VOL.152 新米Nurseものがたり-(Vol.14) まいまいの看護師見習い奮戦記~From Newyork~

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part-14

生きていればこそ

受けもちの患者さん、心のそこから死にたがってた。
「早く死んでしまえれば楽になれるのに、誰かが今すぐにでも殺してくれればいいのに、生きてると苦しいばっかりで、早く楽になりたい、自分が生きてることが苦しくて苦しくてしょうがない」って。

言葉がなかった。
「今どこか行きたいところはありますか?」って聞いたら、
「こんな体で行けるとこなんてどこもないわよ。でももしできるなら息子と一緒に暮らしたいね。他になんにもいらない。一番大切な宝ものは息子よ」

また言葉がでなかった。涙だけがあふれて…
息子さんを他の家族に養子としてひきとってもらった。
息子さんに幸せになってほしい…ときっとその一心で決めた選択。自分が生きていると息子が新しい家族との間で苦労するだろうから早く死んでしまいたいって。

うちは癌で死を宣告されたことも、シングルマザーになったこともなくて、彼女を理解しようとしてもわかりえない気持ちや感情がいっぱい… でも息子さんにとっての血のつながったお母さんは彼女たったひとりで、おかあさんはいつまでたってもおかあさんで、本当は一緒に暮らしたいのに、一緒に過ごしたいのに…

涙ながらに「もっとわがままになっていいと思います」っていってしまった。悲しいばっかりで、つらいばっかりで、そんなふうに死んでいいのかなって…

でも残された時間もっと一緒にいたいって思うのは母親として当然で、きっと彼女も痛いほどそれを願っていると思う。
息子さんもきっと同じ思いだと思う。

まだ目の見えるうちに、息子さんのこといっぱい見つめてあげて
まだ腕の動くうちに、息子さんのこといっぱい抱きしめてあげて
まだ言葉がでるうちに、息子さんにたくさんの言葉を送ってあげて
まだ心があるうちに、息子さんをありったけの愛で包んであげて

「馬鹿なのかもしれないけど、それが一番いいと思う」って彼女が言った。きっとおかあさんである彼女が、毎日毎時間毎分、死と向き合ってる彼女が、そう決めたのだから、きっとそれでいいと思う。でも。。。

うちが息子さんやったら、最期までお母さんと一緒におりたい!できるだけいっぱい時間一緒にすごしたいもん!最後の最後まで手握ってたいもん…

彼女は痛みがコントロールできなくて入院してきた。痛みで我を失い、顔がゆがみ、精神状態も錯乱し言葉もままならかった。痛みがちゃんとコントロールできるようになってきたら、食事も進み、人と話しもでき、笑ったり微笑んだりできるようになった。

今日はもう相当量の痛み止めのために、ぼーっとしたりもうろうとしているようだった。それでも話かけると、「もうろうとしますけど痛くなるよりこのほうがいい、だから薬ください。痛み止め飲みます。」ってはっきりした返事がかえってきた。

正直かなり躊躇した。これを飲んだら多分この人ノックアウトされるだろうなって。でも…あげた。それが本人の望んでいることだから。彼女は痛みに恐怖し、早く死にたがってる。

安楽死や薬による自殺、他人による安楽死の幇助など、いろいろなことが議論されるけど、今うちのやってることは安楽死の助けでも自殺の助けでもない。

彼女は「早く死にたい」って何度も言うけど、毎日死と向きあって、その時がくるのを感じながら、それでも生きてる。痛み止めで痛みを抑えて、「死んでしまえれば楽なのに、でも死ねないのよ。」っていって泣いたり、ときには微笑んだりして、生きてる。

彼女をみてると、病を受け容れることの難しさを痛感する。
きっと養子に出した12歳の息子を一人残し、まだまだ働ける若さで死ななければいけない現実に、痛みや体の変化でいろんなことができなくなってくる苦しさに、なぜ私がって思うやろうな。悔しさと苦しさと痛みと絶望といろんなものが、痛みとなって悲しみとなって波のように毎日毎日おそってくるんやろうな。

痛み止めの薬あげたあと、患者さんが安らかな顔して眠ってると、正直ほっとするんや。あぁ、今は痛みも感じてない。。。って

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