メキシコ人のおばちゃん
この人はハンティントン病っていう病気で、症状が進んだ今はほとんど自分で何もできない。自分ではコントロールできない筋肉の動きのせいで、ときどきベッドの上で飛び跳ねたりもする。
手も足もクビも口もすべての筋肉がそうで、見ていてもいたたまれない。表情もひきつってるようにみえるけど、笑うとちゃんとわかるし、怒ってるのもわかる。まだかろうじてしゃべれるし、スペイン語しかしゃべれんけど、簡単な単語ならまだ聞き取れる。
このおばさんには、娘さんが5人いて、2人はアメリカにいる。ふつうに生活してて子どもも育て、それなのに病気のせいでだんだんといろんなことができなくなって、ひきつる筋肉のせいで思うように体が動かない。すごいストレスやろうなと思う。
ある日うちがうけもったとき14時間一回もおしっこしなくって困った。ふつう8時間おしっこしないとなると、ドクターに連絡して膀胱がダメージうけないよう、いろいろ手当てをするんやけど、この人の場合とにかく意志疎通も難しいし、水分飲むにも思うように飲めないし、とにかくどうしようかとドクターも困った。
彼女は前の日までおむつで用を足してたから、うちもみんなも、膀胱を自分でコントロールできないんやとばっかり思ってた。だからどうして尿がでてこないんやと、脱水症状なのか、何らかの原因で尿が膀胱にたまったままでてこないのか、膀胱炎おこしちゃったのか。。。となんやらかんやらと考えた。
そのうちドクターが、じゃあFoley catheter(膀胱に挿入するチューブ)を試してみますって、そのFoley catheter のキットをもって患者さんの前にいったら、もうあばれて暴れて叫びまくって、彼女のできる限りの抵抗をした。涙も流してた。足ももう少しで他のナースの顔蹴るくらいやった。それで、これは違う。きっと彼女は拒否してるから、やめましょうっていって、あきらめた。
ふと、患者さんにうちのつたないスペイン語できいてみたら、トイレって何回もいうから、じゃあベッドパン(ベッドの上で尿をたせるような容器)を試してみようと思って、容器をもってった。そしたら、容器をおしりの下に入れた途端に、すっごい勢いでおしっこした。 あ! この人めっちゃ我慢しとったんや・・・ 膀胱のコントロールちゃんとできるんや・・・って気づいた。なんでそのこと考えなかったんやろう、思い込みでみんながみんなIncontinentやと思いこんどった。この人、本当はいろんなことまだできるんや・・・そんときは本当にごめんなさいって反省したし、なんで最初から患者さんにふつうの人のようにベッドパンをオファーしてあげられんかったんやろうって自分が恥ずかしくなった。
それから数日たって、今度はがんとして食べなくなった。
何をもっていっても拒否して、食べなかったし飲まなかった。
それでうちは心配になって、何が好きか何が食べたいかこれまた赤ちゃん言葉のようなスペイン語できいてみたら、メロンっていった。それからフルーツっていった。。。気がした。それで次に働く日にメロンを細かく切って持って行ったんや。そしたらそれまで3日も4日もほとんど飲まず食わずやったのに、いっきに全部たべて、そのあとは病院食も全部たべるようになった。あぁ、新鮮なフルーツや野菜が食べたかったんやなぁ。。。
そのあとまたメロンをいっぱい持って行って、バナナも持って行った。この人すごい勢いでおいしそうに食べたよ。
コミュニケーションもろくにとれずに、自分の体をコントロールできずに、自分の意志とはまったく違った動きをしてしまう筋肉と、一日中ベッドの上で過ごす毎日は、どんなものやろう。そして時がたつにつれて、症状は悪化する。
彼女はそのうち自分で食べられなくなる。そうやって死んでいくんやなぁ。そう思うといたたまれない。
でも、うちはこの患者さんが大好き。