vol.218 生命力あふれる土の物語


簡単でスゴイ「土ごと発酵」
まず、作物の茎葉や残渣、雑草などをそのまま発酵素材として活用。田畑にある有機物をその場所で活かすやり方だから、運ぶ手間もかからず、とっても小力的です。
通路に摘葉した葉を置きその上から米ヌカをふる。収穫後に、ワラや収穫残渣の上から米ヌカをふる。すると、白いカビ(糸状菌)がビッシリ生えてきます。米ヌカは微生物が利用しやすい養分やミネラルが豊富で、残渣などとともに土の表面・表層に集中的に施すことによって、微生物相が劇的に変化し、田畑が糠漬けの床のように発酵の場に変わります。発酵の過程で微生物は、エサとして土のミネラルを溶解・吸収します。土は微生物のすみかであるとともにエサにもなり、こうして土全体が発酵する。だから「土ごと発酵」なのです。
土ごと発酵によって、有機物や土のなかの溶けにくい成分、ミネラルが有効化し、これに微生物がつくるアミノ酸なども加わり、作物は健全に育ちます。だから肥料はなくていい。健全で病気に強いだけでなく、個性的なおいしさも生まれる。土ごと発酵は、簡単でスゴイ!!
ウネは壊さずに不耕起とし、収穫後のウネの上に残渣を盛り、その上からボカシや山草をおいて発酵させます。


微生物が土の粒子を活性化し、団粒化をすすめる
土ごと発酵では、微生物が「土を食べて」ミネラルを溶解・吸収するとともに粘土などの土の粒子を活性化し、さらに活性化した土の粒子をパワーアップした微生物が結びつけ、団粒がつくられるようです。
「よい土では、養水分が『回流』する」と、農業環境技術研究所の樋口太重氏が指摘をしています。樋口氏は、土における養水分の流れを、人体の血の流れにたとえて、血流の悪化が脳溢血など各種の疾患を招いているように、土の健康度を血流ならぬ回流のよしあしからとらえようというわけ。
畑の養分過剰は、「回流」の低下が原因
石灰やリン酸など、養分が過剰に溜まっている畑では回流が弱まっているからと言われます。血の流れが悪くなると、血圧を上げてすみずみまで血を流そうとしますが、その時、血液に圧力(力学的ストレス)がかかり、その結果、血そのものがさらに流れにくいドロドロになる。つまり、血液の流動性の低下が高血圧を招き、高血圧が一層血流の流動性を低下させるという悪循環が、事態を悪化させていく。これと似たようようなことが、肥料が過剰に蓄積する過程で起こっているのではないだろうかと、樋口氏は土壌のEC(肥料濃度)の上昇は、回流を悪くする方向に働くと指摘しています。ECはいわば血圧に相当する。これが高濃度になると回流が低下し、その結果ますます肥料濃度が濃くなり、それが一層回流を停滞させる。通気性が悪ければ、発酵にかかわる微生物も貧弱になり団粒形成も進まない。肥料効率が悪いうえに根の活力・吸肥力も弱い。こうして養水分は回流せず、肥料が化合物として溜まっていき、一部は流亡して地下水を汚染することになる。
今、畑に求められていることは、土を団粒化して、水や空気を保持しやすくすること。土壌微生物層を豊かにすることですね。

土ごと発酵を通した、作物―土―作物の循環
残渣の利用で大切なのは乾燥させてからすき込むこと。生で水分の多い状態では発酵ではなく腐敗のほうに進んで行きます。そして「残渣を十分に乾燥させると、脱水していくなかで「死物寄生菌」である「体内菌」が目を覚まし、発酵をはじめる」。ここでいう体内菌とは、こうじ菌、納豆菌、乳酸菌、酵母など発酵で活躍する菌ちゃんたちで、その発酵を促進してくれるのが米ヌカ。そして、この体内菌は土ごと発酵を通して作物から作物へと引き継がれていくんです。土ごと発酵のやり方は田畑、農家、地域により多様で、そこから生まれる作物もまた多様です。それぞれに個性的な作物と、微生物も小動物もミミズもたくさんいる生命力あふれる土の物語は、農家を元気づけ、私たちを惹きつけることになります。

「菌ちゃん野菜応援団」でいつもコラムを書いてくださっている菌ちゃんアドバイザーの各務 亜紀さんは随分前から「土ごと発酵」を実践されています。その驚く効果を取材しました。

戦後、農薬と化学肥料を使う慣行農法が主流になったので、土の生命力が落ちてしまった。農薬と化学肥料は微生物を殺してしまうから。現代社会も、殺菌、滅菌、抗菌、除菌とどんだけ菌ちゃんを避けてるんだ?と思います。また、昔の人は落ち葉を集めたり、肥溜めを作ったりして有機物を堆肥にしてから土に戻していました。自然と共生していたんですね。
土ごと発酵は、土に生ゴミを入れて、そこに米ぬかを入れるんですが、米ぬかだけだと腐敗しやすいので、いい菌ちゃんがいっぱいいる状態のぼかしを使います。大きめのポリバケツに生ゴミと塩を入れて、漬物のように嫌気発酵させます。それを土に入れると、土の中で分解が始まります。生ごみの発酵、分解の過程を土の中で行うので、「土ごと発酵」なんですね。土ごと発酵することで、土中に有用微生物が増え、その結果、団粒構造の土ができ、野菜が元気に育ちます。

驚く効果
キャベツ:甘い ブロッコリー:苦味がないスッキリした味。きゅうり・人参:くさみがない。そして何より野菜に虫がつかなくて美味しい!
害虫が来にくい。益虫とちゃんとバランスをとってる。益虫はカマキリとかてんとう虫とか、蜘蛛とかね。そういう虫たちが増えていく。いらない命というものはこの世にはひとつもありませんから。