vol.174 チャレンジャー ジョイとともに松山ゆかりさん

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20016年7月1日現在、全国の介助犬実働は71頭。ジョイは岐阜県でたった1頭の介助犬。

20016年7月1日現在、全国の介助犬実働は71頭。ジョイは岐阜県でたった1頭の介助犬。

ひとり暮らし
ひとり暮らしを始めて7年、ジョイと出会って5年になります。私は抹消性の神経障害(進行性のニューロパチー)で、小学校の頃に症状がでてゆっくり進行し、車いす生活になったのが22歳の時。今も少しづつできないことが増えている状態です。ひとり暮らしを始めようと思ったのは、いつまでも親に頼れない、自立したいという気持ちからです。それだけでなく、福祉系の大学在学中に、障がいがあってもアクティブな方たちとの出会いが多かったこと。自分でご飯を食べられないような重度の障がいの方が、名古屋のAJU自立の家(※1)で、頑張って自立生活をされている姿に会い、私もできるんじゃない?と思えたことが大きいです。
ひとり暮らしになったら自由に買い物に行けて、あわよくば飲みにも行けるかなぁ、なんて淡い期待を抱いていたんです。ところが、何もできない。日常の生活の中でさえ落とした物を拾うことも大変だし、拾うことができても、その時に車椅子から落ちたら誰か来て助けてもらうまでどうしようもないんです。以前は不安で朝から夜までずっと携帯電話を首に下げていました。ベッドで休んでいる時にお客さんが来ても、起き上がるのに時間がかかるし、玄関までやっと行っても今度は鍵を開けるのが一苦労。一人暮らしを始める前は何とかなるだろうと思っていたのが、何ともならんなぁって。一ヶ月くらいして、長久手市にある介助犬総合訓練センター「〜シンシアの丘〜」(※2)に相談に行きました。

ジョイが来て
ジョイが来てくれて今は落とした物を拾ってくれる。もしも車椅子から転倒しても、携帯電話を探して持って来てくれるし、夜寝る前には電気を消してくれます。ベッドから起き上がるときも助けてくれます。私が寝ている状態で脇を少し開けると、そこから鼻でぐぐっと入って来てくれるんです。以前は起き上がるのに1時間かかっていたのが今は5分。疲れた時に横になることができるようになりました。それに、介助犬の効果は他にもあるんです。ジョイがいるだけで、「あらぁ、可愛い」っていろんな人に声をかけられる。だから周りの目線が全然怖くなくなったんですね。以前電車の中で、「邪魔だな、家から出るなよ」って言われたことがあるだけに、障がい者はみんな家にこもってろ、みんなそう思っているんだろうなぁって、怖かったんです。でもジョイが来てからは「可愛い」という言葉から始まって、「すごいね、頑張ってね」って言ってもらえます。「可哀想に」「邪魔だ」が「頑張ってね」になった、それは私にとって大きなことでした。
ジョイが来て私の行動範囲が広がり、みんなにビックリされるんです。遠くは大分県で自動車運転免許を取ったり、イベントで佐賀や博多にも行きました。ジョイのおかげで私の世界は本当に広がりました。

子どもに伝えたい
ジョイは、触られるとテンションが上がっちゃう性格なので、「触ってもいいですか?」と聞かれても、「ごめんなさい」と丁寧にお断りしていることが多いです。だけど、子どもさんに言われるとついOKしてしまうことが多いのですが、その時は「お仕事の時もあるから、一回私に聞いてね」と伝えています。
小学校低学年くらいの男の子は電動車椅子に興味ある子が多くて、「あの車椅子すげー!勝手に動いてる!」ってちょっと離れたところで言ってたりします。「これで動かしてるんだよ」って言うと「すごーい!」。そのすごーいが重なって偏見がなくなれば、障がいのある人も、社会の中で当たり前にいる人になるんだろうなって思うんです。
先日、スーパーで買い物していたら、ジョイを見て「あの子はお仕事しているから触っちゃダメなんだよ」ってお母さん達にお子さんが教えているんです。そういうのを見るとああ素敵だなって思います。子どもの頃は柔軟で吸収する力もあるので、小さな頃からいろいろ知ってもらえたらいいですね。ƒvƒŠƒ“ƒg
協会では夏休みに小中学生を対象とした介助犬教室をやっています。そこで「私はお父さんやお母さんに迷惑かけたくないなと思ってひとり暮らし始めたけど、実際には周りの人に迷惑かけることばっかしで・・・。介助犬(ジョイ)のおかげで、今の暮らしがあるんだよ」って話しをすることがあります。今では介助犬の啓発活動は私の生き甲斐のようなものになっています。
ジョイが着ているケープには大きく“介助犬”と書いてあるのに、「あ、盲導犬だ」と言われることも多いです。介助犬と盲導犬では同じ補助犬でも、お仕事の内容が違います。また、介助犬と盲導犬のユーザーさんでは困っていること、助けてほしいことの内容が違います。多くの方に正しい情報を伝えなくては、と思いますね。
一方で、障がいのある人も、介助犬がどんなことをしてくれるのか知らなかったり、「私なんかより重度の人が必要としているから」と手を挙げない風潮もあるんです。私のように介助犬が来たらこんなにも変わった、という方もいるので、障がいのある人にも介助犬のことをもっと知って欲しいですね。それに、病院の先生やリハビリテーション関係の方が知っていてくださると障がいのある人に対して情報提供もでき、介助犬がもっと身近になるのでは、と思います。

ジョイがいるから
ジョイが来たばかりの頃は、指示の出し方もうまくないし、ジョイがどうしていたいのかもわからず戸惑っていました。でも今では私は「ジョイは私で私はジョイだ」って思うようになりました。私はジョイのことをよく見ているけど、ジョイも私のことをよく見ていて、私のちょっとしたそぶりで動いてくれる。それは5年間という一緒に過ごした時間があるからこそでしょうね。今は「ジョイだったら大丈夫!」って思えて、どんどん外に出られるんです。もしジョイがいなかったら今の私の人生はなかった、それは確かですね。
いま私が目指しているのは、“取材されない”こと。盲導犬は認知が広がっていますが、介助犬や聴導犬はまだまだ珍しい存在で、取材の対象になっています。取材をしていただくことで広めることはできますが、取材されないはイコール普通の生活。それが、障がいのある人たちがどこに行っても困らない社会への一歩となると思うのです。(各務原市在住)

※1.【社会福祉法人AJU自立の家】施設の企画から運営に至るまで、障害者自身が中心となって進めています。「福祉を受ける」立場だけではなく、「福祉を創る」という積極的な取り組みの中から、たとえ寝たきりでも生きていてよかったといえる社会をめざし、名古屋の新しい福祉を担っている。http://www.aju-cil.com/

※2【社会福祉法人日本介助犬協会】1992年アメリカから一人の女性が介助犬を連れ帰り、それをサポートしようと集まったボランティアにより「介助犬協会」が発足。多くの方々の協力を得て、日本初の介助犬専門訓練施設「介助犬総合訓練センター ~シンシアの丘~」を2009年5月 愛知県長久手市に開所しました。http://s-dog.or.jp/