vol.219 謎すぎる菌ちゃん

微生物。見えないだけに謎多き存在ですが、「私たちヒトは、微生物に支えられて生きている」と専門の研究者は語ります。微生物は、土の中にも存在し、土壌の生成や生態系の維持に大きな役割を果たしており、農業をする上でも無視できない存在です。そんな土壌微生物が、昨今、いままでになく注目を集めていることをご存じでしょうか。それは、いったい、なぜでしょう。

研究で解明されていることは、たった1%

「微生物」とは、肉眼で捉えることができない小さな生物の総称。例えば、「細菌(バクテリア)」「カビ」「原生動物」「藻類」など。よく知られている細菌といえば、「乳酸菌」「納豆菌」「麹菌」「ピロリ菌」等々です。微生物は、私たちの手、口、鼻、目、皮膚にも潜んでおり、腸の中には100兆個が存在していると言われています。それらはバランスを取り合って、私たちの健康を支えてくれています。他の生き物にも存在し、空気中や、あらゆる環境の中にも息づいています。ただ存在するだけではなく、その場で増え続け、何らかの影響を与えているのです。現在、地球上の微生物については、どの研究者もこう言います。「99%は謎」。
大きくわかっていることは、私たちは、「微生物に支えられて生きている」「微生物に生かされている」、さらには「微生物に支配されている」と研究者が語りたくなるほど、切っても切れない深いつながりを持つ最も身近な生き物ということ。


菌ちゃんが分解できないものは?
微生物にも分解できない“ゴミ”があります。 それは微生物にとって有毒な物質。 また、もともと地球上にはなかった物質、例えば人間によって作られたプラスチック製品などは、微生物による分解がむずかしい物質です。

では微生物は何を分解しますか?
通常、微生物は生物の死骸や枯葉などを好んで分解するのですが、中にはダイオキシンやPCB、残留農薬など、人間が合成した有害化合物を分解する変り者もいます。 このような微生物は、化学物質で汚染した土壌を修復するための、環境浄化技術に利用されています。

微生物は化学物質を分解できるのか
はい、自然界には分解されにくい化学物質をも分解してくれるような微生物が存在します。 そのような微生物、「分解菌」をうまく利用して汚染された環境を修復することを「バイオレメディエーション(bio=生物,remediation=修復)」といいます。 化学物質を食べて無害な物質に変えてくれる分解菌です。

希望のもてる最新研究
PFASをめぐる懸念のひとつは、人体や環境中にいつまでもとどまる点にあります。「永遠の化学物質」は、時とともに蓄積するおそれがあり、取り除くのは難しい。PFASを含む食品パッケージは堆肥化できず、ごみ埋め立て地を汚染します。

Fofbes JAPANによると、「永遠に残る」化学物質をナノテクノロジーと微生物で分解を目指す!として現在、ピッツバーグ大学とニューヨーク州立大学バッファロー校の研究者がその仕組みの解明に取り組んでいます。(218号にもこの記事の一部を掲載)

かたや、ヒトと微生物の関係について、日本の研究グループが、12年もの歳月をかけ、私たちの先祖をたどり、「アーキア」という微生物に行き着くことを解明しました。
私たちは、かつて微生物でした。微生物とは、深いところで繋がっていたのです。今、微生物のおかげで健康を保ち、私たちは生きています。微生物によって生かされているといっても過言ではないでしょう。

それならば、ギブアンドテイク。土が劣化しているのであれば、土の中の微生物が再び生きやすい環境を取り戻す手助けをする。それができたら、微生物も私たちも、正真正銘、共に地球を支え生きていることになるでしょう。土を耕し、土の健康を守ることは、実は私たちの健康を守ることにもつながっているのですね。
もう一つ。化学の進化は私たちの暮らしを大きく変えました。簡単、便利、安価…ばかりを追求すると自然界に大きなダメージを与えるばかりか、私たち人間に未知の不安を抱かせることになります。自然の理にかなった生き方を選択したいものです。
目に見えないものにもその気配を感じる事はとても重要です。PFASにしても放射能にしても、健康被害を与えないと言われる基準値は一応の目安ではありますが、それにとらわれると重要なことを見逃してしまう恐れもありますから。


かんじんなことは目に見えないんだよ
(サン=テグジュペリ)
小説の中で王子は「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」と教えられました。現代社会に生きる私たちは、目に見えるものばかりに心を奪われて、数値ばかりを追い求めてきました。その結果、大切なものを見失い、目に見えない多くのものに支えられていることに気付かなくなってしまったのではないでしょうか。