前回までプラスチックから出てくる女性ホルモン様物質の問題を取り上げました。今回は、塩化ビニルと、塩化ビニルの可塑剤で男性ホルモンを妨害するフタル酸を取り上げます。塩化ビニルは製造時や使用中、使用後の全てで問題があるプラスチックです。
塩化ビニルはポリ塩化ビニルやビニール、塩ビという名前でも知られています。塩化ビニルの構成単位(モノマー、単量体)も塩化ビニルと呼ばれることがあります。両者の混同を避けるため、モノマーを塩化ビニルモノマーと呼びます。
塩化ビニルの製造時
塩化ビニルモノマーは肝臓などのがんを起こします。WHOの国際がん研究機関IARCは塩化ビニルモノマーを、ヒトに対する発がん性が認められるグループ1に分類しています。
塩化ビニルの使用中
塩化ビニル自体は固く、もろく、変質しやすい。塩化ビニルに柔らかい性質を与えたり、着色したりするために、大量の添加物が加えられ、製品が作られます。添加物は使用中に塩化ビニルから出ます。今回は添加物質、フタル酸の問題を後に触れます。
塩化ビニルの使用後
塩化ビニルの焼却によりダイオキシン類が発生します。現在は焼却炉の改善などにより、ダイオキシンの発生量は抑えられています。畑で土壌をおおうために使う塩化ビニルなどが野焼きされることがあります。野外での焼却はダイオキシンが発生するだけでなく、様々な塩素を含む有害物質を発生させます。家の内装、特に壁紙のほとんどは塩化ビニルです。私たちは塩化ビニル容器の中で生活している様なものです。火災が起こると野焼きと同じく危険な物質ができます。
フタル酸類の問題
コルボーン博士がフタル酸をホルモンかく乱物質として取り上げて以来、フタル酸が問題になっています。問題になっているフタル酸とは、フタル酸エステル類のことです。フタル酸は可塑剤として塩化ビニルの60%も使われることがあります。塩化ビニルは電線の被覆やフローリング材、壁紙、自動車部品、かばん、接着剤、プラスチック手袋、輸液用のバッグやチューブなどの医療用材料、消しゴム、ペンキなどに使われています。驚くことに、マニキュアやすぐ蒸発しないように香料などの化粧品などにも使われます。
生殖への影響
フタル酸エステルは男性ホルモン(テストステロン)の作用を妨害します。フタル酸エステルにより男性ホルモンの減少や精巣の構造変化、受精能低下、精子数の減少が見られ、女性でも女性ホルモン減少や卵巣機能不全が起きます。胎児や乳児が被ばくすると、特に強い影響が出ます。
発がん性
国際保健機関の国際がん研究機関は、フタル酸の一部が人間の発がん物質の可能性があるとして、グループ2Bに分類しています。労働者がフタル酸に曝されると基準以下であっても、肺や肝臓の異常や精巣の萎縮、肝臓がんが発生すると、ごく最近報告されました。
その他の小児や胎児に対する影響
小児がフタル酸エステルに被ばくすると、ぜん息や湿疹を起こしやすくなり、妊娠中に被ばくすると、幼児の身体発達の変化や自閉症に似た小児の行動が現れるといわれます。妊娠中に強いフタル酸被ばくをすると、男性乳児の肛門と陰茎との距離が短くなるそうです。これは男子が女性化したことでしょう。今後も多くのことが分かってくるでしょう。
フタル酸を避けるために
フタル酸の一部は規制されています。しかし、現在でも多量に使われ、あらゆる所にあります。フタル酸を完全に避けるのは不可能です。しかし、減らせばそれだけ良いでしょう。特に幼い子どもやこれから生まれる世代を守るために!みな様も可能な範囲で減らそうと試みましょう。例えば:
・化粧品や香料は最低限に使いましょう。
・やわらかいプラスチック製のおもちゃには、フタル酸が多く含まれます。子どもに与えないようにしましょう。
・台所のプラスチック製品を少なくしましょう。
・ペンキを買う際は、「フタル酸樹脂」という表記は避ける。
・食品用ラップを使わない。一時的に蓋をするなら皿でも十分。
・ファストフードを食べないように。(ファストフードの摂取量が多い人ほどフタル酸の曝露が大きかったという研究報告が出ました)
・有機食品は農薬などが少ないが、フタル酸汚染が起こることがあります。製造・流通業者は製品の取扱方に注意を。
・家の中のほこりを少なくしましょう。(ほこりには有害物質が多い)
※【可塑剤】そのままではもろくて変形や加工がしにくい樹脂を、軟らかく、加工しやすくするために加える物質。
<span style=”font-size: small;”>わたなべかずお:福島県生まれ。新潟大学卒。浜松医科大学勤務(脳研究と教育に従事)医学博士、各務原ワークショップ主宰(毎月第4木曜日13:00〜渡部宅(各務原市蘇原東栄町)主に健康と環境に関することの勉強会)参加希望者はbandaikw@sala.dti.ne.jpまで</span>