VOL.162 新米Nurseものがたり-Vol.24

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連載 part-24

うちの病院はあいかわらずすごい・・・

なにがすごいって、患者が多種多様すぎて、ちょっと異様だと思う。それが都会だからなのか、この世の中がおかしくなってきてるのか。

心中に巻き込まれた中国人の女の子、29歳。
何箇所も体を刺されて、内臓だけでなく手足の神経や腱も傷ついた・・・心の深いところまでも。
自殺しようとして2階から飛び降りて、死ねなかった中国人の中年男性。声が聞こえたっていってたから、きっと精神的になにかあったんやろう。

2人は同じ時期に入院して、全然関係はなかったけど、2人ともほんとに顔がフラットで表情がなかった。何がどうしてこうなったのか・・・。また笑える日はくるんやろうか。

刑務所からもよく来る。60代のおじさんは、ユダヤ人。最初すっごい狂ってて会話もなりたたない感じだった。
突然シーツをかぶってへブルー語で呪文のようなお祈りをし始めたと思ったら、痛み止めや、抗生物質や、食事を持って行っても、「祈りの途中に話しかけるな~!もう~最初っからやり直しだよ~」って言って、またズーッとシーツの下にもぐってモゴモゴ…。

何をして刑務所に入ったんだと思って記録を読んでたら、なんとニューヨークの証券界の世界でも超有名な会社?の社長で億万長者らしい。奥さんも超有名人らしい。
足の感染症で敗血症になりかけて病院きたみたいやったけど、糖尿がうまくコントロールできてなく感染症もひどくなってた。いくらお金持ってても、幸せな人生を送ってるようには見えなかった。

もう一人のおじさんも刑務所から。釣り好きの陽気な白人やったけど、看守に口うるさく言ったらしくてそのまま5人の看守に殴る蹴るの暴行をうけ、肋骨折って気胸ができて運ばれてきた。
もちろん看守の記録には、受刑者が看守を2発殴ったって書いてあるらしい。でも本人は「看守には指一本触れてないし!刑期終わったら絶対訴えてやる!」て言ってた。

先週は病院の近くで、ホームパーティー中にドアをノックして「ハロー」って言って入ってきた男に、4人が撃たれた。
その撃たれた人たちはみんなうちの病院にきたけど、そのうち1人は容態も安定してうちの病棟にあがってきた。

銃があっては、人は幸せには なれない。
何のための武器であっても、武器があることで幸せはうまれない。

死を看取ること

今日は受け持ちの患者さんが朝からいきなり錯乱状態になった。泣きわめいて手足を動かして、まるでもがいてるみたいだった。
ターミナルの精神錯乱みたいで、人によっては幻覚をみたり幻聴があったりする。この患者さんも本当に錯乱してて泣いてた。

これは家族も見ているのが本当に辛い。多めの鎮静剤で落ち着いた。でもそのあとはもう意識は戻ってこなかった・・・

お昼前には呼吸の感じが、もうすぐその時がくる感じだったし呼吸もしんどそうでなく、痛みもなさそうだったからモルフィンを投与しなかった。

そして、午後2時すぎに亡くなった・・・

金曜日には、今刑務所で囚役中の息子さんが、1時間だけという短い時間だけど、看守の付き添いのもとこの患者さんに会いにきた。そのときはまだ意識もあって、お母さんが坊やに話しかけるように息子さんの顔に手をあてて何か話してた。

患者さん、息子さんに会えてよかった。
息子さんも、お母さんに会えてよかった。

この患者さんが亡くなったとき、息子さんは刑務所の中で母親が死んだことを聞かされるんやなぁと思ったら、なんかやるせなくなった。最後は本当に静かに息がとまった。

2、3時間たってから、お体を包みにいったときも、まだ全然体が温かくて死んだのがうそみたいだった。

それから患者さんの顔をみて思わず泣いた。死ぬときに家族につられて泣くことはあっても、亡くなって何時間もあって、体を包むときはけっこう無感情のまま淡々としてることが多いのに、このときはなぜか、泣けてきた。

死んだときにはなかった安らかさがあふれてて、まるで本当に微笑んでるような表情だった。その安らかさに泣けてきた。よかったって。入れ歯のせいかもしれんけど、あのときは天使が迎えにきたんやなぁってほんとに思った。

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