vol.170 チャレンジャー 竹細工 前西千寿香さん

チャレンジャータイトル170

竹を伐採するところから材料作り
ここ、(美濃市の番屋2号館)に来て作業をするのは週に3日か4日です。定期的に開いている竹細工教室が月に4回。講座では竹ひご作りからするんですけど、結構人気があるんですよ。依頼を受けて出張で講座を開いたり、小物を作ってマルシェで販売することもあります。
竹細工はまず最初に竹林で竹を伐ってくるところから始まります。あちこちに荒廃竹林があるので、竹はいっぱいあるだろうって思われがちですけど、そういうところの竹は、使いにくいものが多いんですよね。竹細工に使うにはそれなりにまっすぐでないといけないし、節と節の間隔が長い方がいいし、と選んで行くと本当に使えるものってごくわずかなんです。
竹を伐る時期は冬。夏だと竹が水分をいっぱい吸っているので扱うにも重たいし、黴びやすいし、栄養分たくさん含んでいるので虫もつきやすいんです。採って来た竹は、湿気の少ない場所で保管して、等分に半分に割って、また半分に割って、とくり返して、必要な幅をとって行きます。それを薄くしてひごを作ります。作品を編む事よりも、竹からひごを作るまでがうんと時間がかかります。編むのは作品作り全体の2、3割くらいでしょうか。全部鉈を使っての手割りです。

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竹ヒゴつくり

手は痛いですよ。肩も凝るし、何か刺さったり、ちょっとしたケガはしょっちゅうです。孤独で地味〜な作業なので、よくこんなことしているなって自分でも思いますけど(笑)。でもそこはあまり気にならないですね。技術は要るかもしれないけど単純作業で、私はこの作業時間が好きです。
竹製品って幾何学的な編み目が規則性があってきれいですよね。そういうところに惹かれて始めたんですけど、作っていて思うのは、材料の竹を選び、伐るところから自分でできること。大きな機械が要らないので、自分の手さえあれば、製品ができるというのもすごい魅力です。しかも、小物だけでなく鵜籠のような、大きなものもできてしまう。形も大きさも、いろんなものができて、しかもわりと頑丈で。自然素材としてはとても優れていると思います。外国にも籐などで編んだ籠はあるんですけど、どれも目がつんだものばかり。鵜籠のように編み目をあけて、空間を大きくとるように編むのは丈夫ではりがある竹細工ならでは、と思いますね。

伝統と竹製品
製作は、受注生産です。昔職人さんに作ってもらった籠がもうボロボロだけどその職人さんもいなくて、作ってくれないかとか多いですね。そのボロボロになったものを見本にして、竹ひごの大きさとか実測して、できるだけ同じ形のものを作ります。
私が今作っているのは柿の収穫に使う籠です。他にも、神社のお祭りで使われるような籠とか、手漉き和紙に使われるトロロアオイを濾すためのザル、郡上の藍染めに使われる籠も作らせてもらいました。竹って、結構いろんなところにまだ使われているんだな、と実感しています。
でも、鵜籠とかそういう伝統漁や伝統産業に使われる道具ってすごく大事で、それがないと伝統を続けるのも難しくなるので、作っていかなきゃいけないなと思うんですけど、それだけじゃなくて、一般の人に向けて作って、裾野を広げていく必要性もあるんですね。両方とも大事。
伐ってきた竹

身近な竹製品としては、ザルはもちろん、籠、ビク、落ち葉をかいたりする箕、山菜を摘んで入れる籠とか。今はプラスチック製のものもいっぱいあるけど、例えば台所に1つ竹ザルがあれば、料理が楽しくなるとか、そこから気持ちも変わるし、なんかちょっと生活が豊かになるような気がするんです。

今の悩みといえば、作りたいものがいっぱいあり過ぎて、時間が追いつかないというところ。まだまだ手が遅いので、作るのにすごく時間がかかり全然追いつかないんです。自分が見込んだ時間以上にかかってしまって、予定通りに進まない。どこかで売らないの?とか、こんなことやったらいいんじゃないの?とか周りから言ってもらったりするんですけど、したいのはやまやまなんですけどね。

竹細工を始めるまで
実家が田舎のわりと古い家の農家だったので、昔ながらのものが当たり前にあったからかもしれません。以前から古民家とかが好きで、和歌山での大学時代は、建築を学び、古い昔の家の実測調査や、集落の成り立ちなどを研究していました。大学卒業後は、木造建築のもっと実務的なことを学びたくて、美濃市にある、岐阜県立森林文化アカデミーに入学しました。アカデミー2年生の時、和歌山で大工さんと一緒に空き家を改修するワークショップなどのイベントを企画したりする仕事に就くために和歌山に戻りました。でもそこで仕事をするうち、自分の中で、企画よりも実際に自分の手でなにかする仕事がしたい、という思いが強くなって、それで美濃にまた帰って来たんです。
私の今の所属は、NPO 法人グリーンウッドワーク協会という団体です。そこの会員の一人が職人さんから教えてもらいながら竹細工を始めたんです。自分もやりたくて、教えてくださいよってずっと言っていました。で、作ってみたら全然できなかった。簡単そうに見えたし、自分でもできるつもりでいたのに。作ったのは小さい籠で、とりあえず形にはなったけど不格好だし、汚いし、というか、ぜんぜんたいしたもんじゃなかった。私、負けず嫌いなんで、このままにできない!と思って。

自分で作った道具で畑作業・・・
今、美濃市にある古民家のシェアハウスで、5人で住んでいます。アカデミーで林業を学んでいる人、木工をやっている人、畑で野菜を作ったり鶏を飼っている人、木造建築の仕事をしている人と私です。それぞれしていることは違うけど、考え方も似ていて、自然に寄り添ったくらしができています。
今はシェアハウスですけど、いずれは自分の古民家を持ちたいですね。トータル的な暮らし、畑もできたらいいなと思うし、自給自足とまではいかなくても、ある程度は自分が作った道具とかで畑とかやってみたい。道具としての竹細工製品に囲まれて・・・自分が心地いいと思える生活をしたいと思っています。
ただやってみたいと始めた竹細工だったんですけど、今それが少しずつ仕事になってきているんです。今はアルバイトしながらなんですけど、これからも仕事としてやっていけたらと思っています。(美濃在住・30歳)
鵜籠説明

【NPO 法人グリーンウッドワーク協会】暮らしの道具をつくるものづくり講座を主体とした活動により、人力の道具で生の木を削る、新しいものづくりの普及に努めている団体。美濃市が活動拠点。
【岐阜県立 森林文化アカデミー】林業、山村の 活性化、木工、木造建築、環境教育、里山などのスペシャリストを養成する公立の専門学校。 所在地/岐阜県美濃市曽代88