から27年。今日読んだドイツの新聞にはドイツの25%の人が、ベルリンの壁が11月9日に崩れたことを知らなかったという世論調査が発表されていました。戦後27年というと1972年です。当時の日本は田中内閣。当時は戦後27年。「もう戦後は終わった」と言われていて、子どもたちもヒロシマに原爆が落とされたことを知らない、なんて新聞が書く様になった頃です。だから不思議じゃないんです。つまり、ちゃんと教育していなければ、家庭で会話にしてこなければ、それくらいの時が経てば、子どもはわからない。で、それが大人になれば戦争についても知らない、という人が増えている訳です。

憲法は先人たちの努力の賜
私たちの政治、それを委ねる人たちに守らせるきまり、それが憲法です。
1832年5月27日にあった、南ドイツの小さな街・ハンバッハのお祭りでは、およそ3万人の市民が山の上のお城の王様に向かってその山をグルグル回りながらデモ行進をしました。みんな着飾って旗を振り太鼓をならし、歌を歌いながら。どんなお祭りかというと、実はその時王様が、出版の自由を制限するための検閲を政策としました。そこで、印刷業者や作家や学校の先生や市民が、検閲をやめてくれ!と王様に直訴したんです。大きなデモをやると警察が来て弾圧する。だからお祭りにした。まさにしたたかでしなやかな、検閲を辞めさせる、表現の自由を獲得するドイツ市民の素晴らしい戦いです。その時のデモ隊のたすき、旗の色が黒・赤・黄。それが今のドイツの国旗です。
世界に影響を与えた立憲主義の最も重要な旗柱のようなそのハンバッハのお祭り。日本国憲法97条の「過去幾多の試練に耐え」の試練の中身。そして「人類の多年にわたる自由獲得の努力」とは、どこからその努力が始まったのか。ドイツで言えばこのまさにハンバッハのお祭りです。岐阜で言えば、斎藤道三。岐阜駅を一歩降りますと金ピカの織田信長がいますけど(笑)。時の権力者たちはなんでもできた。ところが「信玄法度」と呼ばれる甲州法度之次第というものがありました。全文55か条の最後に「自分がもしこの法に反したときは、身分の高い低いは問わず、目安箱に自分を訴えてよろしい」。「信玄、お前は間違ったぞ、不法行為をやったぞ、そういうふうに言って知らせてください」と書いてあるのです。これが立憲主義の原本です。どの国の憲法も、そうやって先人たちの血と涙と汗と、多年にわたる無数の努力が結実したものなんですね。
しかし、今この国の総理大臣はまさにこの中世の王様やそれ以前の人たちよりはるかに劣った総理大臣です。なぜなら、安倍さんは自分が従わなければいけない憲法を「みっともない」と言う人ですから。そういう意味で今の憲法がいかに危ないかわかると思います。

憲法とは何か
「憲法とは私たちが守らなくていいただ1つの法」です。刑法とか道路交通法とか児童ポルノ禁止法とかという法律は守らないと、捕まったり損害賠償請求されたりします。でも、憲法だけは、私たちは守る義務はない。
99条では「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあって、国民が入っていません。国民は守らせる側であって、憲法を破る可能性のある人を名指ししています。このことがとても重要です。
2012年、選挙では半分近くの人が投票に行かなかった。そして自民党が勝って安倍晋三は総理大臣になり「私は選挙で選ばれました」「安保法案は民意です。選挙で勝ったんですから、国民が認めているんです」と満面の笑み。うそつけ!と思ったところで遅いです。選挙は終わったのですから。これが民主主義の危ないところです。多数派が常に正しい訳ではない。怖いのは、多数派が暴走したときです。ヒトラーだって民主主義的多数派でつくりました。プーチンもフジモリ大統領も…そういう意味では、多数派で民主主義は破壊されるという恐怖の世界は、みなさんご存じの通りです。つまりみんなの一票で独裁がおこるわけです。だから民主主義だけでは独裁が生まれるから、憲法が必要になるのです。憲法というものは、たとえ民主主義でつくった政権であっても、決して破ってはいけないことを大きく掲げています。

立憲主義の車の両輪
第一は人権の保証。人権とは、道路にある交通標識だと私は言っています。車のハンドルを握ったら人格が変わる、暴走するというのは本当にあることですよね。どんなにスピードを出している人でも標識が目に入ると「あ、学校が近いんだな」「子どもがいるかもしれない」と想像力を発揮する。するとその運転手は必ずブレーキに足が行くんですよ。優しいきもちになる。急いでいても。想像力ですね。いろんな交通標識がわかりやすく書いてあると、「注意しよう」ってなるでしょう。そうやって強い強い運転手さん(権力者)に知らせるんですね。本当に弱者の立場が分かった人間が政治家になれば、やるべきことは直感的にわかるでしょう。わかっていない政治家が権力を持ったら国民の苦しさや安全についてもわからないんです。憲法の人権条項を読んでみてください。
日本国憲法103か条のうちの3分の1、10条から40条までが人権保証、その条文の3分の1が刑事手続きと人権裁判です。人権条項の3分の1も刑事手続きに割いてある憲法は、日本だけ。世界のどこを探してもないです。それが日本国憲法の国内的な権力の暴走を押さえるための安全装置なんです。
そして対外的な権力の暴走が戦争です。それを縛るのが9条です。ですから、9条と、31条から40条の2つが人権条項のところにガッチリと権力の暴走を制限している。それが立憲主義の日本国憲法において、最も重要なポイントと考えています。
私たちが国民が突きつけられている条文はただ1つ。第12条です。「この憲法が国民に保証する自由及び権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない」。つまり人権や自由はほっておいたらなくなっちゃう、私たちはいつもそれを意識して、守る努力を続けなさいということ。不断の努力というのは恒常的な努力、私たちの日常的な努力。同時に権力者は基本的人権を尊重しなければいけないんです。
そして97条は「現在、及び将来の国民に憲法を信託する」。人権も今の自民党憲法草案が通るようになったら、将来の日本の国民、私たちの孫やその次の世代は、公の秩序によって人権が制限されちゃうんです。私たちは切り札としてこの「人権」をぜったいに譲り渡さない、そういう戦いはしなきゃいけないんです。

日本国憲法の生命力
たとえば戦闘や何かで、羽田空港に日の丸で巻かれた3人の棺が帰ってきたとします。そこで安倍総理がこう言います。「申し訳なかった!武器使用基準が厳しいために、安保法案が厳しいために、こんな目にあわせてしまった!武力行使がしっかりできたら援護ができたのに、これこそ全て憲法がいけない!武力行使を禁止している憲法を変えなければますます死者が出ます、みなさん!」とあいさつした瞬間、国民が沸騰する。しっかり撃てる様にすれば助かるんだ…と。それは嘘です。撃ち合いになればもっと死ぬんです。でも、武力行使ができない憲法があるから死んだというレトリック。安倍総理はそう熱弁するでしょう。しかし、それを止める力が日本国憲法にある。我々は勝ってはいないけどまだ負けてはいません。憲法を変える変えないは一旦棚上げして、とにかく憲法を彼らに守らせよう!これは護憲派ではなく、「憲法を守らせる派」ですね。そういう形で日本国憲法を活かしていきましょう。                (文責・にらめっこ)

水島朝穂(みずしまあさほ)1953年東京生まれ。早稲田大法学学術院教授。(憲法学・法政策論)法学博士。著書に「憲法『私』論」(小学館)、「時代を読む」(柘植書房新社)など多数。北杜市に仕事場を持つ。
HP「平和憲法のメッセージ」http://www.asaho.com/





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