vol.218 しょうがいをみつめる 最終回

そのうちニューヨーク

「そのうち」と聞いて皆さんはどう感じるだろうか。ネガティブな感情や態度として使われることが多いと思うこの言葉に私はポジティブな可能性を感じている。

 タイパやコスパなど、いわゆるパフォーマンスやリターンを予測した評価基準に慣らされてしまった私たちは、早急に答えを出すことが評価につながったり、問題解決という実感を伴う満足感を得ることがあるため日々奔走してしまっている。

そのため問題や課題というものを探し、解決するべきだと目標設定をしたり、そのための順序や枠組みまで考えてしまう。深くは考えていないにしろ、そのようなフレームを知らず知らずに作ってしまいながら進んでいる側面をぬぐい切れない。早急に解決せねばならぬものと「そうでもないもの」という観点を持ってみたらどうだろう。「解決せずそのままにしておく」ということはストレスがかかり、すっきりしないモヤモヤとして残ることが多い。そのままにしておくことも解決のひとつであると定義し、時にはこれに「取り組む」姿勢を持つことも必要なのだと思う。「しないこと」に取り組む。「決めないこと」を決める。これは経営時代に意識して行っていたことであるが、何もしないとか放任・放置とは少し違う感覚を持っている。そして、それを行動に移すには結構勇気が必要だ。

知的に障がいを伴う方々(私の中では長男)の繰り返し行う“こだわり”や飛び跳ねたりなどの予想外の行動、コレらは社会生活において正さなければならない行為として広く認知されていることが多いように思われる。迷惑を掛けたり、自傷や他傷の可能性もゼロではないため、確かにそのような側面もあるが、全てが今すぐに対処すべき対象ではないと考えている。起こってしまう事象は事象として、そのままにして「そのうちに」としておくことがあってもいいような気がしている。そのままにしつつ、ただ寄添ったり、そばにいることで本人が置かれている環境や見つめる眼差しがどこを見ているかに私たちがふと気づく余白時間をもたらすことがあるからだ。

これは私のつたないほんの少しの経験からなので一概には言えない。しかしながら「そのうち」というスタンスの包含する範囲はとても広く、目標や明確なビジョンという直線的で外れてはいけないルートというより、ぼんやりとした森の中に漂うというイメージがある。ぼんやりとはしているが歩き続ける、目指す先は見えずとも進む。道から外れたり寄り道したりすることによって違った景色が見える、小道が交わるのが分かる、近くに川が流れている音が聞こえるなどということに気付き、道は確固としたものとして私の後方にできていく。

長男にいつかどこかで会える日もこの後方にできる道の見えない先にあるのであろう。「そのうち、そのうち」また逢う日までそのうちに。

※2年間連載を努めさせたいただいた“ぎふ発・子育て生活情報誌「にらめっこ」”への連載はこれにて終了となります。機会を与えて下さったすべての皆様に感謝申し上げます。


MASA:若者をはじめ、障がい者も一緒になって、ごちゃまぜイノベーションを目指している。知的障がいのある息子は享年24歳で2021年2月27日に旅立った。関市在住。





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